1話 よろぴっぴ
万国共通である普通という基準。
でもそれを明確に表すことは難しいだろう。
何故なら、人それぞれに価値観というものがあるからである。
では、特別というものは?
恋人?人よりも優れた物を持つ人?常連客。
それとも普段味わえない出来事?
表現できるものは無数にあるが、これもまた選択肢が多く人それぞれという他ないだろう。
しかし、特別な日というものは案外みんな同じなのではないだろうか。
誕生日・大会・記念日・イベントとかそういうのを考えてしまうと僕は思っている。
長ったらしくそんなことを考えているのにも理由がある。
それは、僕こと、三島高晴が告白されそうになっているからだ。
放課後の教室に目の前には少女が一人。
僕は今日、授業中にノートの切れ端が渡されて、放課後の呼び出しを受けたのであった。
だが、そんな胸が高鳴る展開も今では杞憂だったと実感する。
呼び出した張本人は、気だるげに机に座り、スマホから目を離さずに、僕のことなんてお構いなしにスマホを操作していた。
目の前の少女の名は桐ヶ谷穂高さん。
名前から連想する清楚そうなイメージはなく、ガングロ・耳にピアス・濃いめの化粧・金の長髪を後ろでお団子に纏めたいわゆるギャルが僕の目の前に佇んでいた。
地元でも校則が緩いことが有名な我が校の校則をこれでもかと破ったその姿は一言で言い表すなら、派手という言葉に尽きる。
太腿の中間地点ほどで折られたスカートのせいか、彼女が脚を組むと、スカートの中が見えそうになり、僕は咄嗟に顔を背ける。
だが、桐ヶ谷さんはスマホに夢中だから見てもバレないのでは?という邪な気持ちを払うように首を振っていると、
「急にどしたん?」
「な、なんでもっ!?・・ないです。」
と、引き気味で桐ヶ谷さんが急に話し掛けてきたので僕は思わず声が裏返る。
僕は恥ずかしさと情けなさで、床に視線を移す。
「ならいいけど」と、桐ヶ谷さんは話を切ると、立ち上がる。
僕よりも少し低いぐらいの背丈の彼女は、「よしっ!」と、自身に気合を入れると、僕に対して照れ笑いを見せる。
無邪気な子供のような笑みが、とても輝いて見える。
「急に呼び出してごめんね。三島っちにどうしても言いたいことがあってさ・・。」
そう言い口籠る桐ヶ谷さんはの頬が梅の実のようにほんのりと赤くなる。
妙な間が空き、僕の予想は確信に変わる。
やっぱりこれは告白なんだと・・。
桐ヶ谷さんに呼び出されたと知った時は、陰気臭いとか見ているとムカつくみたいないちゃもんを付けられたシメられるのではと考えていたが、この反応は明らかに僕に恋をしてるのでは!?
そんな淡い期待も彼女の言葉で全てが泡になってしまうのであった。
「あーし実は死神なんだよね」
「・・・は?」
笑顔でさらっと告げられたその言葉に僕の思考は停止する。
間の抜けた声を出した僕を見てクスクスと桐ヶ谷さんは笑う。
「アハハハ、何その声。だから、私は死神っていう存在なの」
胸を張ってそう言った彼女に僕は首を傾げる。
その様子を見つつ僕は思考を巡らす。
死神ってなんだっけ・・と。
小説や漫画・アニメが好きな僕はそれらに出てくる死神という存在に頭を悩ませていると・・。
「死期が近い人間の前に現れる不幸の前兆みたいなモンかな」
僕の心を読んだかのような返答に僕は思わず後ずさる。
偶然なのだろうが、急に死神の説明をされて戸惑ってしまう。
「だから偶然じゃないって!私は死神、三島っちの心の中見るなんてお茶の子さいさいってわけ」
手をヒラヒラと振り、呆れ顔で言う桐ヶ谷さん。
いつの間にか三島っちとあだ名で呼ばれていたが、そんなことも気にならないくらいに現状に困惑していた。
彼女は言い終えると、頭の整理が追いついていない僕のもとにゆっくりと近づく。
「ち、ちょっと桐ヶ谷さん!?」
「動くなって、|近づかないと見えないっつーの≪・・・・・・・・・・・・・・≫
そんな桐ヶ谷さんの瞳を見て僕は息を呑む。
人の瞳ではない青白く光る、螺旋状の瞳。
それは幻想的で、魅惑的な何かであった。
「あのさ・・。」
そこで桐ヶ谷さんは咳払いをする。
「この目で見てる時は三島っちの心の声が筒抜けなんだから、そのポエムみたいなのやめてくんない?」
僕はみるみると頬を紅潮させ、俯く。
彼女に自分の思っていたことを知られたことがなによりも恥ずかしく、消し去りたいほどだった。
だが、頭の隅にあった彼女の言葉を思い出し思わず顔を上げてしまった。
「ちょっと待って?死期の近い人間の前に現れるって・・。」
「え?あーそーだよ。三島っちはもうすぐ死ぬってこと」
小悪魔のような笑みでそう言い放つ彼女に僕は拍子抜けする。
「そ、そんなこと・・。」
「ありえないって思ってんの?」
人を試すような不敵な笑みに僕はたじろぐ。
彼女の言葉に嘘はないと本能的に感じてしまっているのか、僕は蛇に睨まれたネズミのようにその場から動けなくなってしまっていた。
「なんなら、いつ死ぬか言ってあげよっか?」
「えっ!?」
「三島っちは・・」
「ま、待って・・ッ!!」
「70年後に死ぬってことになってんの!」
僕の静止も聞かずに桐ヶ谷さんは決めポーズなのか、人差し指で僕のことを指して、声高々にそう宣言する。
だが、拍子抜けなその言葉に僕は唖然としてしまうのであった・・。
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ruinと申します。
なろうでは、初投稿となりますので、温かい目で見ていただけると光栄です。
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