2話 思っていたことと違うこと
「・・え?」
僕は目を丸くして驚きの声を上げる。
「そんなにガッカリすんなし」
桐ヶ谷さんには、僕が絶望しているように見えているのだろうが、そうじゃない・・。
そうじゃないよ桐ヶ谷さん・・。
「それって短いんですか?」
つい本音が溢れてしまい、桐ヶ谷さんは眉間に皺を寄せる。
「三島っちっておかしなこと言うね~。人間で70年って言ったら赤ちゃんから腰が曲がるぐらいっしょ?めっちゃ早いじゃん!」
「いや長いよっ!?」
ケラケラと笑う彼女に僕は思わずツッコんでしまう。
「はあ?」
ギャル・・というか陽キャ特有のワントーン下げた威圧的な疑問符で聞き返す桐ヶ谷さんに怯えながらも僕は反論を口にする。
「い、いや流石に70年は長いですよ・・。だって、そしたら僕は86歳で死ぬんだよ?平均寿命より生きてることになるし・・。」
オドオドとした様子で僕がそう言うと、その言葉を理解したのか、彼女は額に手を当て、「あちゃー」と、嘆き声を上げる。
「そうだった・・。三島っちの前に宣告したのがニシオンデンザメだったからなーそれの三分の一以下だったから短いと勘違いしちゃってたわ」
笑いながらそう言った彼女の雰囲気に圧倒され僕は呆然と佇んでいた。
「にしおん・・サメ?」
「そうそう!そのニシオンデンザメってエッチするようになるまで150歳もかかんの、ヤバイでしょ!?平均寿命は390歳!」
訳の分からないことを言われ僕が戸惑っていると、突然桐ヶ谷さんが項垂れる。
「はあー、やっちゃったなー。これはまた」
頭を抱えた桐ヶ谷さんは僕をそっちのけで、身体をクネクネと動かし後悔する。
ブツブツと何か呟いていた彼女だったが、数分経つと先程の調子に戻り、「でも、まあいっか!」と、笑顔に戻るのであった。
「失敗は成功の素って言うしね!起きたことをクヨクヨしてもしゃーない、しゃーない」
「あの、それで・・この後僕はどうなるんですかね?」
一人で立ち直った桐ヶ谷さんに、まだ彼女が放った言葉の意味を飲み込めない僕はそう訊ねてしまっていた。
桐ヶ谷さんは顎に手を当てて考え込んでいる様子であったが、指を立てて、
「普通死神って宣告した人の死期が来るその時まで近くにいなきゃだめなんだよねー」
と他人事のように言い、僕の腕を両手で掴む。
「というと・・。」
「う~ん・・。しばらく一緒ってことになんじゃね?」
あっけらかんとそう宣言した彼女に僕は驚愕する。
しばらくっていうか、僕にとっては一生じゃないか・・!?
「いやいやいやっ!」
僕は首を全力で振りながら否定しようとしたのだが、
「まあダメって言われてもずっといるんだけどねー!」
と、笑いながら言った彼女は、勢いよく僕の手を取ると、教室から飛び出すように出るのであった。
「ち、ちょっと!桐ヶ谷さん!?」
「まあ、これから長い付き合いになるんだしタピオカでも飲み行こー」
と、僕の返事を待たずに廊下を小走りして行くのであった。
死神なんて中二病真っ盛りの自分にとっては信じられないほど嬉しいシチュエーションなのだが、想像していた人物像と違い混乱してしまう。
何故か彼女に振り回される日々がやって来るのだろうと、彼女の後ろ姿を見ながらそんなことを考える僕であった。