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こちら、キッカイ町立図書館フシギ分室・怪奇現象対策課! ~キッカイ町の奇怪な事件簿〜  作者: 牧田紗矢乃
夏だ! 海だ! 怪談だ!!

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第61話 面白怪異バスターなんかじゃありませんっ!

「おはようございます~」


 さも当然のことのように伏木(ふしぎ)分室に出勤してきたのは、アパートの隣の部屋に住んでいる木井(きい)さんだ。

 彼のデスクはないのに、その辺に置いてあったダンボール箱を器用に組み合わせて自分専用の席を作ってしまっている。


「木井さん、このところ毎日伏木分室に顔を出してますけど、本業の方は大丈夫なんですか?」


 聞くところによると、本業のはずの喫茶店「ますたぁきい」は休業の日も増え、週に二、三度だけ夕方から夜にかけてひっそりと開店しているらしい。

 前に見た時にはかなり繁盛していたようだから、それだけ限られた営業となると収入に与える影響も大きいことだろう。


「うちは妻の方が稼ぎが良いですから」


 大丈夫、と言っていいんでしょうかねぇ。と苦笑いしながら木井さんは答えた。

 そういえば、木井さんの奥さんは大人気モデルなんだっけ。

 

「アレっスよね! 伏木分室のことを本に書いて大ヒット飛ばして映画化して、大儲けするっスよね!」

「えっ、じゃあその時はわたしたちのこと焼肉に連れて行ってください。ギャラの代わりってことで!」


 真藤(しんどう)くんと結城(ゆうき)ちゃんに挟み撃ちにされて、木井さんは困ったように笑った。


「本が出るのは早くても半年以上先ですよ」

「マジっスか!? 毎日めっちゃ作業しててそんな掛かるんスか」

「そりゃあねえ、本にするからにはそれなりの内容にしなきゃ……」


 言いながら、木井さんは少しだけまとめている途中のページをみせてくれる。

 そこに書かれていたのは、私たちが最初に直面した大きな事件である「落ちた花弁から滴る血」の情報が時系列順にまとめられた資料だった。


「皆さんがまとめられたレポートも拝読しましたが、やっぱりこれだけじゃ読者は満足しないんですよ。もう少し、ゾクゾクゾワゾワするようなスパイスを加えてやらないと」

「ウソを書くってことっスか?」

「いや、ちょっと盛るだけです」


 木井さんは「ちょっと、本当にちょっとですよ」と繰り返すけれど、それが逆に怪しい。

 私のことを誇張して書いてなきゃいいんだけど……。


 なんて思いながら机の上に無造作に置かれていた資料に目を向けると、「職員K、覚醒。超人的な力で怪異を引きちぎる」とシャーペンで書きなぐられたページを見付けてしまった。

 職員K……絶対に香塚のKだよね。


 んーと、これは?

 ……ふむふむ。夢の図書館の時の資料か。

 たしかに、あの時(すい)さんの本体らしい睡蓮を引っこ抜いたけど……。


「木井さん、私のことを面白怪異バスターにするのだけはやめてくださいね?」


 こんなのが世間に広まったらお嫁に行けなくなっちゃうもん!

 私の訴えを聞いた木井さんは一瞬きょとんとしてから笑い出した。


「わかりました、大丈夫ですよ」


 言いながら、シャーペンを持った手が動く。

 サラサラと書きなぐられたのは「面白怪異バスター」という言葉。

 それを何度も丸で囲って目立つようにしている。


「木井さんっ!」

「大丈夫ですって。香塚さんのことだってわからないようにしますから」


 言いながら、ずっとニコニコしている。

 これじゃあ私が格好のネタを提供してしまったみたいじゃないか。


「こーづかさん、残念っスけど諦めるっス。こーづかさんが面白怪異バスターなのは事実っスから」

「ん……なっ!」

「ほらほら、不毛な言い争いをしてる暇があったら手を動かすわよ! まだまだまとめ終わってない怪奇レポートがいっぱいあるんだから」


 唯一の味方だと思っていた小津骨(おつほね)さんまでこの言いようだ。


「みんなして……! 酷すぎません??」

「あら、真面目一辺倒で面白味のない人間より随分といいじゃない」


 まるで特定の誰かのことを揶揄しているかのような口ぶりだ。


「親父の悪口はやめるっス」

「あら、怜太(れいた)はあの人のことをそういう風に思ってたのね」

「ち、違うっス!」


 慌てたように取り繕う真藤くん。

 でも、真藤剣介(けんすけ)町長は真剣さんのあだ名に恥じない真面目っぷりだからなぁ。

 言いたいことはちょっとわかるかも。


「ほら、さっさと仕事に戻るわよ。みんなで頑張ってキッカイ町の怪異を全部やっつけて、真剣さんをぎゃふんと言わせてやりましょ!」


 いつになく熱のこもった調子で小津骨さんが私たちの背中を叩く。


 そうか!

 キッカイ町から怪異がいなくなれば私は御役御免で予定を繰り上げて図書館勤務の夢が叶うかもしれないんだ!

 そう考えたらさっさとやるしかないよね!


「……あら、香塚さんったらどうしたの? いつになくやる気じゃない」


 小津骨さんが目を丸くしている。

 でも、この思い付きのことを話したら引き止められてしまいそうな気がするから今はまだ自分の心のうちに秘めておこう。


「あっ、木井さん原稿ができたら出版社の人に渡す前に見せてくださいね。私、変なこと書かれてないかチェックするので!」

「香塚さん……それは勘弁してくださいよぉ。ライター業も大変なんです」


 木井さんが懇願してくるけど、そこはスルーで。

 完成した本を読んだ人たちに私が「面白怪異バスター」だなんて誤解されたら嫌だもん。

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