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第7話 元魔王のコーチング

「あんなでかい鳥が小型なんです!?」


 遠い昔に遠足で行った博物館で見た、プテラノドンの骨格標本を思い出す。

 あれと大差ないサイズの鳥が小型ってどういうことだ。


「あくまで()()()だがな。魔獣全体で見れば、あれよりも大型の個体はいる」

「マジか……」


 語彙力も尽きたように呟く。

 ふと思い出し、オレは隣の天の声(ナレーター)に訊ねた。


「ところで、魔獣って何ぞ?」


 魔獣──ファンタジー作品では定番のワードだが、その定義は様々だ。


「魔法を使うと、放出された魔力が周囲の空間に薄く残るの。それを取り込んで突然変異した猛獣の総称が魔獣だね」

「なるほど。魔獣の魔は、魔族の(イビル)じゃなくて魔法の(マジック)なのね」

「そう。あれは《視鷹(しよう)サーヴェイ》……吸引した魔力の影響で巨大化し、かつ視覚が異常発達したタカだね」


 そう言われ、オレは改めて巨大鳥を見上げた。

 ここまで巨体にしか目が行っていなかったが、確かに鳥の目が異常なことに気付いた。

 青緑色の球体のような目が、顔の横側に飛び出すようについている。

 まるでトンボだ。

 詳しくは知らないが、トンボは複眼(ふくがん)という器官で360°全方位を同時に見ることができるんだったか。

 あのオニヤンマ鳥もそんな感じなのかな。

 そのとき、耳に少女の悲鳴が飛び込んできた。

 そうだ、考え事は後でもできる。今は早くあの少女を助けねば。

 魔法を使うべく、オレはサーヴェイなる魔獣に向けて右腕を持ち上げた。

 しかし、そこにドルーオが待ったをかけた。


「待て。魔獣相手に中途半端な攻撃は逆効果だ、一撃で素早く確実に(しず)める必要がある。俺がやろう」


 そう言われると、今のオレにできる自信はない。

 だが、あえてオレは食い下がった。


「いや、これからの旅で魔獣に出会う可能性はいくらでもある。なら今のうちに『どの程度の魔法なら行けるのか』を知っとくべきだろ? オレにやらせてくれ」


 半分は本心で、もう半分は純粋な興味だ。

 転生ボーナスを得て強くなった自分が、魔獣相手にどこまで通用するのかが気になった。

 じっと視線を向けていると、ドルーオはしばし黙考した末に、小さく頷いた。


「分かった。ではまずカイトがやってみて、ダメだったら俺がやることにしよう」

「サンキュ」


 短くそう返し、すぐさま魔法のイメージを始める。

 ゴブリンに向けて撃ち、魚を焼くのにも使った炎魔法なら簡単に使える。

 あのときのイメージから、火力を上げて撃てばいい。

 だが、あの鳥の周りには木々が生えている。

 炎魔法が燃え移って火事にでもなったら面倒だ。


「炎魔法使って『灰になれー!』とか叫んでみたかったけど……」

「Yeaaahhh!!」

(ちげ)ぇよ!! お前に言ってねぇし、あと灰になれって言ったの! ハイになれじゃねぇよ!」


 急に叫んだ天の声(ナレーター)にツッコミつつ、少し考えてオレは草属性の上級魔法を使うことにした。

 下級・中級ならともかく、上級なら中途半端ということはないだろう。

 右手の先に緑の魔法陣を展開させ、カッと目を見開く。


「《草撃・終(ブルーム・ラスター)》!!」


 瞬間、鮮やかな緑色の光が弾け、オレの右手の先から巨大かつ無数の(つぼみ)が飛び出した。

 高速で飛翔したそれらが、魔獣の巨体に殺到する。


「よっしゃ、行け!」


 叫んだオレと、魔獣の視線がぶつかった。

 ひときわ甲高い咆哮(ほうこう)が轟き、大気を震わせる。

 直後、サーヴェイから少し離れた場所で、蕾が花のような形に爆散した。

 ゲーム風に言うと、あの花形のエフェクトにもダメージ判定があるのだろうが、オレの魔法はそもそも届きすらしなかった。

 どうやら、魔獣の咆哮はただの空気の振動ではなく、魔力を(はら)んだ衝撃波のようなものらしい。

 まぁそれは置いといて、


「上級魔法消されたんだけど!?」


 愕然(がくぜん)とするオレの肩を、ドルーオがポンと叩いた。


「いや、威力自体は申し分なかった。属性の相性が悪かったな」

「え……?」

「転生したばかりで慣れていないカイトには難しいだろうが、ある程度の訓練を積めば、他者の魔力を感知し、それがどの属性に近いか分かるようになる」


 その言葉を聞き、オレは目を()らして魔獣を見た。

 こちらを(にら)むオニヤンマ鳥の体表面に、蜃気楼(しんきろう)のような揺らぎがある。恐らくあれが魔力なのだろう。


「まだ感知はできないけど……草がダメだったってことは、あの鳥の魔力は風属性だったってことか?」

「その通りだ。相性の悪い属性の魔法同士がぶつかれば、それぞれの魔力量や純度にもよるが、どちらかが消えるか相殺(そうさい)するか──いずれにせよ同居することはない」

「上手にコントロールすれば、相性悪くても複数属性の魔法を混ぜて発射する、なんてこともできるけどね」

「なるほど」


 ダブルの解説に(うなず)く。

 相性の悪い魔法属性──この場合は、風と草は同居しないということか、勉強になった。

 脳内でメモをとっていると、先代魔王先生が呟いた。


「……さて、だいぶ興奮しているな」


 ドルーオの言葉通り、魔獣はオレの中途半端な攻撃で、先ほどまで以上に(たけ)(くる)っている。

 巨大な翼と鋭い鉤爪(かぎづめ)を振り回し、周囲の木々をなぎ倒さんばかりだ。

 暴れる魔獣を見上げ、ドルーオが静かに前へ出た。


「では約束通り、ここからは俺がやろう」



(つづく)

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