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第2話 なんかお財布が戻ってきました

「んふっ、元気いっぱいでいいですねぇ、すごくいいです」


 はずんだその声は、小鳥がさえずっているかのよう。

 人だかりのなかから、ひょっこりと、小柄で細い子が出てくる。


「おさんぽしてもらって、シュシュもとってもうれしいですぅ。るんるんっ」


 服装は、ライトブルーのオーバーオール。ダボダボで、足首のところですそをまくっている。

 クセの強いオレンジの髪は、目もとまで隠したマッシュヘアーで、どんな顔だちをしているのかはわからない。

 その子がスキップをするたび、頭のてっぺんでリボンをむすんだ若葉色のバンダナが双葉みたいにぴょこぴょことゆれるのを、ポカンとながめる。


「くそっ! おいヒョロヒョロ坊主! そのデブモンスターのせいでひでぇ目にあったじゃねぇか! 飼い主なら責任とって謝れよ!」


「はい? ヒョロヒョロボウズじゃありません、シュシュにはシュシュって名前があります。てゆーか、デブモンスターってだれのことですか?」


「そこの! 白黒くそネズミ以外に! いねーだろがっ!」


「サイッテー!」


「げふぅっ!」


 起き上がり、顔を真っ赤にして怒るおじさんだけど、横っ面にビンタが直撃。鼻からぺしゃり、と地面に二度目のこんにちは。


「白黒くそネズミ? 違います、ウシ×ネズミ型ペット・モンスター『モーモット』です! ぷよぷよのおなかと背中にあるハート型の黒ぶちもようが、ラブリィちゃんのチャームポイントなんですよっ! そこにいるだけでプリティー・チャーミングなラブリィちゃんに悪口なんて、許すまじ……激おこプンプンですっ!」


 びっくりしたことに、おじさんをビンタでふっ飛ばしたのは、オレンジマッシュの子──シュシュさんだった。

 頭に生えた双葉みたいなバンダナも、ピンッ! と伸びている。子猫が威嚇するときのしっぽみたいだ。


「そもそも! シュシュはラブリィちゃんのしもべです! 飼い主なんて頭が高い、おこがましい!」


「は? しもべ??」


「ラブリィちゃんのオモチャになることはあっても、ラブリィちゃんに命令する権利なんてシュシュにはありません! かん違いしてもらっちゃ困りますです! むんっ!」


「飼い主じゃねぇなら、おまえはなんなんだよ!?」


「そんなこともわからないのですか。フッ……いいでしょう。シュシュはやさしいので、教えてあげます」


 腰に両手をあてたシュシュさんが、ぐっと胸をそらして言う。


「われこそは、モンスターさまのお世話をするシッター、人呼んで『モン・シッター』! どやぁ!」


「いや、知らねぇし、なんだそりゃ」


「なぁんですってぇええ!!」


 おじさんだけじゃない。さわぎを聞きつけてあつまった人だかりからも、「知ってる?」「さぁ?」とかいう声が、ちらほら聞こえてくる。


「モンスター使いなら、ふつう『調教師(テイマー)』だと思うだろがよ」


「ノンノンノン! 違います! ぜんっぜんちーがーいーまーすぅ! 適当なこと言わないでもらえます? 失礼なヒトですねぇ!」


「モォッ! モォオウッ!」


「ごふッ!」


 そうこうしているうちに、鼻息荒く駆け出したラブリィちゃんが、起き上がれずにいるおじさんの背中にヒップドロップを炸裂させた。

 当たり前だけど、おじさん撃沈。口から魂が出かけてる。


「キャー! さすがラブリィちゃん! かわいいのに強いだなんて! ステキですぅっ!」


「モウ」


「ぐふっ……悪を成敗した勝利のハグですね。シュシュごときにありがたきしあわせ……つつしんで、ハグさせていただきますぅ……エヘヘ」


 どこをどうしてもみぞおちにタックルを食らったようにしか見えないんだけど、デレデレと口もとをゆるめたシュシュさんは、飛び込んできたラブリィちゃんを嬉々として抱きとめている。


「変わった子だわね……」


 その一方で、街のヒトたちは苦笑いをうかべていたけど。


「ふぅ……これで一件落着ですか。どなたか憲兵(けんぺい)さん呼んできてもらえます? そこのおじさん、つれてってもらわないとです」


「なんだって? どういうことだい、ぼっちゃん」


「だから、シュシュの名前はシュシュですってば……むぅ、もういいです」


 人だかりのうちのひとり、思わず声をあげた通行人のおばさんにため息をついてから、僕を指さすシュシュさん。……ん? 僕?


「そこのヒト」


「……へっ?」


 なにがなんだか混乱してきた僕をよそに、細い指が、散らばったままの金・銀・銅貨へうつった。


「このお金、キミのです。で、そこのおじさん、スリです」


 街で起きたひと騒動。

 まさかの結末が待ち受けていただなんて、だれが予想できたと思う?

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