剣術指南1
先日決まった通り、俺はメリユースの兵士達を鍛えるために王城に来ていた。
メリユースの兵士達が使う訓練場はかなりしっかりと作られており、この国に属するほぼ全ての兵士はこの場所を使う。
だからといって全員が同時に使用する訳では無いが、それでもかなりの大人数が一度に集まるのは間違いなく、こうして訪れたが既にかなりの人数がその場に居た。
俺の両腰にはサギリとグラムが掛けられている。訓練用の剣を使おうか迷ったが、やはりこの2人? を使うことに決めたのだ。
「よく来たなラクリィ」
訓練場に入ってきた俺に気が付いて声を掛けてきたのはレイラさんだ。
「それじゃあ兵士達に紹介するから来てくれ」
「分かりました」
俺はレイラさんに連れられて訓練場にある壇上に立つ。
レイラさんの号令で兵士達が一斉にこちらを向き、その隣にいる俺に注目が集まった。
こうして兵士達を見ると、知っている顔もチラホラ見える。話をしたことは無いので、本当に顔を知っている程度だが……
「貴様らをもっと鍛えるために今日からこいつに来てもらった! ラクリィ自己紹介を」
「ラクリィだ。今日から剣を見させてもらう。よろしくたのむ」
俺とて久々に剣を振るのでどこまでやれるか分からないが、ここで弱気に出ると外部者ということもあり舐められる可能性がある。それはこうして任せてくれたキャロルにも申し訳が無いので、ここは強気に出ておくことにした。
だが、それでもやはり中にはいるようで、典型的なのが前に出てくる。
「レイラ様、俺は納得ができません。いきなり出てきた奴に剣の指導をさせるなど……名前も知らない奴が俺よりも強いはずがありません」
「……レイラさん、あいつは?」
「ギュンターといって、若手の中では最も実力がある奴だ。最近些か調子に乗っているので私も困っている。そうだな……」
ギュンタ―という男は確かに若く身体もしっかりと作られている。だが、見て分かるように少々厄介な性格をしているみたいだ。
相当なことならばまだしも、この程度のことで上官、それも軍部のトップであるレイラさんに意見するとは、この先大丈夫だろうかと心配になる。
ただ、レイラさんも最初は呆れた顔をしていたが、まあいいかと何かを思い付いたような表情になる。
「ギュンタ―、貴様は納得できないんだな?」
「はい!」
「ならばラクリィと模擬戦でもしてみろ。もし貴様が勝てたなら小隊を任せてやる」
「それは本当ですか!?」
「ああ、二言はないさ」
小隊を任せる……つまりは小隊長になれるわけだ。一般兵と比べると相当の昇格であり、ギュンターは驚きと喜びも混じった表情を浮かべている。
「……負けても知りませんよ?」
「ありもしないことを……」
小声でレイラさんに言うと、同じく小声で返してくる。俺が負けるとは微塵にも思っていないみたいだ。
高い評価をしてくれているのは嬉しいが、レイラさんが知っている時とは実力に雲泥の差がある。あまり期待されても困るのだが……
まあどのみち、ああいう奴がいるのならば何処かで実力は示さなければならない。とりあえずやれるだけやることにしよう。
俺が壇上から降りると兵士達は訓練場の壁際まで掃けていき、真ん中には俺とギュンターが残る。
「それじゃあ頼むなサギリ、グラムは俺が怪我をした時に頼む」
(ラクリィに喧嘩を売った奴には負けません)
(なるべく怪我はしないでね?)
サギリはやる気を漲らせており、グラムは心配をしてくれている。
サギリとグラムと会話をしている間にギュンターも剣を構えて準備は出来たようだ。
「それでは始め!」
レイラさんの合図と共にギュンターが突っ込んでくる。
「どうして呼ばれたか知らないが、その鼻っぱしをへし折ってやる!」
挑発するように笑いながら突っ込んでくるギュンターの速度はそれなりに早い。
もしかすると一般的に見ればかなり早いのかもしれないが、如何せん戦っていた環境のせいか脅威には感じない。
上段から斬り込んでくるギュンターの剣を軽く躱す。
かなりのブランクがあるのでどうなるかと思ったが、体力だけは落とさないようにしていたので身体はしっかりと動いてくれる。反射神経も衰えは感じるが、多少なので数日剣を振れば元に戻せるかもしれない。
軽く躱されたことが癪に障ったのか、ギュンターは続けて何度も剣を振り仕掛けてくるが、残念なことに当たりはしない。
少しの間そんなことが続いていると、段々とギュンターの息が切れてくる。この程度でスタミナが切れるのははっきり言って残念だ。
剣筋は悪くないし、速度もそれなりにあるが、強者と呼べるレベルではない。
俺自身がどの程度やれるのかも確認できたし、そろそろ終わらせることにする。
俺が反撃の姿勢を見せると、ギュンタ―は受けの体勢に入った。剣の軌道を見てガードするみたいだ。
当然それは間違いでは無い。が、ここまで戦って分かったが、それを出来る程俺とギュンターの実力は近くない。
俺が三度剣を今出来る最高速度で振ると、ギュンターはそのどれもを見切ることはできずに、三撃目で俺が剣を首に添える結果となった。
三撃目で分かるように止めたが、前の二つもガード出来なければ致命傷になっている攻撃だ。
つまり、ギュンターはこの一瞬で三度死んだことになる。
「ま、参りました……」
「勝負あり! 勝者、ラクリィ!」
項垂れるように降参したギュンタ―を見て、レイラさんが勝敗を告げる。
周りで見ていた兵士達からは拍手が起こり、どうやら俺の実力は無事に認められたようだった。