第6話 気になる人
「いやまじでパナかったわ~。大迫力すぎてチョー興奮した!」
帰路の途中で桐ヶ谷さんはイルカショーの興奮が冷めていないのか、身振り手振りでその感動を伝えようとしていた。
「そんなに凄かったかな?」
小学校の遠足のときによく訪れていた水族館であったため、僕にとってはこれといった衝撃はなかった。
「三島っちって自分が良ければそれで良いって感マンマンだよねー」
「えっ!?何でそうなるの?」
僕の疑問に桐ヶ谷さんは人差し指を立てて僕の眼前に出す。
「人との友好的な関係を築く方法その1!友達の考えに否定的なもので返さない!」
そう言った、桐ヶ谷さんは眉をへの字に曲げて不満を表に出した顔になっていた。
「え?急にどうしたの?」
「三島っちはコミュニケーションの一般常識がないっぽいからあーしが教えてあげんの!」
そう言った桐ヶ谷さん両脇に腕を置き胸を張る。
主張の激しい胸がさらに強調され、僕は制服が悲鳴をあげているように見えたのだった。
「ヒトキズその2!人の身体をジロジロ見ない!」
「み、見てないよ!?」
僕は桐ヶ谷さんの大声に焦り、咄嗟に視線を逸らす。
この前のこともあるため、僕はしばらくの間、俯いて歩いてしまう。
「まあまあ、冗談に決まってんじゃん!あーしなんてこれが武器なんだから、見せてナンボっしょ!」
桐ヶ谷さんは僕の肩を強く叩いて、豪快に笑う。
彼女の前向き?な言葉を言い、すぐさま三本指を立てる。
「ヒトキズその3!困った時はとにかく愛想笑い!」
「そ、それっていいの!?ってかヒトキズって・・。」
「人との友好的な築き方、略してヒトキズに決まってんじゃん。というか、無言で仏頂面よりも相槌とか愛想笑いして、聞いてますよアピされた方がマシっしょ?」
彼女の言葉に僕は「そうかな?」と、小首を傾げる。
「まあそれは今度でもいいかっ」
桐ヶ谷さんはそう言い、水族館の最寄り駅まで歩くと、
「じゃあ、私はバスで帰るから。三島っちは電車の方が家近いっしょ?」
桐ヶ谷さんは、改札をくぐる僕を見て笑顔で手を振る。
彼女の金髪が駅中のライトの光で反射して輝いて見えた。
「そうなんだ・・。じゃあまた明日・・気をつけてね」
僕は名残惜しさからか、少しの間が空いてしまう。
「あー三島っちてば一緒に帰ってあーしの家調べるつもりだったしょ?」
「ち、違うよ!?変なこと言わないでってば」
「アハハハ、ホントかなー?」
「本当だよっ!?」
彼女は腹を抱えて笑うと、
「まあ、近所に住んでるからまた明日迎えに行くねー!あ、バス停調べようなんてしないどきな」
「そんなことしないよ!」
「おけおけ!んじゃまたー!」
彼女はそう言い残し、早足でバス停の方まで消えて行くのであった。
僕は、太陽のように明るい彼女がいなくなり、辺りが真っ暗なことにようやく気づく。
「また明日も来るのか・・。」
ふと、息と共に本音が漏れる。
だが、その本音が面倒臭さと嬉しさが入り混じっていたことまだ気づいていなかった。
ーーーーー
私こと、#梵芽依__そよぎ めい__#の朝は早い。
というよりは女子の朝というべきか・・?
起きてすぐさま洗面台に立ち顔を洗い、歯を磨く。
その最中、私はスマートフォンを片手にSNSを確認する。
友達や今流行りの話題を探しては頭の中に入れる。
そして、体重を測り終わると、リキッドファンデーションとパウダーチークを駆使して肌艶を上げる。
薄いメイク程度であれば先生たちも口を出さない、暗黙の了解の範囲で済ませる。
朝食は、グラノーラにお湯と牛乳を1:2の割合で作りそれを食べる。
お湯を入れる理由は、牛乳だけだとお腹が冷えるのと、糖質が気になるためだ。
グラノーラは今クラスで味比べや製品のトークが盛んだからだ。
正直私はコンフレークに牛乳をかけて食べるのが一番好きだ。
だが、そんなことはしない。甘いものを好きなものを欲望のまま食べると、すぐに私の身体の鍍金が剥がれてしまうからだ。
以上がいつもの私のモーニングルーティンというやつなのだが・・。
「やらかしたー・・。」
私は手で顔を覆い憂鬱な声を上げる。
何故なら小鳥の囀りと、斜陽が私の不安を恐怖へと確信させたからだ。
いつもは、陽が登る前に起床して前述のことをするのだが、今朝はバッチリと陽の光が私を照らしていた。
というのも、昨夜私はとあるクラスメイトのことが気になり過ぎて、睡眠どころではなかったのだ。
3時間ほど考えた挙句、もしもの想像をして余計に寝られなかったのだ。
私は後悔をため息と共に吐き出すと、ベットから飛び起き、母親を呼ぶ。
「お母さん、ゼリーとマスク机に置いてて!」
急いで体重を測り、顔を洗う。
普段は研磨剤入りの歯磨き粉を使い入念行うのだが、時短のために、水歯磨きを使い汚れを落とす。
メイクは口元を覆う前提で鼻から上を意識して行う。
そのため、昼食は携帯食のゼリーに変更する。
朝食は諦め、急いで制服を着る。
「もう~どうして考えちゃったかな~!!」
私は整えた髪をくしゃくしゃにしながら、大声を上げる。
あの日学校帰りに寄り道をするんじゃなかった・・。
転校生の桐ヶ谷さんと三島高春くんが楽しそうに遊んでいたのを目撃してからか、寝不足つづきなのであった。
「昨日も二人で登下校してたし、絶対付き合ってるよね?」
私は、不安を言葉に出し、自身を落ち着かせる。
そうじゃないと自分に言い聞かせるが、仲良さげな二人がすぐさま頭に浮かび、慌てる。
「ダメダメ!変なこと考えてちゃダメ!」
「芽依ー!何を騒いでるの!」
自室で声を荒げていると、リビングから母親の心配する声が聞こえてくる。
「何でもない、じゃあ行ってきます!」
私はバタバタと鞄を背負い、リビングでマスクと携帯食のゼリーを鞄に入れ、家を後にするのであった。
モヤモヤとしたものを胸に抱えながらも、私は玄関を飛び出すのであった。
閲覧ありがとうございます。
ruinと申します。
6話目はいかがでしたか?
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