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ミストライフ~AFTERSTORY~  作者: VRクロエ
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提案

続けての投稿になります。

 俺のフィオンは久しぶりに王城に足を運んでいた。

 少し前までは、特に何かをするでもなく、キャロルやイルミア、サレンさんとレイラさんを交えてお茶などをしていたので来ていたのだが、最近はあまり足を運んでいなかった。


 特に何かをしていた訳では無いが、ただ単にフィオンと平和になった世界でまったりと過ごしていたのだ。


「いらっしゃいフィオン、ラクリィさん」


 いつもの部屋に付くと、キャロル達といい匂いが出迎えてくれる。

 既に全員揃っており、紅茶やお菓子なども準備がされていた。


 俺とフィオンはソファーにつき、他愛ない雑談をする茶会がスタートした。


「お2人は最近どうですか?」

「私達はまあ家でのんびりしたり、孤児院に顔を出したりといった感じだな。特に変化は無いよ。私個人で言うならば、偶に研究室に顔を出したりしてるがな」

「俺もまあフィオンと変わらずだな。そっちこそどうなんだ? イルミアもかなり忙しそうに動いてるって聞いてるが」

「少し、厄介事が起きてる」


 イルミアは孤児院に偶に足を運んでいるみたいで、タイミング的に一緒になったことは無いが、ルコやミールからイルミアの話は聞いている。


 ここ最近だと、先程も言った通りかなり忙しく動いているみたいで、何かあったのか気になっていたが、やはり厄介事が起こっているみたいだ。


「掻い摘んで説明するとだな、五芒星の残党が、勢力を拡大してきているみたいだ。こうして平和になった今でも何かよからぬことを託らむ奴らはいるらしい。私とサレンで指揮を執って当たっていたのだが、かなりの規模になっているみたいで手に負えなくなってきたんだ」



 五芒星の残党……話は少し聞いていたが、それ程までになっていたのか。


 元ミストライフの拠点があった場所を再度整備し、トアンとミシェがそういった平和を乱す輩を排除するための組織を作って動いている。

 もしかすると何か掴んでいるかもしれないので、話を聞いてみるのもいいかもしれない。


 トアンとミシェが立ち上げた組織『ミストメモリー』は国とは完全に独立した組織であり、独自に動く軍のような感じなのだが、規模もそれなりに大きくなってきたこともあり、現在世界で生まれる悪意ある組織や人間からはかなり恐れられていた。


「こうして平和になったのに、悪意の芽が消えないのはやるせませんね」


 サレンさんは溜息交じりに呟いた。


 世界から霧と五芒星が消え、平和な世の中にはなったが、使える土地の広がりや絶対的な支配をしていた五芒星と各国の強者が数を減らしたことによって、元々は隠れていた悪意が膨れ上がり、今になって湧いてきている。

 当然、強者が減った世界ではその抑止力も減っている。何とか大きな事件は起こっていないが、安心はできない状況が長く続いていた。


「物は相談なんですが、ラクリィさん、偶にでいいので剣術の指南をしてみませんか?」

「ちょっと待てキャロル、それはどういうことだ……?」


 唐突なキャロルの提案に、フィオンが声を低くして返す。


「剣の腕という部分でラクリィさんはかなりの強さを誇っていました。今後国を安定して収めていく上で、兵士の強さの水準を上げていかなければいけません。ですのでラクリィさんに兵士達の相手をお願いしたいのです」

「以前に私は言ったはずだ、ラクリィを巻き込むな。私はラクリィにもう人に剣を向けてほしくないんだ」


 フィオンは絶対に譲る気は無いと語尾を強くしてキャロルに言う。


 フィオンの気持ちは嬉しい。俺もフィオンにはもう剣を握ってほしくないと思っているし、厄介なことに巻き込まれてほしくないと思っている。フィオンはもう十分に頑張ったのだ。

 だからこそこうも思う。いざという時にフィオンを、それ以外にも孤児院の子達のことを守れるくらいの強さが無いと後悔する時が来るのではないかと……

 もう剣は随分と握っていない。当然振るうという意味で、サギリとグラムとの話はほぼ毎日しているが、今の俺は剣の腕をかなり落としているだろう。

 だったら、この辺りで一度喝を入れてもいいかもしれない。


 俺は隣でキャロルを睨むフィオンの頭を撫でる。そうしているだけで、もう一度剣を握ろうと思えた。


「分かった……その話受けるよキャロル」

「ラクリィ!?」

「悪いなフィオン、俺を想って言ってくれてるのは分かってるし、素直に嬉しいんだが、このまま平和なことに甘えて、いざという時にお前を守れないのは嫌なんだ」

「その時が来れば私が――」

「俺だってフィオンにはもう戦ってほしくはないんだよ。だけどさ、いざそういう時が来たら俺もフィオンもきっと戦うと思うんだ。俺達は、似た者同士だし。だったら、その時に力が無くて後悔するならさ、多少でも戦えるようにしておいた方がいいだろ?」


 フィオンだって分かってはいるはずなんだ、もしその時が来れば俺が剣を握ることを。分かっていながら、しかしそれを肯定することができない。

 だから少し、ズルい言い方をする。


「全く……ズルい奴だ……私の気持ちを知っていながら……」

「お互い様だろ?」

「違いない」


 フィオンは少しだけ嬉しそうに笑って俺の肩に頭を乗せる。


「そんな訳だ。手が空いている時に来るからよろしく頼む」

「ありがとうございます! それと、ごめんなさいフィオン」

「いいさ、私もキャロルの力にはなりたいと思ってはいた。私の旦那を貸してやる、しっかり返せよ?」

「勿論です」


 少しだけ重い空気にもなったが、そこからはいつも通りの平和な雑談をして茶会はお開きになる。

 こうして俺はメリユースの兵士達を鍛えることになったのだ。

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