表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/19

第1話 しもべにしてください! えっ、ダメ?

 年齢イコール苦節歴16年。

 どこにも行くあてがなくて困っていた僕だけど、さいっこうの『就職先』を見つけました!


「あなたのしもべにしてください!」


「えっと、頭だいじょうぶですか?」


 街から街へと旅をしてきて、やっと……やっと見つけた『運命のヒト』だったのに──


「シュシュはいま、ラブリィちゃんのオモチャ役でいそがしいんです」


 白い毛並みにハートの黒ぶちもようの『ラブリィちゃん』をだっこした『運命のヒト』が、トドメの一撃。


「モンスターさまならともかく、ヒトさまはお呼びでねぇってことです。つまりおことわりです、お・こ・と・わ・り!」


「うそぉ~っ!?」


 おことわりされました。それも2回。



  *  *  *



 さかのぼること、十数分前──


 淡いブルーの空をバックに、時計の長い針、短い針が、ピタリとかさなった。


 ゴーン、ゴーン。

 ぐぅ~、ぎゅるる。


 頭の上でひびく鐘の音と合奏(セッション)して、おなかの虫がけたたましく鳴いたときは、笑っちゃったよね。


「いい天気だなぁ。風もおいしいな、香ばしくてスパイシーで……くんくん……これはミートパイとみました。カリッカリの焼きたて生地! 口のなかでじゅわっとあふれる肉汁!」


 頭でっかちな時計塔が振り子をゆらして、午後のはじまりを街のみんなにしらせている。

 そんななか、時計塔の足もとでもだえている愉快なだれかさんとは、なにを隠そうこの僕です。


「あぁ、この街にきたからには、ぜひともお目にかかりたかったです……リンゴン名物、焼きたてミートパイさん。でも無理か、だって20ペイだもの!」


 所持金が。バッグの底に落ちてたなけなしの全財産じゃ、ミートパイをひときれ買うのに、230ペイも足りない。


「『働かざる者食うべからず』……だけどその前に『おなかが空いて力が出ない』って名言がありましてねぇえ!」


 要するに、ピンチというやつです。

 まぁ、はじめてやってきたリンゴンの街にはしゃいで、うっかりお財布を落としちゃった僕の自業自得だよね……と、しょんぼり肩を落としたときだった。


 ぴゅーんっ!


「あれっ、いまなにかが目の前を横切った気が……」


 あと気のせいじゃなかったら、僕のお財布に似たものが見えたような。


「っていうか本物ーっ!」


 見間違いじゃなかった。僕のお財布が、地面すれすれを猛スピードでかけずりまわっていたんだ。

 というと語弊(ごへい)があるけど、お財布に足が生えたわけじゃない。断じてない。


「ンムム、ムモモモモ!」


 まさかのまさか。白に黒ぶちもようの毛並みをしたネズミ型の生き物が、ぽてっとしたおなかにお財布のひもを引っかけていたんだ。

 ネズミ型だけどけっこう大きい。ヒトの赤ちゃんくらいのサイズはありそう。


「なんだあのモンスター!? はじめて見る……じゃなくて! 追いかけなきゃっ!」


「モッモッモッ! モォオオオウッ!」


 ハラペコだなんて言ってる場合じゃない。


「まって白黒ネズミさん! 僕のお財布返してぇ~っ!」


 あっちこっちかけずりまわる白黒ネズミ型モンスターを追って、僕も坂をころげ落ちるようにメインストリートへ駆け出した。

 やがてかけっこの舞台は、にぎやかな商店街へ。


「すみません! ちょっと通りま……」


「きゃあっ!?」


「うわーっ! なにも見てませんごめんなさーい!」


 白黒ネズミさんがものすごいスピードで道のど真ん中を突っきったとき、その突風で、果物屋さんの前を歩いていた女の子のスカートがめくれ上がった。


 悲鳴をあげてスカートをおさえる女の子。

 かかえていた紙袋からバラバラとこぼれ落ちるリンゴ。

 あわてて目をつむりながら、手をめいっぱい伸ばす僕。


「よっ、ほっ、はっ……っとと!」


 右手にひとつ、左手にひとつ、残るひとつは右手で受けとめたものの上にのっけて。

 落ちたリンゴはみっつだったと思うけど……もつれた足を立て直して、そろり、と目をひらく。


「よかった、ぜんぶ無事だ。はい、どうぞ」


「えっ? あ、こちらこそ、ありがとうございます……?」


 女の子がかかえている紙袋へリンゴをもどして、ペコリ。

 そうしたら女の子だけじゃなくて、なんかまわりのヒトからもすごく視線を感じたんだけど、これって。


「ごっ、ご迷惑をおかけしてすみません~っ!」


 カァッと顔が熱くなって、猛ダッシュで走り出す。

 恥ずかしい! 浮かれてお財布を落としちゃっただけでも恥ずかしいのに、関係ないヒトまで巻き込んじゃうなんて!


「はやく返してもらわないと……って思ったそばからぁ!」


「モモモモ、ンモォオオオ!!」


「ひぃっ! またおまえか! 来るな来るな……あひィッ!」


 相変わらず商店街の大通りを爆走していた白黒ネズミさんが、ついにやってしまいました。

 道行くおじさんに激突したのです……!


 はね飛ばされ、顔面から地面とあいさつをしたおじさんのまわりに、ジャラジャラ、ジャラリ。キラキラしたものがぶちまけられる。

 大きさが違う、金・銀・銅貨だ。


「だだっ、大丈夫ですか!? 立てますか!?」


 これには血の気が引く思いで、倒れ込んだおじさんへ駆け寄る僕なんだけど……


「ラブリィちゃんみーっけ! ですぅ」


 ふいに高い声がひびいて、おじさんに肩を貸そうとした手が、ピタリと止まる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ