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7話 モヤモヤ

 「おはー!いやー今日も寝不足気味だよー、ユチチのおすすめのドラマまじヤバたんだったよ!」


 朝のHRが終わり、生徒たちは教室で談笑をしており、その中でも一際目立つ少女の集団。


 赤青黄と髪の色に富んだその少女たちは他人の気遣いもなしに大騒ぎをする。


 だが、彼女たちを止めたりするものはいない。


 彼女らはいわゆるクラスの一軍、彼女たちに目をつけられたら最後、まともな学校生活は送れないだろう。


 だからこそ、宿題をこなす者、携帯を操作する者、居眠りをする者と、彼女たちの目につかないようにひっそりと過ごすのだ。


 「何楽しそうに話してんの?」


 ヘラヘラとした顔の男三人がそのグループに話しかける。


 腰パンの制服に、淡い茶髪の男が人の目をはばからずに少女の腰に手を回しボディタッチを行う。


 「ちょっと、急になに~?」

 「いいだろー、別に減るもんじゃないし」


 満更でもなく、少女は腰をくねらせる。


 男はその様子を見て、さらにニヤけ面になっていく。


 (朝から何で、こんなものを見なきゃいけないんだ・・。)


 僕はその光景を横目に小説に目を通す。


 小説に集中したいが、近くの席で大騒ぎする少年少女に僕は眉を顰める。


 と、そんな時だった。


 「あ、芽依じゃん!こんなに遅くに来るなんて珍しくない?」


 その集団の小柄な青髪の少女が、教室に慌てて入ってくる少女に問いかけたのだ。


 漆のような黒い長髪の少女はこのクラスの学級委員である、梵芽依だった。


 問いかけられた梵さんは、深呼吸をすると、髪に手を当て整える。


 「ち、ちょっとね・・。」

 「もしかして芽依もあのドラマをイッキ見して寝不足?」


 濁した言い方の梵さんに小柄の少女がそう言うと、梵さんは苦笑して「まあね」というのであった。


 梵さんは、そのまま大騒ぎをする少女たちの集団に呑まれ、談笑をし始める。


 だが、時々視線が僕の方に向く。


 いや、僕がそう思い込んでしまっているだけなのか・・。


 「おい三島お前もコッチに入りたいのか?」


 僕がチラチラと梵さんを見ていると、茶髪の男がからかってくる。


 「い、いや・・。」

 「なにどもってんだよ」

 「本当根暗っぽいよねー」


 僕はそう揶揄され俯いてしまう。


 彼らの言うことは正しいのだろうが、それを認めるのが悔しくて僕は拳を握りしめる。

 

 だが、そのことに気づかれたくなくて僕は拳を机の下に隠す。


 僕は、自分の感情すら表に出せない臆病者だ。


 そんなことを考えていると、教卓側の扉が勢いよく開く。


 「あー!!やっぱり三島っちってば先に行ったっしょ!?インターホン鳴らしても出なかったからメッチャ心配したんだよ!」


 言葉と相反して、アイスコーヒーを片手にそう言ったのは、転校生の桐ヶ谷さんであった。


 ラメが入った紫のネイルで僕を指差すと、ズカズカと大股で僕の席まで近づいてくる。


 (来ないでくれ・・。)


 僕はそう内心で呟く。


 だが・・。

 

 「何で先行ったの?」

 

 彼女は僕の気持ちなども考えずにそう声を掛ける。


 若干不服そうな彼女を見て申し訳なさが芽生えるが、そんな思いはすぐに去ってしまう。


 隣でざわつく一軍たちの嘲る表情を見て僕の顔面は蒼白になっしまう。


 「い、いや・・。」

 「なに?声が小さくてわかんないんだけど?」


 棘のある言葉に僕はまた俯いてしまう。


 それと同時に聞こえてくる嘲笑。


 桐ヶ谷そんはその声のする方を向きため息を吐く。


 「三島っちてば、まだ意識してんの?そういうのジイシキカジョーって言うんだよ?」

 「ーーッ!?」


 呆れたような桐ヶ谷さんのその言葉に僕は目を見開く。


 なにも言い返せない苦しさが悔しさが堪らずに喉を出て言葉に変わろうとするが、僕はそれをぐっと飲み込む。


 「そうかもね・・。」


 僕は自分の本心ではなく、乾いた笑いを桐ヶ谷さんに向ける。

 僕の反応を見て桐ヶ谷さんは勢いよく僕の机を叩く。


 「今の三島っちてば、ダサいし、面白くないっ!」

 

 桐ヶ谷さんは駄々っ子のようにそう言うと、今度は大股で教室の外に出るのであった。

 

 「あ!ちょっとホダカもう授業始まんよー!」

 「今日はもうサボる!」


 桐ヶ谷さんを止めるギャル友達の静止の声を振り切り桐ヶ谷さんは教室を後にするのであった。


 桐ヶ谷さんの居なくなった教室は無音となり、僕は居た堪れなさから席を立つ。


 「三島くんどこ行くの?」

 「えっと保健室・・。」


 何故か梵さんが心配の声を上げ、僕は戸惑いながらそう答える。


 教室の雰囲気は最悪で僕は逃げるように教室を立ち去って行くのであった。

 

 ーーーーー


  「いつまで寝てるんだい!」


 カーテンが勢いよく開き、僕は飛び起きるようにして目を覚ます。


 気がつけば僕は保健室のベッドで、横になっていたみたいだ。


 逃げるようにして教室を出た後に、保健室に寄ったのだが、先生はおらず僕はすることもなく、ベッドに横になったのだった。


 いつの間にか寝てしまっていたみたいで、僕は目の前の人物の怒髪天の姿を見て青ざめる。


 目の前にいたのは、保健室の先生である、豊島恵津子先生だった。


 白髪混じりの女性の先生で性格はサバサバとした、昔ヤンチャをしていたであろう感じが滲み出ている。


 「勝手に保健室使って何やってんだい・・。」


 ため息混じりにそう言うと、豊島先生は背もたれ付きの椅子に寄りかかって座る。


 先生の鋭い目が僕を捉え、僕は後ろめたさから視線を床に向ける。


 「その様子じゃ具合が悪いってわけじゃないんだね」

 「・・。」


 無言の僕に先生はため息を吐くと、おもむろに席を立ち、やかんに水を注ぎ沸かし始めると、


 「珈琲は飲めるかい?」


 先生はそう僕に確認する。


 僕は静かに頷くと、先生は「そうかい」と、言いつつ戸棚からマグカップを二つとスティック状の顆粒珈琲を取り出す。


 「まあ、言いたくないなら別に言わなくていいさ。コレ飲んで落ち着いたら授業に戻りな」


 先生は、時計の針を見ながらそう言う。


 その先生の言葉に僕は苦笑する。


 あんな風に教室を出た僕が戻っても馬鹿にされるだけだろう。


 それを想像して、早退を密かに決心していると、


 「友人関係かい?」


 先生はチラリとこちらを伺いながら、そう訊ねてくる。


 ついさっきまで言わなくていいと言っていたのにも関わらず直ぐに詮索をした先生に僕はつい笑ってしまう。


 「何がおかしいんだい?」

 「いやだって・・さっき言わなくていいって言ってたのに聞いてきましたから」

 「・・それは気になったからだよ。悪いかい?」


 先生はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。


 先生の言葉に僕は首を横に振ると大きく息を吐く。


 「くだらない理由ですよ?」

 「別に構わないよ」

 

 先生のその言葉に僕は安堵し、ポツポツと愚痴のように事情を説明するのであった。


 

 ーーーーー


 「何だいその話は?全くくだらないねぇ」


 出来上がった珈琲を啜りながら先生はそう呆れた声を上げる。


 「・・・え?」


 自分の想像とした反応と違い、僕はその一声で身体が固まる。


 「その桐ヶ谷さんかい?その子が言ってることが正しい!」


 先生は大きく息を吐き、人差し指を僕に向けそう断言する。


 「そ、そんな・・。」


 先生のそのそっけない言葉に僕は俯く。


 だが、そんな僕を見て先生は「だけどね」と、言葉を繋げる。


 「その子だって悪いとアタシは思うけどね」

 「ど、どうしてですか?」

 「自分のことは自分しかわかんないだろ?一緒の感覚を持っている人なんていないんだよ。それなのに、自分の考えを押し付けるような物言いは感心しないね」


 先生の言葉に僕は少しだけ心が軽くなる。


 自分の考えが間違っていなかったと思うことが出来るから・・。


 「でも、それはアンタも一緒さ・・。自分の考えに意固地になってそれじゃずっと分かり合えないままになっちまうよ」


 先生はそう言い終えると、席を立ち自身の席に着き、デスクワークを始める。


 「それ飲み終わったらそのままでいいから、あとは好きにしな・・。」


 先生はそう言い老眼鏡を付けてパソコンをタイピングするのであった。


 先生の言葉を聞き僕はそのまま早退しようとも考えたのだが、ふと僕の頭の中に桐ヶ谷さんが思い浮かぶ。


 僕は少しして、残った珈琲を流し込み立ち上がる。


 「先生ありがとうございました!僕やっぱり授業に戻ります」

 

 その言葉に先生は少し口角を上げ、「いつでも来な」と、送るようにして手を振る。


 僕はお辞儀をすると、その勢いのまま保健室を出る。


 足取りはおもかったが、意志の赴くままに保健室の扉を開けたその時だった。


 「・・わっ!?」

 「え!?そ、梵さん!!?」


 今まさに保健室を開けようとした梵さんが目の前に現れ僕は素っ頓狂な声を上げる。


 それに負けず劣らずの焦燥した顔の梵さんしばらく、口をつぐんでいたが、僕の目を見つめると、


 「あ、あの・・!」

 「な、何でしょうか・・。」


 好きな人の目の前ということもあり、僕は緊張のあまり敬語になってしまう。


 「放課後さ一緒に遊ばない?」


 髪を触りながら、彼女はそう言い僕の反応を伺う。


 不安そうな上目遣いをされ、彼女いない歴#=__イコール__#年齢の僕にとっては、耐えられない誘惑だ。


 僕は、悶えた顔を必死で真顔に戻そうとしつつ、全力で頷く。


 「そ、それでさ・・、遊ぶっていっても二人だけなんだけどいいかな?」


 梵さんのその言葉で僕はどうして自分なのかという疑問が頭に浮かんだが、それ以上に嬉しさが込み上げて、自分の考えてたことが全て吹き飛んでしまう。


 それだけを伝えると、梵さんは「じゃあまた放課後ね!」と、言い残しその場を後にするのであった。


 「何か勝手にあんたが帰ることになってるけどいいのかい?」


 僕が梵さんとの会話の余韻に浸っていると、先生からそんな言葉を言われ、ハッとする。


 「し、しまった・・!」


 僕は片手で顔を覆い、さながらルネサンス紀の石膏のようになってしまうのであった。


 その後僕は赤面しながら教室に戻って行くこととなる・・。




 



 

閲覧ありがとうございます。


やっぱり心理描写を描くのが難しいですね。

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