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第3話 冒険のスタート

「嫌だぁぁぁ!! オレはぁっ、お家に帰るぅぅぅううぁぁぁああああああああっっ!!!!」


 後になって思い返してみても、この時ほどの大声を出した記憶はない。

 それほどの大絶叫を草原に響かせたオレに、天の声(ナレーター)が心配そうに声をかけた。


「びっくりしたぁ……え、どうしたの?」

「マオマホ! 来年放送開始なんだよ!」

「は? マオ、マ……え、ちょ、ごめん。何言ってんの?」

「うるせぇ、オタクはアニメと推しのために生きてると言っても過言じゃねーんだよ! うわ、観たい! マジで観たい! 死んでも観たい! 死んだけど!!」


 そうだ、こんなところにはいられない。

 早く帰って放送開始に備えねば。


「えー、キミまだ転生してきて10分も経ってないよ? そもそもどうやって帰るっていうの? 諦めたら?」


 天の声(ナレーター)の無慈悲な発言。それに折れるオレではない。

 好きなコンテンツのためならどんな努力も惜しまない。

 それがオタクというものだ!! 多分、知らんけど。


「……オレは死んでこの世界に来た。……つまり、もっかい死ねば元の世界に戻れるはずだ!!」

「何がどうつまりなのか全然分かんないんだけど……」


 呆れ返る天の声(ナレーター)を無視して、オレは走り出した。

 とにかく今は帰れれば何でもいい。

 他のことはどうでも良かった。


「うおおおおお! 行くぜスーサイドォォォォォォ!!」


 ◇


「ダメだ……! 死ねない……!!」


 30分後、オレは絶望のドン底にいた。

 ここまでで、オレはいま試せる限りの方法で自殺を図った。

 そして、()れなく失敗した。


 プラン1:崖から飛び降りる。→普通に復活した。

 プラン2:川で(おぼ)れる。→川の中で復活したからまた溺れた。

 プラン3:さっきのゴブリン達に「リベンジしていいよ、殺して」って言う。→復活したらバケモノって言われて逃げられた。

 プラン4:自分に向けて思い切り魔法をぶっ放す。→復活したら周りが焼け野原だった。

 プラン5:神に祈りが届くようデカい声で頼む。→なんかすげー(むな)しくて死にたくなった。


 どの死に方でも魂は無事らしく、死んでから4~5秒後には問答無用で復活してしまう。

 ただメンタルが疲弊(ひへい)していくだけだった。魂は無事なのに。


「……なんでこんな強くなっちまったんだよオレ……!」

「そーゆーふうに転生したからだね」


 すっぱりと言い切る天の声(ナレーター)

 おのれトラック運転手め。居眠り運転は危ないって教習所で教わらなかったのか。

 そんな恨み節を胸に、オレは自棄(やけ)になってブツブツとぼやいた。


「つーかゴブリンにバケモノとか言われたし……もーマジ無理リスカしよ……あー、魂ごと生き物ぶっ壊す魔法とかないかなー」

「あるよー」

「あんの!?」


 適当な調子で超重要な返答が来た。

 魂が無事なら蘇生する。それがこの災いの元凶だ。

 ならば魂ごと肉体をデストロイしてしまえば万事解決。Q.E.D.


「どこが証明できてるの?」

「その魔法なんてやつ!? どんなやつ!? オレにも使える!? 何属性!?」

「聞いてないし……」


 マシンガンの(ごと)き質問攻めに、さすがの天の声(ナレーター)もテンション負けしたらしく、少し引き気味の声が返ってきた。


「……さ、さっき言った《魔王魔法》がそうだから、キミには使えないよ。使えるのは現役の魔王だけ……」

「フ、フフフフ……やはりマオマホはオレの希望、異世界でもそれは変わらない……。神アニメは世界を救うんだ……!」

「え、何この人。おーい、どうしたー?」


 隣から訊ねてくるガイドに、いやこの異世界に対して、オレは決意を高らかに叫んだ。


「オレは決めたぜ……魔王に会って喧嘩(けんか)売って、魔王直々にぶっ殺してもらうんだ!!」

「……いや、意味分からん」


 天の声(ナレーター)が何か言っているが、そんなことはどうでもいい。

 (たかぶ)ったテンションそのままに、オレは足を踏み出した。


「首洗って待ってるぞ魔王! 魂ごとぶっ殺されてくれるわぁ!!」

「えぇ……」


 こうしてオレの、ポジティブな自殺願望に満ちた冒険が始まった。



(つづく)

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