表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/34

第22話 クトとナッシュの実力

 まさかのクト本人も、自分がメスだと知らなかった。

 あー、いや、人じゃないから本人(ほんにん)じゃなくて本兎(ほんと)……あーもう、面倒(めんどう)(くせ)ぇ。


「自分メスって知らなかったのかよ……」

「だ、だって、自分がオスかメスかなんて、あんま考えないじゃん!」


 ……まぁ確かに。

 言うてオレも、自分は生物学上オスだ! って常に考えながら生活とかしていないか。


「え、メスってことは、おれ自分のことおれって呼ぶのやめた方がいい? オ、オイラとかって呼んだ方がいいかな!?」


 途端にクトが(あわ)て出した。

 これまでの常識が音を立てて崩れていくショックに襲われているらしい。

 いや、なんで女性っぽい一人称の候補(こうほ)1発目がオイラなんだよ。

 私か、せめてボクであれ。

 小さく息を吐いて、ドルーオが切り替えつつ話をまとめた。


「……まぁ何はともあれ、魔界に向かいつつカイヌ氏を探すということで、話はまとまったぞ」

「分かりました。クト、一緒に飼い主さん探そうね」

「飼い主さん、見つかるといいね!」

「……うん、そうね。飼い主のカイヌ氏ね……」

「あァー! カイヌシカイヌシうるっせぇわァー!!」


 ◇


 翌日、オレ達は早起きして出発した。


『ここまでの移動ペースで計算するとォ、明日それなりに頑張って進みゃァ、夜にはそこそこデカい街に着けるはずだァ』


 昨日の夜、ナッシュがそう言っていた。

 だから今日は頑張って移動して、そのそこそこ大きい街で休む予定だ。

 

「……んっ?」


 ふと、耳をピクリと動かして、クトが振り向いた。

 視線を彷徨(さまよ)わせつつ鼻をひくつかせると、自信たっぷりに一方向を指差して言う。


「あっちから鳥来るぞ、3羽!」

「あァ? 鳥だァ?」

「そんなもん見えねぇけど……」


 (うたぐ)るナッシュとオレだが、数秒後にはクトが指した方角から3つの魔力を感じられるのだから驚きだ。

 そこからさらに数秒後、オレ達の視界に姿を現したのは、二足歩行の鳥だった。それもしっかり3羽。

 いわゆる鳥人(バードフォーク)ってやつだ。

 見た目は(わし)だが、先頭を走る1羽は長槍(ロングスピア)を握っている。翼の先端を、人間の指のように動かせるらしい。

 オレが元いた世界のウサギも聴覚と嗅覚が鋭いが、疾駆兎(ラピッドラビット)のそれは輪をかけて高感度らしい。

 そのとき、クトが飛び出した。

 鳥人らを置き去りにするスピードで駆け、右手から青緑色の光球を発射した。


「風魔法!? あいつ魔法使えんの!?」

「何言ってんだァ。自然魔法は人族以外に魔獣も使えるぞォ」


 そう言われ、オレはクトの体に意識を集中させた。

 二足歩行ウサギは、風魔法で足止めした鳥人達の周囲を高速で走り回っている。

 クトが描く円環の中で、鳥人は右往左往(うおうさおう)している。クトのスピードに、意識が追い付かないらしい。

 瞬間、クトが円環の内側に切り込み、手近な鳥人にラッシュを仕掛けた。

 高速でパンチとキックを繰り出し、相手の姿勢を崩すや即座に円軌道ダッシュに戻る。

 相手の意識を置き去りにしたらラッシュし離脱する、高速・変則のヒットアンドアウェイ戦法。

 じっと様子を見ていると、クトの体の表面に風魔力を感じた。


「スリップストリーム的な感じか……?」

「スリップ……? なんだ、それは?」


 独り言をばっちり聞かれてた。

 質問してきたドルーオだけでなく、他の4人もこっち見てる。

 まさかファンタジーな異世界に転生して、物理学的な話するとは。


「高速で動く物体は風の抵抗受けるけど、その物体の真後ろの空間は、風の抵抗が少ないだろ? そういう空間とか、それができる現象自体のことをスリップストリームって言うんだけど……」


 自分で説明しといて何だけど、魔法(物理)すぎる。

 前にカートレース系のゲーム(かじ)ってた程度だから、ざっくりとした説明しかできなかったけど、幸い4人は納得してくれたらしい。


「なるほど。体表面の魔力で進行方向の風をどかし、風の抵抗を受けずに加速するわけか」

「へー、器用なことするんだねー」

「考えて動くようには見えねぇがなァ。無自覚にやってんのかァ?」

「意外と考えてやってるのかも知れませんよ? あれで理論派だったり……」

「お前その言い方はフォローになってねぇぞォ」

「……忘れてください」


 薄々気付いてたけど、リフレってフォロー下手だよな。

 傷を治そうとして、無自覚にタバスコ染みたガーゼ使うような感じ。


「終わったぜー! コイツらどーする? 昼メシにする?」


 あっけらかんとした声が聞こえた。

 見れば、クトは既に鳥人を全て気絶に追いやっていた。

 ヒットアンドアウェイって、本当なら時間かかる戦法だけど、クトのスピードならこんなハイペースでやれるのか。


「それじゃあ、お昼ご飯にしましょうか」


 リフレがポンと手を叩いて提案した。

 直後、


「おい待てェ。飯は俺が作るゥ、お前は手ぇ出すんじゃねェ」

「あ……はい……」


 リフレがちょっとだけシュンとしてたけど……すまん、飯の味の方がオレ達にとっては優先事項なんだ。

 例によって《炎弾(ブレイズ・バレット)》で火を起こすと、ナッシュはカバンからを油の入った瓶を取り出した。

 ドルーオが(さば)いた鳥肉に枝を突き刺し、表面に油を塗って、調味料をまぶして(あぶ)る。

 途端、芳醇(ほうじゅん)な香りがオレの嗅覚(きゅうかく)を刺激した。

 唾液(だえき)が止めどなく湧き出てくる。


「ほらよォ、冷めねぇうちにとっとと食えェ」


 焼き立て熱々の肉串が差し出された。

 こんがりと焼き色がついていて、ジュワジュワと音を立てている。


「い、いららきまふ……」

呂律(ろれつ)くらい回せやァ」


 ツッコまれつつ肉串を受け取るや、オレは大口を開けてかぶりついた。

 プリプリの肉は、表面が炙られバリッと香ばしい。

 噛むほどに熱い肉汁が溢れ、スパイスの香気が鼻をくすぐる。

 体の中で()(しげ)っていた大草原が、一瞬で消え失せていくような感覚さえする。


「うめぇええっ!! 久々のマトモな人間の飯だぁぁあああっ!!」


 あまりの感動に、思わず叫んだ──次の瞬間。

 オレの顔の横を、緑色の魔法弾が通過した。

 スーッと感動がどこかへ行くのを感じつつ震えるオレに、手許に緑色の魔法陣を浮かべたリフレが言った。


「美味しいご飯が食べられて、良かったですね」

「……サーセン」


 にっこり笑って小首を傾げる少女に、オレはそれしか返せなかった。



(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ