第10話 元魔王のコーチングその2
「(文字化不可能)~~ッッ!!」
音声には出来るが文字に起こすのは無理。
そんな奇声を発しながら、オレはノロノロ歩いていた。
我ながら緩慢だ、今なら寝起きのリクガメにも追い抜かれる自信がある。
そんなカイトに、リフレが心配そうな目を向ける。
「カイトさん、大丈夫ですか……?」
「ダイ、ジョウヴ……多分、もうちょいで……慣れりゅ……」
オレの体からは、白いオーラが立ち昇っている。
オレはいま、無魔法《超駆》に慣れる訓練の真っ最中なのだ。
リフレを襲った魔獣──視鷹サーヴェイの肉体は、ドルーオの手で解体された。
故郷の村に帰る途中だったリフレに同行し、解体した魔獣の骨を質屋で換金、路銀を確保することにしたのだ。
そして、現時点で運搬可能なギリギリの量の骨を、オレは《超駆》で身体能力を活性化した状態で運んでいるというわけだ。
「確かに重い物を運ぶ以上、素の状態でも歩みは遅くなるからな。不慣れな《超駆》状態でゆっくり運んで魔法に慣れた方が効率はいい、というのは分かるが……」
オレのアイデアに納得し、ドルーオは骨の一部を渡してくれた。ほんの数分前のことである。
そしてその数分で、ドルーオは既に心配そうな顔をしている。
「無理をするな。己を鍛えるのには賛成だが、限界が来たら遠慮なく言ってくれ」
かく言う彼はオレの3倍量の骨を持っているが、その顔には汗1つ浮かんでいない。
「さすが、元魔王……フィジカル、クソ強いな……」
「これでもかなり鍛えているからな。魔族の頂点に立つ以上、強くあらねばいけなかったのだ」
「ドルーオに、鍛えてくれ、とか言ったら……スパルタな感じに、なりそう……」
特に何も考えずに言ったら、ドルーオは小さくかぶりを振った。
「いや、下手に追い込むのは逆効果だ。肉体だけでなく、精神にまで過剰な負荷がかかってしまう」
「精神……?」
「肉体と精神は別でも対でもない。強き肉体には強き精神がついてくるが、逆に精神が強ければ肉体も自ずと強くなる」
いまいち理解できなかった。
スポ根マンガによくある、気合いありきの根性論と似て非なるものだろうか。
「メンタル鍛えたら、体も強くなるってこと……?」
「簡単に言えば、魔力の源である魂を鍛えれば、魔力が強くなる。すると強い魔力の器になるべく、自ずと体も強くなる──って感じだね」
隣を歩く天の声が説明してくれた。
「かなり極端な例ではあるが、心が弱まって魔力の質が落ちると、肉体も一気に弱まることもあるからな。精神に過剰な負荷がかかり逆効果というのは、そういうことだ」
オレが理解しきれていないのを察してか、ドルーオが追加で説明してくれた。
分かりやすいダブル解説に納得していると、途端に体がフッと軽くなった。
上から抑えつけてくるようだった骨の重みも、かなり軽く感じる。
「お……?」
突然のことに目を瞬かせていると、ドルーオが薄く笑みを浮かべた。
「山場を越えたようだな、これでカイトも《超駆》で動けるな」
「おめでとー!」
「やりましたね、カイトさん!」
天の声やリフレも笑顔で褒めてくれる。
これも魔法の力か、世界の見え方が変わった気がした。
「フフフ……ドルーオ、もっとオレに荷物を分けてくれ!」
「構わんが……何度も言うが、無理はするなよ」
「大丈夫だ、今のオレに不可能などァヴァシュッ!」
秒で潰れるマイボディ。
羞恥心に耐えつつ、オレはドルーオに骨の一部を返却した。
ここは元魔王のフィジカルに甘えさせてもらうことにする。
「……そう言えば、リフレってドルーオが元魔王って言ったとき、そんなに驚いてなかったな」
ふと思い出し、隣を歩く少女に視線を向ける。
ドルーオが魔獣を解体する間、オレはリフレにこのパーティーの事情を説明したのだが、ドルーオが先代魔王だと伝えても彼女はそこまで驚いていなかった。
案外肝が据わっているタイプなのかな。
「いえ。白い髪と赤い目を見れば、魔族なのは分かりますし……」
一旦そこで句切り「それに」と前置きしてから、
「それ以前に転生者とか言われたので、そっちの方がよっぽど驚きでしたから……」
苦笑気味に言うリフレに、ドルーオも相槌を打っている。
ドルーオはこれまで200年近く生きてきたらしいが、転生者など見たこともないという。
元魔王ですら知らないって……そもそも異世界ってものが認知されてないのか……?
そんなことを考えていると、隣で「あっ」と声が上がった。
振り向くと、リフレが笑顔で前を指差した。
「見えましたよ、わたしの故郷の村です」
言われて顔を向けると、おぼろげながら村が見えていた。
異世界に転生して、初めての村訪問。
イベントの予感に、自分がワクワクしているのが分かった。
(つづく)




