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第23話 街到着イベント

 ナッシュ特製の焼き鳥で腹ごしらえをした後──あとオレがリフレに謝った後──オレ達は移動を再開した。

 久しぶりの美味い食事で、パーティー全員が心身共に満たされた。

 味音痴の天の声(ナレーター)やドルーオ、オレに対してキレていたリフレも、1口食べるや夢中になっていた。

 クトに至っては、


「足りねー! もっとくれー!」


 と言って、保存食にする予定だった残りの肉を半分近く平らげていた。

 とまぁそんなわけで、オレ達は美味いものパワーを(みなぎ)らせて進み続けた。

 草原を抜け、森を抜け、また草原を抜け──

 そして夕方、オレ達は、例のそれなりに大きな街に到着した。

 ナッシュはそれなりと言ったが、遠目で見てもリフレの地元の3〜4倍はある。

 大きなアーチをくぐると、先頭を歩いていたナッシュがメンバー全員を振り返った。


「今日はこの街で休むぞォ。この時間ならまだ空いてる宿もあるはずだァ。明後日の朝に出発するゥ、各自必要なものがあったら補充しとけェ」


 伝達と指示に全員が頷いたのを確認すると、ナッシュも短くっ頷き返し、


「じゃあ散れェ」

「解散って言えや」


 オレの声を無視して、勇者はスッタスッタと歩いて行った。

 大きい街ゆえに人通りも多く、あっという間にナッシュの姿は雑踏(ざっとう)に消えた。


「この人の多さだと、早くしないと宿が取れないかも知れんな」


 周囲に視線を走らせて、ドルーオが言った。

 確かに、このメンツだと男部屋と女部屋の2部屋が必要だ。

 クトも入れるならペットOKの宿を探す必要があるし、早く宿を見つけないと、今日も野宿だ。


「なぁクト。お前もオレらと一緒に宿で……いねぇ!?」


 振り向いた先に、二足歩行ウサギはいなかった。

 今までの言動からして、クトは生粋(きっすい)の自由人だ。

 これだけ大きな街なら、興味の向くものなんかそこら中にあるか。


「おーい、クトー? 大事な話あんだけどー」


 少しだけ声を張って呼んでみる。

 周りに人が大勢いるから大声は出せないけど、クトの耳ならこの程度の音量でも拾えるはず。


「ん? 呼んだかー?」


 後ろから、ちょっとくぐもったクトの声が返ってきた。

 一安心して振り向くと、オレは宿の相談をするべく、クトに質問した。


「いや、ちょい待ち。何だそれ?」

「ん? 青リンゴ」


 クトは、両手に青リンゴを持っていた。

 その数2つ。1つは現在進行形で食べている。


「移動中に青リンゴとか採ったっけ?」

「ううん、道中にリンゴの樹はなかったよ」

「……元々カバンに入れてたとかは?」

「わたし達のカバンにはなかったはずです」

「ナッシュのカバンから盗った……とは、考えにくいな」


 天の声(ナレーター)、リフレ、ドルーオと視線を交わしてから、オレは再度クトに訊ねた。


「お前、それどっから持ってきた?」


 クトは口の中のリンゴを呑み下すと、人の多い通りを指差した。

 その先には商店街が見える。


「あっちでオッサンが『美味しいよー』つってリンゴいっぱい並べてたから、もらってきた」

「……お前それお金は払ったのか……?」


 もう既に嫌な予感がひしっひしするんだけど。

 勘違いであってくれ、頼むから無問題であってくれ。

 そんな願いを込めたオレの質問への答えは、キョトン顔と疑問符つきの一言だった。


「……お金?」

「がっつり盗品じゃねぇかクソボケェ──ッ!!」


 はい、泥棒確定演出。

 こいつ時速300キロで青リンゴ盗んで来やがった。


「……もしかして……そもそもお金を知らない、とか?」

「あー……」


 天の声(ナレーター)の言葉に納得する。

 そうだ、人語を介して意思疎通できてるから忘れてたけど、こいつウサギだったわ。もっと言えば動物だったわ。

 動物はお金とか売買とかの人間社会のシステムなんぞ知らないんだった。


「……クト。ちょっとそこに座って?」


 本日2度目のにっこり小首傾げを披露するリフレさんと、それに怯える泥棒ウサギを尻目に、オレ達はため息を吐いた。


「えーと……どうする……?」

「……ひとまず、リーダーの判断を(あお)ぐか」


 こめかみをつねる天の声(ナレーター)とドルーオに頷き、オレは──今度はしっかりと──叫んだ。


「ナッシュゥーッ! エマージェンシィ──ッ!!」


 ◇


 戻ってきたナッシュは、状況を知るや顔をしかめた。

 ていうか、クト以外全員似たような顔してる。


面倒(めんどう)(くせ)ぇなァ……まぁ当然弁償するしかねぇがァ、問題はァ……」

「金額、だな」


 ナッシュの言葉を、ドルーオが引き継いだ。

 天の声(ナレーター)とリフレも渋い顔で頷いているが、


「え、金額がどうしたんだよ? オレら、お金ならいっぱい持ってるじゃん」


 オレ達は魔獣《視鷹(しよう)サーヴェイ》の骨を売って手に入れた7500金貨、日本円なら3750万円もの大金を持っている。

 言い方は悪いけど、言うてリンゴ2個の弁償ならすぐにできるんじゃないか?

 しかし、ドルーオはかぶりを振ると、肩に担いだカバンを軽く叩いた。

 中でぶつかった金貨が、澄んだ金属音を鳴らす。


「いっぱいすぎるんだ。俺達の所持金は膨大(ぼうだい)な上に、全て金貨だ。銅貨や銀貨は1枚もない」

「リンゴの相場って、大体2銅貨くらいだよね」

「こんな極端な所持金だと、わたし達、それこそ大泥棒と疑われかねないですよね……」


 天の声(ナレーター)とリフレが(つな)いだ言葉に、オレは思わず絶句した。

 だがあり得る話だ。

 オレ達の所持金は、一介の冒険者パーティーが持ち歩く金額を優に、というか(はる)かに超えている。

 そんな大金持ち歩くヤツがいるとしたら、セレブか仕事終わりの泥棒くらいだ。


「……魔獣を討伐して骨を換金した後の勇者パーティーって、普通に説明すれば……」

(わり)ぃがあのクソ兄のせいでェ、勇者パーティーの評判はいま地の底だぞォ」

「ふざけんな勇者兄ぃ!!」


 泥棒に間違われるルートでも、勇者パーティーと弁明するルートでも、オレ達はどの道バッシングを喰らう。

 ……ウン、詰んでね?


「どうすんの……?」


 恐る恐る訊ねると、ナッシュは至極面倒そうな口調で答えた。


「金ねぇんならァ、働くしかねぇだろうがァ」

「お金あるのに……」


 こうしてオレ達は、大金を持ちながらも、小金(こがね)欲しさにアルバイトをすることになった。



(つづく)

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