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第26話 はたらく勇者パーティー(酒場)

「それじゃあ、今日もよろしくね」


 中年の女性が、リフレと天の声(ナレーター)にそう言った。

 勇者パーティーがアルバイトを始めてから、3ヶ月が経過した。

 カイトとクトは八百屋で、ナッシュとドルーオは剣術教室で、そしてリフレと天の声(ナレーター)はこの酒場兼レストランで働いている。

 今リフレ達の前にいるのは店長だ。


「はい。今日もよろしくお願いします」

「お願いしまーす!」


 リフレの丁寧(ていねい)な、天の声(ナレーター)の元気な挨拶に、店長は顔を(ほころ)ばせた。

 勤務初日からそうだったが、2人を気に入っているらしい。

 ちなみにリフレは、酒場で働くと決まったタイミングで、ナッシュから厳命を受けている。


『お前絶対に厨房には立つんじゃねぇぞォ。弁償(べんしょう)する先を増やすような真似だけはするんじゃねェ』

『泣きますよ……?』


 さすがにリフレも、自分の料理の腕前は自覚している。

 ずっと昔から母をお手本にして練習しているのだが、作る品はどれも草の味になってしまう。

 さすがにそんなものを酒場で提供したら、客が離れて賠償(ばいしょう)することになってしまう。

 そんなわけで、リフレは今ウェイトレス用の制服を着ている。

 隣の天の声(ナレーター)も同じ制服を着ている。2人共ホール担当だ。


『実家が酒場で、昔からよく母の手伝いをしていたので、ウェイトレスなら任せてください』

『私も、人の感情の機微(きび)には(さと)い自信があるから、接客ならばっちりです!』


 初日の2人の言葉を聞いた店長は『お手並み拝見ね』と楽しそうに笑っていた。

 そして、2人は即戦力となった。


「オーダー頂きました。1番卓、シーフードパスタ1、ほうれん草のサラダ1。2番卓、チキンのスープパスタ1にチーズトッピング。3番卓、ローストビーフサンド2、フレンチトースト1、ホットコーヒー3、コーヒーは全員食後です」

「おまたせしました、グリルチキンとサラダスパゲティです。お間違いないでしょうか?」

「すみません、7番卓のマカロニグラタンと12番卓のプリンが(とどこお)ってます」


 慣れた様子で注文を取り、大量のオーダーも正確に連絡。

 完成した料理は客席へ運ぶが、その動作は丁寧(ていねい)でありながら素早い。

 どの順番でどのテーブルからどんなオーダーが入っているかも、問題なく把握。

 14歳にして、既にリフレは一人前のウェイトレスだった。

 そして天の声(ナレーター)もまた、接客に(はげ)んでいた。


「あっ、グラス汚れてますね。すぐに交換します!」

「取り皿とフォーク、どうぞご利用ください!」

「お水のおかわり、注ぎますね!」

「このお野菜が苦手なら、抜きでもご注文いただけますよ!」


 客が頼む前に要望を見抜いて行動している。

 それもどういうわけか、客が内心で望んだ直後に、だ。あまりにも速すぎる。

 人の感情の機微に敏いどころではない、心でも読めるのかと疑いたくなるほどに(すさ)まじい対応を見せた。


「あのウェイトレス2人が来てから、前よりも混み出したよなぁ……」

「可愛いし気も利くし、文句なしだ」


 そんな声もチラホラ聞こえる。

 八百屋でのクトと同じ、2人は立派な看板娘になっていた。

 ──ただ、リフレの仕事はウェイトレスだけではなかった。


 ◇


『おいィ、ちょっといいかァ』


 酒場でのアルバイトが決まった後、ナッシュはリフレに厨房に立つなと厳命した。

 だが、彼がリフレに言ったのは、それだけではなかった。

 厨房に立つな命令で少しシュンとするリフレに、ナッシュは一転して荒々しさが抑えられた口調で言った。


『お前に情報収集を頼みてェ。俺の仕事に関してだ』

『ナッシュさんのお仕事って……前に言ってた、魔王と聖王に会って和平条約を結ぶ……』

『それじゃねェ。俺が抱えてる中で最優先の仕事は確かにそれだがァ、頼みてぇのは別件だァ』


 そこで句切り、勇者は依頼を口にした。


『俺のクソ兄とォ、お前の前任のサポーターの行方だァ』

『え……?』

『クソ兄とォ、クソ兄に追放された前任のサポーターが行方不明になってるゥ。あの2人を見つけんのも俺の仕事の1つだァ』


 酒場は情報が集まりやすい。

 ウェイトレス仕事に慣れているリフレなら、仕事の片手間に客の会話を盗み聞くくらいはできる。


『あと言っとくがァ』

『はい?』

『有益な情報が手に入らなかったとしてもォ、それはお前の責任じゃねェ。気負うなァ』


 兄の尻拭いをするのも仕事だと、以前ナッシュは言った。

 先代勇者によって傷付けられた少女への、ナッシュなりのフォローだった。


『……はい!』


 ◇


 そして3ヶ月間、リフレは聞き耳を立てながら働いてきた。

 だが、これといった情報は入手できていない。

 ポケットから小さな紙を取り出す。

 ナッシュから渡された、前任サポーターの情報だ。


(エクリーさん……ショートカットの金髪と青い目、修道服のような白い服の女性……)


 かなり目立つ容姿だ。

 だが、それらしい人物を見かけたという話は聞こえてこない。


「なぁ、そう言えば剣術教室で、すっげー強い冒険者2人が臨時講師になったんだと」

「バケモンみたいな腕前らしいな」

「もしかして勇者だったりして」

「勇者ねぇ……無能だった先代の弟が現役らしいけど、こっちも無能なのかねぇ」

「無能の背中見て育ったから、案外有能だったりしてな」

「だといいけどな」


 そんな会話が聞こえてきた。

 どちらの実力も知っているリフレとしては、苦笑する他ない。

 ふと、ある人物がリフレの脳裏を()ぎった。


(弟、かぁ……)


 そのとき、運んでいたお盆とグラスが、リフレの手から零れ落ちた。

 考え事をしていて、手を滑らせてしまった。


「……っ、《効果反転(エフェクトリバース)》!!」


 リフレは咄嗟(とっさ)に無魔法を発動させた。

 お盆とグラス、そして床との間に白い魔法陣が展開された。

 魔法陣に触れた現象の効果を反転させる魔法だ。

 落下していたお盆とグラスが、空中で等速で跳ね上がる。

 お盆とグラスをしっかりとキャッチし、リフレは息を吐いた。


(空っぽのグラスで良かった……しっかりしなきゃ)


 安堵と同時に気を引き締めていると、店長から心配そうな声が飛んできた。


「大丈夫かい!? キミがミスなんて珍しい、どこか具合いでも……!?」

「い、いえ! ただの不注意です、すみません!」


 慌ててそう返し、リフレは仕事を再開した。

 だが、


(レッ君、元気かなぁ……)


 頭の片隅(かたすみ)には、先ほどの思考が少し残っていた。



(つづく)

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