第3話 見つけた
なくしたお金がもどってきた。
てっきり落としたものとばかり思っていたんだけど、じつは盗られていたらしい。
信じられない気持ちのまま、駆けつけた憲兵さんたちにつれて行かれるおじさんの丸まった背中を見送った。
もちろん、ミートパイを食べに行くなんて気にもならなかった。
ひょっとしたら、おなかが空いていたことすら忘れていたかもしれない。
それくらい、ふわふわとした夢見心地で……目が離せなかった。
「……やっと、見つけた」
ビビビッときたんだ。
あの子は、僕の『運命のヒト』だって。
──だったら、僕がやるべきことは、ひとつだ。
「あの! 僕をしもべにしてください!」
「…………はい??」
* * *
雲がながれて、見上げた空は、いつの間にかオレンジ色。
リンゴンのシンボル、時計塔を一望できる小高い丘の上に、小柄な影を発見だ。
カンッ、カンッ、カンッ。
ひとけのない街はずれ。テントを張っていたシュシュさんは、ほっそりした肩を落として、何度目かわからないため息をつく。
「しょんもり……」
夕焼けにとけ込むオレンジの頭に生えた双葉みたいなバンダナも、へなへなとしおれてる。
「元気がないですね」
「そりゃあ、ラブリィちゃんとのおわかれは寂しかったですもん……でもこれはお仕事。しょせんシュシュはいっときのしもべなので、しかたないんですぅ…………んっ?」
芝生に釘を打ち込んでいたシュシュさんが、ガバッと顔をあげた。
「こんにちは! じゃなくて……こんばんは? 夕方ってどっちのあいさつがいいんですかね」
「キミは、スられたことにも気づかない地味地味のほほんボーイ!」
「あはは、よく言われます。スられたのははじめてだけど」
「くっ……まいたと思ったのに、またシュシュのあとをつけてきたんですか!? 地味地味なのにストーカーですね! このっ、このっ!」
「わーっ、わーっ! 落ち着いてください!」
危ない危ない!
ペグ打ち用のハンマーをブンブンふり回されて、あわてて飛びのいた。
「まさかとは思いますけど、なにしにきたんですかね!」
「僕をあなたのしもべにしてください!」
「やっぱりー! そのよくわかんない『就職希望』は、キッパリおことわりしたはずです! ってゆーか、シュシュが募集してたのは求人じゃないです、お仕事です! これを見なさい!」
どーん! と胸を張ったシュシュさんが、そこに縫いつけられたオーバーオールのポケット部分を指さす。
ライトブルー生地にレモンイエローの糸で、『お仕事募集中! モンスターさまのごはんにおさんぽ、なんでもござれ!』と刺繍されている。
そのまわりを、星や旗のかたちをしたバッジでデコレーションしてるから、ポップな広告だなぁと感心する。
「ちゃんとお礼をしたかったんです」
「スリおじさんを撃退したのは、ラブリィちゃんです!」
「シュシュさんのビンタもすごかったですよ!」
「スリ現場を目撃して、執念で追跡したラブリィちゃんのお手柄のおかげです! みつぎものならラブリィちゃんによろしくです! まぁキミみたいな怪しいヒトに、ラブリィちゃんのおうちの住所は教えませんけどねっ!」
「ラブリィちゃんにも感謝してるけど、僕はシュシュさんとお話したいんです。とりあえず話を……」
「やだぁーっ! こないでーっ!」
シュシュさんが叫んだ、そのときだった。
バチィンッ!
伸ばした右手に、激痛がはしる。