第5話 楽しい楽しい鬼ごっこ!
次の日。
「おはようございます、シュシュさん!」
「なんでいるんですかぁ!?」
そのまた次の日。
「今日はどこへおでかけですか? ついて行ってもいいですか?」
「よかないですよ! トッティ出番です!」
「ウァアッ!」
「あたぁっ!」
またまた次の日。
「シュシュさーん、こんにちはー! 今日もいいお天気ですねーっ!」
「ひぃっ……また出たぁ……!」
シュシュさん(とトッティ)にこっぴどく追い返されても、めげずにアタックすること、早3日。
「ぜぇっ、ぜぇっ……これ、いつまで続けるんですか? シュシュがこんなに疲れてるのに鬼畜すぎますね、鬼ですか……?」
「鬼ごっこしてるし、ある意味そうかも!」
「どっからその体力が出てくるの……スタミナありすぎですぅ……」
「からだが頑丈なのが、唯一の取り柄です!」
「ふぇぇ……もぉ歩けなぃぃ……」
「おっとと! 大丈夫ですか?」
3日かけて街中をまわっていた鬼ごっこも、シュシュさんがふらついたことで終了。とっさに腕を引いて、地面へ倒れ込むのを回避した。
「おんぶしましょっか。テントまで送りますよ」
「んむむ……そういう作戦ですか」
ひざをついて、背中を向けるけど、シュシュさんは不審がって、なかなかおぶわれようとはしない。
「変な意味はないですって! おかしいなと思ったら、叫んで憲兵さん呼んでもらっていいですし!」
「……そうですね。べつに大金持ちなわけでもないシュシュを背負って、あの丘をのぼろうとする物好きさんは、ただのドMさんだけでしょうし」
ひとつ息をついたシュシュさんが、トッティの植木鉢を背負い直し、てくてくと、こっちへ。おっと、これは。
「いいでしょう、背負われてあげます。変なことしやがったら、トッティとめっちゃ絶叫して鼓膜パァンさせてやりますので、そのつもりで」
「あはは……了解でーす」
ちょっと物騒な言葉が聞こえたけど、一応信用してくれたってことで、いいのかな?
背中に体重がかかり、よいしょっ。地面からひざを離すと、すっと腰が上がった。
「シュシュさん、軽すぎじゃないですか。羽みたいです」
「シュシュがひょろっちぃって言いたいんですか」
「まさか! おなかいっぱい食べてますか? そうだ、こんど僕とミートパイを食べに行きませんか?」
「カスタードパイのほうが好きです」
「あははっ」
「な、なんですかいきなり……」
「そっかぁ、カスタードパイが好きなのかぁ……シュシュさんが好きなものを知れて、うれしいな」
「…………」
テントのある丘まで、歩きはじめたばかり。
その道すがら、なにげない会話を楽しもうかと思ったんだけど、シュシュさんが早々に黙りこくっちゃって。
「どうかしました? あっ……そうだトッティ! 僕たちだけおいしいもの食べてたら、ずるいですよね。トッティの好物ってなんですか?」
「……『ポット・トレント』の栄養源は、きれいな水です。1日1回、朝に水やりをします。あとは魔力の代謝を高めるために、日光浴もさせます」
「へぇ、ごはんが水だけって、ずいぶんエコなんですね」
「そうです。なのではじめてモンスターを飼う初心者さん向けのペット・モンスターなんです。ちなみに『ポット・トレント』は仲良くなると、枝に成ったおいしいリンゴをプレゼントしてくれます。お仲間の『ポット・マンドラ』は、上手に歌ってくれます」
サク、サク。
みじかく切りそろえられた芝生をふみしめる感触が、心地いい。なんか、胸のあたりがほわぁってする。
それってたぶん、僕の一方的な呼びかけじゃなくて、シュシュさんも応えてくれてるから、なのかも。