4話 彼女にとって仲直りは当たり前
僕の朝は、携帯のアラームで始まる。
というのも、早朝から出勤の父との二人暮らしなので、自分が起きる頃には誰も家にいないからだ。
朝はパン焼いて、ジャムを塗って食べるというだけのシンプルな物だが、今日はそんな気が起きなかった。
「何であんなこと言ったかなー・・。」
上体を起こし、開口一番ため息が洩れる。
しかも、人が大勢いるあの状況で、思い出すだけでも、鳥肌立つほど恥ずかしい。
「ああもう、今日は学校行きたくないよ!」
恥ずかしさと情けなさをかき消すように声を上げ僕は布団を被る。
僕は自身の温もりが心地よく感じ、二度寝を試みる。
「きっと桐ヶ谷さんみたいな人はみんなに言い広めてるさ。僕の格好悪い取り乱した姿をみんなに言って笑い物するはずだ」
僕は布団の中で独り言を呟く。
ああいう陽キャラは人の繊細な部分をわかってないだろう。
だから平気で人の好きな人を知ろうとするし、頼んでもないのに個人の主観でアドバイスをしてきたりするんだ。
今日は休んで、明日から行こう・・。
僕はそんなことを考えながらウトウトしていると、
ピンポーン
突然、チャイムがなり僕は飛び跳ねる。
何故ならこんな時間に来客など来るはずもないのだからだ。
もう、朝から誰だよ・・。
せっかく今日は寝ようと考えていたのに。
八つ当たりに近いが、僕は苛立ちからか、そのインターホンを鳴らした人物を無視しよとするのであったが、
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
「もう、うるさいな!わかったよ出ればいいんだろ、出れば!」
と、一定の感覚でチャイムはなり続け、僕は観念しインターホンに内蔵されたカメラでその主を確認する。
そこにいたのは、
「桐ヶ谷さん・・?」
僕は通話ボタンを押し、外にいる人物に話しかける。
すると画面の向こうの人物が安堵の声を上げる。
「三島っち!?良かったー、出てくれないかと思ったじゃん」
そこには、いつもの調子の桐ヶ谷さんがおり、僕は拍子抜けする。
「ほら!早く学校行くよ。もう結構ヤバいよ」
彼女は走るジェスチャーをし、時間がないことを教えるようにして僕にそう言う。
「いや、僕は今日・・。」
そこまで言って僕は言葉を飲み込む。
画面越しの少女の声や仕草を見て、僕が想像していたことは杞憂だと感じたからなのか、それとも・・。
「じ、十分だけ待って!」
僕はそう言い残すと急いで支度をするのであった。
彼女とは少ししか喋ってないし、一緒に登校するほど親密な関係ではない。
だが、僕にはないポジティブな思考を持った彼女に引かれているのかもしれない。
僕もこんな風になりたいと、性別は違うけど僕の理想の人物に近い彼女の隣にいたい、そう感じた僕は口約束の通り十分で支度を終わらせて玄関を飛び出すのであった。
「ハア、ハア、ご、ごめん桐ヶ谷さんお待たせ・・。」
「もう三島っち遅いよ」
扉を開けた先には、向日葵のように目立つ、可愛らしく派手な桐ヶ谷さんが僕のことを待っていた。
桐ヶ谷さんは息を切らした僕を見て、笑いながら、手を差し出す。
「ほら休んでる暇なんてナッシングよ?」
「なんかそれ、エセ外国人みたいな喋り方だね」
はにかむ桐ヶ谷さんのおかしな言葉遣いに僕は自然と笑みが溢れる。
不思議なことに僕の頭の中から昨日の出来事が忘れ去られていた。
僕は恥ずかしさと照れ臭さから桐ヶ谷さんの手は取らずに歩き出す。
「じ、じゃあ行こうか」
「意気地なし・・。」
「・・なんか言った?」
「なんでもない!」
彼女は苛立ちを表に出し、僕の肩を自身の鞄で叩くのであった。
だが、彼女の顔は何故か満面の笑みであった・・。
ーーーーー
僕の家から学校まで大体徒歩で20分程度である。
元々高校が近いところを選んだ僕であったが、となりを歩く桐ヶ谷さんを不思議に思う。
普段は自転車で登校しているぼくであるが、桐ヶ谷さんが徒歩ということもあって今回は徒歩にしたのだった。
つまり、桐ヶ谷さんは徒歩で学校に、僕の家を介して来れる距離にいるのだろう。
だが、いきなりどこに住んでいるとか聞くのはデリカシーがないんじゃないのかと自問自答している僕に、一つの疑問が生じる。
「桐ヶ谷さんて死神なんだよね?」
周りにおかしな人だと思われないように、小声で尋ねる。
「まだ疑ってんの?そうって言ってるじゃん。なんならもう一回証拠を見せようか?」
「い、いや!?大丈夫だよっ!」
右手をかざしながらそう言った桐ヶ谷さんに僕は全力で首を振る。
登校中の学生がいる最中であんな物騒な物を出されては困るし、何よりもあの大鎌を一瞬にして出すのは異質な存在だからだろう。
「で?なんでそんなこと聞くの?」
「いや、そしたら瞬間移動とかも出来るのかなって・・。」
僕がそう言うと、彼女は鼻で笑うのであった。
「ふふっ、もちろんでしょ?だってウチは死#神__・__#なんだから、人知れず移動することも可能ってこと。でも、何でそんなこと聞くの?」」
「いや、ちょっとね・・。」
じゃあ、僕の家に来たのは家が近いからじゃなくて、僕の家まで瞬間的に移動して来たってこと?
でもそれならどうして僕の家まで来たのだろうか?
桐ヶ谷さんの言葉を聞き、僕の頭の中にそんなことが過ぎる。
すると、
「いや、三島っちの家までは普通に歩いて来たよ?」
と、心の中を読まれる。
「えっ!?ど、どうして僕の考えていることが・・っ。」
「昨日も言ったじゃん。私は心の中も読めるんだよ?」
「そ、そうだったね・・。」
僕は彼女の言葉に苦笑いをする。
そんな僕を見て、桐ヶ谷さんはニマニマと口角を上げる。
「女の子の住所を知りたがるなんて変態だね」
「ち、違うよ!し、死神っていうから家とかは別の場所にあるのかとか、考えていただけだよ」
「ウチのことにお熱なわけね~。ヤラシっ」
桐ヶ谷さんは胸を押さえながら、小馬鹿にする。
胸を押さえたことで、より強調されたその胸の谷間を見て、すぐさまに僕は視線をずらす。
「本当三島っちの身体は素直だねー」
ケラケラと笑う彼女は、僕を馬鹿にしたのを満足に思ったのか、しばらくして、「良いことを教えよっか?」と、話を持ち出す。
「・・え?」
「今住んでいるところは三島っちの家の近くだよ・・。」
艶のある声で彼女は耳元でそう囁く。
僕は不意打ちを喰らい、顔のまわりが高熱を帯びる。
「三島っち林檎みたい」
そんな僕を見て桐ヶ谷さんは指をさして笑う。
と、そんなことを話していると気づけば僕たちは校門の前まで来てしまっていた。
「あらー、もう着いちゃった?やっぱり楽しい時間は経つのが早いなー」
桐ヶ谷さんはそう言うと、片足でトントンと校門を通り、「この続きは放課後ね」と、ウインクをして、女子集団に紛れていくのであった。
「え・・?」
一人取り残された僕は、突然いなくなった桐ヶ谷さんの言動をどう捉えていいのか分からないでいた。