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第9話 勉強会

 勉強会


 その言葉は誰しもが学生時代に見聞きしたのではないだろうか?


 学校主催の場合は皆が真面目に取り組む場であるが、友人同士の勉強会とは、


 勉強会=遊び


 なのである。


 何かと理由をつけて、最終的にはテスト本番で机の上で頭を抱えて終わってしまうのだ。


 だが、目的があれば話は変わってくる。


 現在の僕たちの利害は一致しているのだ。


 赤点を回避し補講を免れたい桐ヶ谷さん。


 夏休みに梵さんと遊びたい僕。


 期末テストまで一週間を切った今、僕たちには勉強会で遊ぶなんて発想はない。


 ないのだが・・。


 「あ、三島くんその問題はねこのメネラウスの定理を二回用いるんだよ」


 梵さんが僕のノートを見ながら、そう教えてくれる。


 放課後の図書室で、僕と桐ヶ谷さんは学年成績がTOP10に入っている梵さんに勉強を教えてもらっていた。


 というのも、あの後、桐ヶ谷さんが梵さんも一緒に誘った方が勉強も僕のモチベーション的にも上がると言い、電話をして下校した梵さんを呼び戻したのだ。


 意外にも了承してくれた梵さんとそのまま、図書室で勉強することになり・・。


 「三島くんはこの図形のこっち側を今証明しただけであって、全体の証明がまだ終わってないんだ」


 そう言いながら僕のノートの図形の一部に斜線を引く梵さん。


 目と鼻の先ほどの距離で勉強を教える梵さんに僕は気が気ではなかった。


 梵さんから柔軟剤の爽やかな香りが漂い僕は邪な気持ちを抑え込もうとする。


 しかし、そんな思いも彼女の笑顔で崩壊する。


 「そうそう!三島くんそれ正解だよ!この問題は応用問題だから結構難しいのに」


 自分のことのように喜ぶ梵さんに僕は

悶えてしまう。


 僕の内心を悟られないように僕は平静を装う。


 この二年間隠し通してきたんだバレるはずはないだろう。


 弊害を除けばだが・・。


 僕の視線の先には勉強そっちのけでこちらを凝視する桐ヶ谷さんがおり、その表情はとても愉快そうであった。


 自分のことを恋のキューピッドだと勘違いしている悪魔もとい死神は、僕たちの様子をまじまじと見つめ勝ち誇った顔を僕に向ける。


 「・・あ、じゃあ次はこの問題をやってみて」


 だが、そのネチネチとした視線に気づいたのか、梵さんは急によそよそしくなる。


 桐ヶ谷さんの視線に気づいた梵さんは後ろ髪を触りながら、頬を赤らめる。


 しばらくの間、シャーペンの音だけが響き渡る最中、突然桐ヶ谷さんが机に突っ伏す。


 「やっぱ勉強なんてやりたくないー!」


 そう大声をあげて駄々をこねる桐ヶ谷さんに僕は肝を冷やす。


 周りには僕たちと同じく、期末テストに向けて勉強をしており、桐ヶ谷さんの一言で周りの視線が一気にこちらに集まってしまったからだ。


 「もう、桐ヶ谷さんってば、周りの迷惑になるから静かにしてね」


 白い目で見られながらも、苦笑で済ませてしまう梵さんと、そんな視線を気にも留めていない桐ヶ谷さん。


 一人狼狽している自分が恥ずかしくなってしまう。


 梵さんの注意で桐ヶ谷さんは「はーい」と、間延びした返事をし再びシャーペンを握るのであった。


 梵さんは周りに恥ずかしそうに笑みを振りまき自身も勉強に戻る。


 凍った空気を照れ笑いで一瞬にして溶かすその胆力さに僕は唖然とする。


 やはり勉強会で勉強なんて無理だ・・。


 友達と一緒だとふざけあってしまうし、好きな女の子とだと胸の鼓動がうるさくて集中できない・・。


 今日は徹夜だな・・。


 僕は教科書を眺めながらため息を吐くのであった。


 ーーーーー


 日が落ちかけ、図書委員が退室の案内を告げる。


 図書室で自主勉強をしていた生徒たちはその声かけでゾロゾロと席を立ち図書室を後にするのであった。


 「いやー結構捗ったね」


 私は伸びをしながらそんなことを言いつつ二人に視線を向ける。


 腕を組みながら、首を上下に傾けて寝被っている桐ヶ谷さんと、何故か憔悴しきっている三島くん。


 「二人とも!」

 「うわぁっ!?」


 私は再度二人にそう呼びかけると、三島くんが肩を大きく動かして驚く。


 その声で目覚めた桐ヶ谷さんも辺りを見渡す。


 「え?これどういうじょーきょう?」


 涎を制服の裾で雑に拭いながらそういった桐ヶ谷さんに私は苦笑する。


 「桐ヶ谷さんずっと寝てたでしょ?もう図書室が閉館だからここを出ないと」

 「そ、そうだね。ほら桐ヶ谷さん早く帰る準備をしないと」


 三島くんは私の言葉に即座に反応すると、どこかよそよそしく帰り支度をし始める。


 「三島くんどうかしたの?」

 「え!?い、いや・・。どうもしてないよ」


 私の問いかけにまたもや身体を大きく動かし驚く三島くん。


 本当にどうしたのだろうか?


 私が小首を傾げていると、桐ヶ谷さんが意外なこと口にする。


 「え?今日は三島っちと帰んないよ?」

 「・・え?」

 「今日はそよよんと帰んの!」


 立ち上がった桐ヶ谷さんはそう言い、私の左腕を強く引く。


 しれっとそよよんって言ってたけどそれって私のことなのかな?


 まあ呼び方なんて気にしてはないのだけど・・。


 「え?それは二人で帰るってことなの?」

 「そうだよ?たまにはガールズトークしたいからさ、三島っちは今日一人で帰ってくれない?」


 三島くんは眉を下げて悲しそうにトボトボと下駄箱へと歩き出すのであった。


 そんな姿が可愛想ではあるが、どこか可愛くも見え、自然と顔が緩んでしまう。


 「ああやって落ち込んでる三島っちって可愛いいよね」


 私の心を読んだかのように小声で話す桐ヶ谷さんに私は目を丸くする。


 「実はさそよよんとダベりたいことがあるんだよね・・。」


 含みのある彼女の言葉に私は何事かと身構えてしまうのであった。



 ーーーーー


 私たちが昇降口まで降りると、桐ヶ谷さんが何か三島くんに伝えていた。


 少しすると、「ごめんごめん待った?」と、私の元に小走りで来るのであった。


 「大丈夫だけど、急にどうしたの?」


 私の言葉に桐ヶ谷さんは、校門を指差す。


 「ここで話すのもなんだからさ、歩きながら喋らない?」

 「・・うん。別にいいけど・・。」


 そうして私たちが校門を通ると、桐ヶ谷さんが辺りを見渡す。


 「どうしたの?」

 「今から内緒話するからさー知り合いがいたら困るじゃん!」


 桐ヶ谷さんは大声でそう言い私は苦笑してしまう。


 (桐ヶ谷さん・・。内緒話する人はそんな声高々に宣言しないと思うけど・・。)


 「よし、周りに誰もいないっぽいね・・。」


 桐ヶ谷さんはそう言い、私の方に向き直る。


 「最近色々気を遣ってるんじゃない?」


 桐ヶ谷さんのその一言に私は胸を衝かれる。


 「・・え?」

 「ヨッシーがいつもそよよんのことを目の敵にしてるっぽいからさ」


 桐ヶ谷さんはそう言うと、私に自身のスマホのトーク画面を見せる。


 そこにはSNSツールのLIMEのグループが表示されており、メンバーは私の友達たちと桐ヶ谷さんの8人で構成されていた。


 その中には、吉川阜という名前があり、私は苦い顔になる。


 吉川阜は高校入学時から仲良くなったはじめての友人なのだが、最近はあまり良い関係性ではない。


 「最近LIMEの返信頻度が少ないとか、遊びに誘っても来ないとかそんなことばっか言ってるよー」

 

 私は吉川さんの感情を剥き出した陰口とそれを隠そうともせずに話す桐ヶ谷さんのデリカシーのなさにため息を吐く。


 「桐ヶ谷さんあんまりそういうことは本人に言わない方がいいよ」

 「なんで?」


 桐ヶ谷さんの反応的に悪気はないのだろう。


 私は咳払いをし、言いにくさを表に出す。


 「他人の人間関係を簡単に詮索したらダメだよ。デリカシーのない人だって思われたくないでしょ?」

 「でもさ、こうやってコソコソやる方がどうなの?」


 そう返された私は戸惑う。


 「そ、それは・・。」

 「こうやってデータに残るところに堂々と言ってるんだから、どこで広まっても何も言えなくない?」


 確かに彼女の言っていることは正論だ。


 だが、人としての配慮が足りていないということを自覚していないのだろう。


 「いやでも、そうやって本人にバラすのは違うって・・。」

 「ヨッシーと私のやってることに違いなんてないよ」

 「・・え?」


 桐ヶ谷さんはそう言い、どこか虚げに笑う。


 瞬間背筋が凍った。


 天真爛漫でどこか抜けている桐ヶ谷さんが桐ヶ谷さんではないような、そんな気がした。


 「吉川さんは梵さんを除け者にして裏で悪口を言っていて、それってつまりはさ、秘密を共有する友達を選んでいるってことでしょ?だから、私は吉川さんよりも梵さんを選んだだけの話だよ」


 いつもと違う口調の桐ヶ谷さんに私は違和感を覚える。


 だが、それ以上に感じる彼女の冷酷な一面に私は頭が真っ白になる。


 「それと一つだけ忠告、綺麗なセールスマンには気をつけてね」

 「え?それってどういうこと・・?」


 私がそう聞き返そうとしたその時だった。


 「じゃあ私バスで帰るから!」


 桐ヶ谷さんが手を振ってさよならの身振りをとる。


 気づけば学校の最寄りのバス停まで私たちは来ており、桐ヶ谷さんはそこに立ち止まったのであった。


 「え?あ、うん・・。」


 先程の桐ヶ谷さんの言葉が錯覚だったのではないかと感じるほどに、桐ヶ谷さんの態度がいつも通りになっているのに、私は困惑する。


 「まあ、テスト頑張って遊びに行こーよ!」


 そう言った彼女のタイミングに合わせたようにバスがやって来ると、彼女はこちらを振り返りつつバスに乗車する。


 私は、状況を整理しようとスマホをポケットから出す。


 私のLIMEには通知がなく、時刻だけが画面に映っていた。


 私はから笑いをすると、ため息吐くのであった。



 


 







 

 


 

 



 


 

 

閲覧ありがとうございます。


諸事情でここ数日お休みさせていただきましたが、またコツコツと投稿させていただきます。


何卒よろしくお願いします。

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