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3話 タピオカミルクティーと梵芽依

 「ウチはこのミルクティーの黒糖タピオカでお願いします」

 「えっと・・じゃあ僕はスイカミルクティータピオカでお願いします」


 結局僕らは、高校から一番近い商業施設の中に点在するタピオカミルクティーを販売している店まで二人で来てしまったのである。


 店員から商品を受け取ると、僕たちは仮設テーブルに腰掛けたのだったが、桐ヶ谷さんは僕のタピオカミルクティーを見てクスクスと笑う。


 「それ新発売のヤツっしょ?三島っち、そんな得体の知れないものよく飲めるよね」


 桐ヶ谷さんはそう言い、美味しそうにタピオカミルクティーを飲むのであった。


 「うん!やっぱ定番が一番でしょ」


 勝ち誇ったような満面の笑みでこちらを見る桐ヶ谷さんを見ながら、僕は桐ヶ谷さんに尋ねる。


 「でも新しい味って試したくなりません?」

 「敬語・・。」


 僕の言葉に桐ヶ谷さんはジト目でそう返し、指を指す。


 「ウチらもう友達なんだからそんな硬っ苦しくしなくて良くね?」


 その言葉に僕は、ゆっくりと頷く。


 「わ、わかりました・・。」

 「それも敬語じゃん」


 僕の言葉にケラケラと笑う彼女に僕も自然と笑みが溢れる。


 「でもさ、三島っちみたいな人ってこうなんていうか、いつもおんなじもの食べてるイメージあるんだよね」

 「どういうことでっ・・?」


 敬語になりそうになり慌てて言葉を切る僕に桐ヶ谷さんは面白がるように口角を上げると、「だって」と、言葉を繋ぐ。


 「何か自分の見ている世界が、一番だと思ってそうな陰のオーラがぷんぷんするからさ、そういう人って定番の味が好きっしょ?」


 何だその偏見は・・。


 「何だその偏見は・・っ!?」


 僕は心の声がだだ漏れになっていたことに気づき、慌てて口を塞ぐ。


 が、意外にも桐ヶ谷さんは面白そうに笑い返す。


 「良い反応じゃん」


 僕は馴染みのないやりとりに愛想笑いを浮かべつつ、桐ヶ谷さんの手元を眺める。


 桐ヶ谷さんの理論で言えば桐ヶ谷さんは陰の者になるのだろうかなどとくだらないことを考えていると、桐ヶ谷さんも僕の手元を眺めていることに気づく。


 「ど、どうしたの?」

 「いやそれ美味しいのかなって思って」


 新商品の味が気になるのか、チラチラと視線を流す彼女に僕はストローを彼女の方向に向ける。


 「飲んでみる?」

 「え!マジでくれるの!?ラッキー・・。」


 と、桐ヶ谷さんは言いつつ、僕のストローを見つめ、顔を朱色に染める。


 ミルクティーのような褐色の肌でもわかるほどに赤くなった頬を見て、僕は気づく。


 「あ、か、間接的なの嫌だった?」


 彼女の反応を見て僕も顔を赤らめ、恥ずかしさが表に出てしまう。


 彼女に向けたタピオカドリンクを下げようとしたその時だった。


 「ーーーッ!?」

 「き、桐ヶ谷さん・・?」


 僕の手首を掴み勢いよくタピオカを吸い上げる桐ヶ谷さんに僕は戸惑いつつも手の力を抜く。


 しばらくして、顔を上げた彼女は、茹で蛸のように顔を朱色に染めていた。


 「ま、まあまあだね~。やっぱりミルクティーが一番だわ」


 桐ヶ谷さんは手で顔を仰ぎながらそんなことを言う。


 そこから謎の間が続き、気まずさが漂った空間に僕はおそるおそる訊ねる。


 「あ、あの一つ訊きたいことがあるんだけど」

 「え!?な、なに?」


 桐ヶ谷さんはまだ顔に風を送っており、取り乱した姿に僕は困り顔になってしまう。


 自分から話しかけるのが苦手な僕にとって自分から話題を振るのはとても難しいことなのだ。


 しかも、その話し相手がクラスの一軍に君臨するであろう、ギャルとあってその難易度はさらに高くなっているのであった。


 「えーっと・・。あ、し、死神って言ってたけどさ、住んでる場所とこはここら辺なの?」


 僕はそう言い終わったあとに、額に手を当て後悔する。


 無言の空気に耐えられず、慌てて質問したのだったが、初めての質問に住所を訊くのは気持ち悪いだろう。


 自問自答に頭を抱えた僕であったが、そんな僕を見て、桐ヶ谷さんは僕の頭ををポンポンと触れるのであった。


 「ハハハ。三島っちって小動物みたいで可愛いね」


 そう言われて、僕は抱えた頭を解き、視線を桐ヶ谷さんの方に向けるのだが・・。


 「ンンっ//」


 机に頭がつくほど下を向いていた自分から見えた景色は、机に乗っかった双丘であった。


 「顔を赤くしてどうしたん?風邪かな?」


 彼女が僕の額に手を当てようとすると、目の前でその双丘が息吹を上げるようにゆっくりと動き出す。


 僕は視線を逸らしタジタジとしていると、彼女も僕の考えていることを理解したのか、わざとらしく双丘に息を吹きかけるのであった。


 「三島っち今どこ見てたのかな?ねえねえ、こっち見なよー」

 「や、やめて下さい・・。」

 「ホラホラ、今がチャンスだよ~?」


 そんなやり取りをしているときだった。


 「三島くん?と桐ヶ谷さんだったよね?」


 鈴の音のような声が聞こえ僕はその方向に視線を向ける。


 「梵さん・・。」


 僕はそう呼んだ少女を見て、固まってしまうのであった。


 彼女は同級生でありクラスの誰よりも輝いて見える憧れの存在である。


 そして・・。


 「二人ってもうそういう関係なの?」


 驚きの顔すらも可憐に見える少女に僕は口籠ってしまう。


 彼女は僕の初恋の相手なのだ。


 こうなっても仕方ないだろ・・。


 クラスのマドンナ、容姿端麗、品行方正、見栄えがする、彼女を言い表す言葉はどれだけあるのだろうか。


 凛と咲いた胡蝶蘭のような存在である彼女はまさしく、僕にとっては高嶺の花であり、こうして目の前で見られることすらありえないことであったが・・。


 僕の目の前に立つ少女は自身の長髪を触りながら、気まずそうな声を上げる。


 「二人ってもうそんな関係なんだね・・。み、みんなには内緒にしておくから安心して」

 「ち、違うよ梵さん!さっきそこのお店でバッタリ会って、一緒に買って飲んでただけだよ」


 そそくさと立ち去ろうとする梵さんに、僕は全力で弁解する。


 僕が指差したタピオカ屋を見た梵さんはそのまま視線を僕たちのタピオカミルクティーに移し、しばらく交互に見やると、頬を林檎のように赤くして恥ずかしがるのであった。


 「ご、ごめんなさい!そういうことだったんだね・・。私ったら早とちりしてしまって」

 「全然大丈夫だよ。さすがにこんな姿見られたらね・・。」


 先程の一部始終を見られているのなら誤解されても仕方ないだろう。


 僕の言葉に納得してくれた梵さんは、一呼吸置くと、


 「あ!それって新発売のスイカミルクティーだ。ねぇそれ美味しいの?私も試してみたいけど、怖くて」


 梵さんの言葉に僕は生唾を飲む。


 自分のタピオカドリンクを渡すかどうかを悩んでしまっているからであった。


 断られたら・・、


 気持ち悪いと思われたらどうしようと、そんな考えが頭を過ぎる。


 「三島っちの味見したけど、結構美味しかったよ。今度買うならコッチかな~」


 僕がそんなことを考えていると、隣の桐ヶ谷さんが何故か誇らしげに言い張るのであった。


 梵さんはその言葉を聞き、僕のストローに視線を向けると、これまた、茹で蛸のように顔を真っ赤にして、「そうなんだ・・。」と、感想を口にするのであった。


 「ま、まあじゃあ今度は私もそのスイカのヤツにしよーかなーって、あ!もうこんな時間だ。私ちょっとこの後用事があるからここら辺で失礼するね!」


 梵さんはそう言うと、忙しくその場を後にするのであった。



 ーーーーー


 梵さんがいなくなってから、僅かな沈黙の後に桐ヶ谷さんは僕にジト目を向ける。


 「ああいう子が好きポヨなんだ?」

 「えぇ!?ち、違いますよ」


 咄嗟に核心を突かれ僕は慌てふためく。


 その様子に「わかりやすすぎ・・。」と、桐ヶ谷さんは呆れのため息を洩らす。


 「た、たしかに、僕なんかが思いを寄せても迷惑ですよね」

 「誰もそんなこと言ってないじゃん」


 僕は頬を掻きながら諦めの言葉を口にすると、桐ヶ谷さんが否定をするのであった。


 「誰かが誰かを好きになるのに、良い悪いなんてないじゃん」


 タピオカドリンクを飲みながらそう言った彼女の言葉に、僕は俯いてしまう。


 彼女の言葉は正論だが、それでも僕は首を横に振る。


 「僕がさ、梵さんと仲良くなろうなんて高望みだよ。僕は、遠くから見れたらそれで十分・・。」

 「三島っちの人生ってつまんなさそうだよね」


 その言葉が僕の心を深く抉る。


 「そんなの勝手な決めつけじゃん」

 「桐ヶ谷さんはさ・・。周りの目が怖くなったことってないでしょ?」


 僕は震える声で反論をする。


 今日転校したばかりの少女に何を言っているのだろうという自身を蔑む感情はあったが、それよりも自分の怒りを優先させてしまっていた。


 彼女に自分の気持ちがわかるわけがない・・。


 転校初日で、クラスの輪の中に入っていけるようなコミュ力も、みんなを惹きつけるトーク力もない僕からしたら、彼女の前向きな性格の方が謎だ。


 「そんなこと考えたって意味ないっしょ。自分が思ってるよりさ、みんなは三島っちのこと見てないと思うけど?」

 「そういうことを言ってるんじゃないよ!僕はそうやって何でもポジティブに考えられないって言ってるんだ!」


 桐ヶ谷さんの発言に血が昇った僕は席を立ち上がり怒鳴ってしまう。


 自分の思っていることを口にするのがどれだけ怖いか、楽観的な彼女にはわからないだろう。


 だが、静寂が訪れ、僕は自分の誤ちに気づき、辺りを見回す。


 自分に周りの視線が集まっていることに、恥ずかしさと恐怖を覚えた僕はすぐさま鞄を抱える。


 「ご、ごめん。急に大きな声出してさ」

 「・・・。」


 僕は彼女の返事を待たずに、大型商業施設を後にするのであった。


 羞恥心で顔が熱くなっていたのか、桐ヶ谷さんに強く当たってしまったせいで、蒼白になっているのか自身でもわからないほど僕の頭は困惑してしまっていた。





 



 


 

 


 


閲覧ありがとうございます。


ruinと申します。


毎日投稿頑張っていきます!

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