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第1話 オタク死す

 某県市立園辺野(そのへんの)高校のチャイムが鳴り、教師が授業終了を告げる。

 クラス全員で挨拶するや否や、オレ──伊勢(いせ)カイトは、即座に帰路に就いた。

 大半の生徒が教室や廊下で談笑する中、早歩きで校舎を飛び出す。


「早く帰って、マオマホの予習しないと……」


 そんな独り言をこぼしつつ、オレは早歩きをさらに加速させた。

 我が最推し声優、水竹(みなたけ)碧里(みどり)が主演を務めるアニメ『魔王魔法の魔法少女』、通称マオマホの放送が、来年から始まるのだ。

 人類を(おびや)かす謎の魔物と、それに対抗する魔法少女たち。そして、魔法少女なのに魔物の王の力《魔王魔法》に目覚めた主人公の戦いを描いた作品。

 帰ったら原作小説や設定集で予習するつもりだ。

 忙しなく両足を動かすこと数分、信号待ちに引っかかった。

 スラックスのポケットからスマホを取り出し、オレは電子書籍アプリを立ち上げた。

 慣れた手つきで、コミカライズ版『魔王魔法の魔法少女』1巻を開く。

 原作小説とコミカライズ版と設定集は、紙媒体と電子書籍両方で購入済みだ。

 バイト代は全てマオマホに注ぎ込んでいる。

 液晶の中でページを()っていると、信号が青になった。

 そのまま前に足を踏み出す。

 次の瞬間、横から凄まじい衝撃に襲われた。

 大音響と通行人の悲鳴が、聴覚を支配する。

 そして、全身を走る途方もない激痛を最後に、オレの意識は暗黒に()ちた。


 ◇


 気付けば、そこは真っ白な空間だった。

 壁も床も天井もない。そもそも立っているのか座っているのかも分からない。

 得体の知れない空間と浮遊感に、しかしオレは平然としていた。

 これと似たようなシチュエーションを、オレは何度も見てきた。

 ふと、どこからともなく声が降りかかってきた。

 若かったり、やや年老いていたり、色んな年代の男女の声がいくつも混ざった奇妙な声。


〔我は神である。名前は()()()()

「猫か」


 独特なエコーのかかった声に思わずツッコむ。

 しかし神なる見えない存在は、さらにツッコみたくなることを言った。


〔何を言っている。我にまだ名前がないのではない。我にはマダナイという(ほま)(たか)き名前があるのだ〕

「それ本当に誉れ高い!?」


 どの辺がどう誉れ高いのか、まったく分からん。

 あと誉れ高い高くないの前にすっげーダサい。

 だがそんなことはどうでもいいのか、マダナイなる神は言葉を続けた。


〔それはさておき、貴様は死んだ。居眠り運転のトラックに()かれたのだ〕


 唐突な宣告を受け、オレは次に来るであろう言葉を鮮明に予想できた。

 トラックに轢かれて死に、真っ白な空間で神と対峙。

 これは間違いなく……


〔これより貴様を、我の世界へと(いざな)う〕

「キタ────!!!!」


 思わずフルパワーで叫んだ。

 異世界転生。

 何やかんやあって死んだ陰キャオタクが、異世界に転生して無双するという、ファンタジーもののド定番。

 主人公の死因は様々だが、トラックに轢かれるのは定番だ。

 そして大抵の異世界は、剣や魔法やモンスター、西洋風建築物等で構成されるRPGっぽい世界観だ。

 アニメだけでなくゲームも大好きなオレならば、きっと無双できる!


「輝かしい異世界ライフが、オレを待っているぅううぁぁぁああああああっ!!」

〔うるさい〕

「サーセン」


 怒られた。

 直後、オレの周囲に何かが溢れ出した。

 ドス黒い紫色のオーラだ。

 転生の魔法にしては、やけにおどろおどろしい。

 なぜか闇魔法チックなオーラに包まれ、オレは思わず後退(あとずさ)り──


〔……あっ〕

「おいコラちょっと待て」


 なんだ今の「あっ」って。

 上がりに上がったテンションが急に下がった。嫌な予感しかしない。

 問い詰めようとした次の瞬間、足許の空間が開けた。

 浮いている。宙に、と言うか上空50メートルくらいの高さに。

 下には青々とした草原が広がっている。

 RPGによくある《始まりの草原》的な、如何(いか)にもスタート地点といった感じの雰囲気だ。

 あー、なるほど。草原をスタート地点にして転生させようとして、ミスってその上空に転生させちゃった、と。うんうん、なるほど……

 そんな思考の直後、浮遊感が落下感に変化した。

 いつの間にやら魂だけの存在から体ありの存在に戻っていたオレを、重力が地面へと引きずり込む。


「フザけんなァァァァアアアアア…………!!」


 絶叫の尾を引きながら落ちていく。

 こうしてオレは、死の恐怖を抱えながら異世界へと、文字通りに飛び込んだ。



(つづく)

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