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1話 魔物を使役する者

「ご主人様、お飲み物をご用意いたしました」



「ああ、ありがとう、トリス」



俺は従者の女性から、飲み物が入ったグラスを受け取る。

面会に来ていた部下の騎士も同様に彼女からグラスを受け取った。



「あの、隊長、彼女は、その……人間、なのですか?」



トリス、彼女は七色の髪をした美しい女性、両腕にも七色の飾り羽が生えており、歩くだけで周囲を華やかにしてくれる。

彼女の亜人化前の名はコカトリス、大型の魔鳥種だ。



「彼女は亜人だ。入ったばかりのお前は知らないかもしれないが、俺は魔物を亜人にする秘術を使うことができるんだ。

彼女の亜人化前の種族は魔鳥種のコカトリスだよ」



部下の騎士は口を開けたままポカンとした様子で俺の話を聞いていた。



「えっと、それじゃあ、あの隅で掃除をしている醜鬼(ゴブリン)や扉の近くに観葉植物みたいに置かれている幽霊樹(ゴーストリーフ)もですか?」



新入りの騎士は周囲にいる魔物の姿をした亜人を指さした。



「ああ、そうだ。ゴブリンはゴブ、ゴーストリーフはリーフという名だ。

俺の亜人化の術は、ある程度の知能がある魔物や魔力が高い魔物、加えて俺の魔力使用量によって、その姿が人間に近くなるんだ。

もちろん、魔物の姿でも俺の指示には従うし、人間の姿の亜人と何ら変わりない」



「へ……へえー」



***



思い返せば、あれから3年か。


3年前、ここリアレーン領に魔王が現れ、俺を含む騎士団たちが討伐した。

その際の調査で、壁画に描かれた秘術を発見した俺は、その秘術の研究を進め、1年ほどかけて魔物を亜人にし使役する術を開発した。


そして、そこからさらに1年をかけ、亜人化の術を魔物に行使し、その能力を把握していった。


まず、亜人化することで俺の指示には従うようになる。


これは俺が使用する魔力量を調整することで、自由意志を持たせることや、奴隷のように従属させることもできる。


ただ、元が魔物なだけに自由意志を持たせるのは、いささか不安があるし、俺のもとを離れるのも危険な気がするため、現在は従者としての亜人化のみを行っている。


そのほかには、知識と知恵は術者である俺をもとにしているため、言語による意思疎通も可能。

亜人化する際の年齢は種族の個体年齢が人間の年齢に換算されるようだ。


また、身体能力については、単純に人間のそれに魔物の身体能力が上乗せされるようなもので、人型の亜人であっても魔物のときのような身体能力を発揮することができる。


知能が低い場合や魔力量が少ない場合は、人型にはならず、魔物の姿に近い状態となる。


醜鬼(ゴブリン)などは、俺がどんなに魔力を消費しても、肌ツヤが良くなるだけで、魔物の姿から人の姿になることはなかった。

肌ツヤが良くなるだけで、だいぶまともな見た目になるんだけどね。


まあ、亜人化の術についてはこんな感じだったな。


改めて考えれば、軍事利用するには、かなり優れた能力だと思う。

しかし、実際にはその秘術を使いこなせる者は俺しかおらず、騎士や兵士の補充をするほどまでには普及していないのが現実だ。


俺一人で、軍事力になるほどの魔物の亜人化は正直現実的ではないし、なによりめんどくさい。


亜人化の術は大量に魔力を消費する。

それこそ、上位の魔物となれば、しばらくは戦闘行為ができないほどだ。

それを軍隊レベルの規模で……考えたくもない。


まあ、その功績が認められ、俺は聖闘騎士団リアレーン支部、第二部隊隊長に昇格したわけだけどね。

同時に元第二部隊隊長は第一部隊の隊長を務めることとなった。


あのクソ隊長、いつも俺の少し上を行きやがる。

まあ、実力もあるし、部下にも慕われているから当然と言えば当然なんだが。


あとは、そうだな、俺について疎ましく思う者も増えた気がする。

どうやら陰で何かを言われているようだが、気にする必要はないだろう。

魔王討伐の際の功績か、単純な実力によってか、俺への風当たりが強くなることはないわけだしな。


ここまでで3年か、長かったような短かったような……。



***




「とまあ、そんな感じで、俺は討伐依頼のあった魔物を亜人化して、従者として従えてるってわけだ。

そんなことより、今はお前のことだ。えっと……ノルクス・ガーレンだったかな。

ガーレンと言えば……」



「はい、下級貴族として名が知られているかと思います」



俺の話を遮るように新入りは答えた。


下級貴族、ということは、こいつも俺同様の扱いを受ける可能性があるな。

騎士団と言っても、全員ができた人間ばかりではない。

成り上がりの騎士からすれば、貴族階級の者が気に食わないというのもあるだろうからな。



「お前は俺の部下だ、今後何かあれば俺を頼るといい。

できる限りのことはしてやるつもりだ。

貴族というだけで、お前への風当たりも……」



ドンドン


俺の話を遮るように扉が大きな音を立てて叩かれる。



「隊長!レオン隊長、いらっしゃいますか?至急、お伝えしたいことがございます」



俺は扉の近くに置かれている幽霊樹(リーフ)と掃除中の醜鬼(ゴブ)に目線で合図する。

俺の視線を感じ取ったリーフが枝を伸ばし、扉を開け、ゴブが出迎える。



「うおっ、ゴブリン!?あっ、いや、失礼しました。やはり部屋に魔物がいるとびっくりしてしまいますね」



リーフもゴブも、もう魔物ではないんだけどな。

まあ、あいつらは見た目が魔物に近いから、そう言われても仕方ないとは思うけど。



「どうした、なにかあったのか?」



「あっ、隊長、面談中失礼します!

我が領内に魔人が出現!現在、討伐班を編成中です!

それに先立ち、第二部隊隊長は手勢を率い先行してほしいとのことです!」



魔人か……最近は魔物の出現も減ってきていたように感じるが、なんでまた急に。


まあ、それはいい。それはいいんだが、なんで俺が先行しなきゃならないんだっての。

毎度毎度、損な役回りだよ。

他の隊長様方は何をしてるんだ、俺よりも向上心のあるやつに行かせればいいだろうに。



「分かった、ラメロのやつは何してる?」



「ラメロ副隊長であれば、すでに手勢を集めるために動いています。

隊長の準備ができる頃には、手勢の準備も終わっている頃かと」


相変わらず、優秀な副隊長様だよ。

なんなら、あいつが隊長にでもなればいいのに。

あいつは俺が推薦しても受け入れないし、妙に俺の下で働くことにこだわるんだよな。

魔王を倒したことが、そんなにすごいもんかね。



「いいだろう、10分で準備を済ませ、現地へ向かうぞ」



「ははっ!」



***



それから俺は、約20名の部下を引き連れ、魔人が出現した場所に向かった。



「隊長、すでに数名の冒険者と戦闘中のようです」



副隊長(ラメロ)の言う通り、目の前ではすでに戦闘が繰り広げられていた。

まだ遠く、はっきりと把握することは困難だが、敵は魔人1人。

コウモリのような大きな翼を持っており、宙に浮いた状態で冒険者たちと交戦している。


地上には冒険者数名、すでに何名かは倒されているようだ。

もともとこの付近にいた冒険者か、ギルドから依頼されたのか、いずれにしても彼らでは手に負えないだろう。



「ラメロ!冒険者の救助を頼む、何人かの騎士を連れていけ!残りは、俺と一緒に来い!魔人を討伐するぞ!」



「了解」



俺の指示にラメロは部下を数名連れて、隊列を離れる。

残りの騎士たちは鬨の声(ときのこえ)を上げ、俺とともに魔人に向かっていく。


そして俺は、雷を打たれたように全身に電気が流れるような感覚を覚えた。

いや、実際には雷に打たれたことはないのだが、それぐらいの衝撃という意味だ。


その魔人は、紫の長い綺麗な髪をなびかせ、凛とした顔立ちにどこか幼さを残し、スラリとした肌の白い女性の魔人だった。

一言で言えば、絶世の美女とでも言うのだろうか。


瞬間、俺が今まで見てきた中で一番美しい女性であると感じた。

俺の視線は一瞬で釘付けになった、これが俗にいう一目惚れというやつなんだと直感的に理解したのだった。

ソドム「領内に出現した魔人に例の第二部隊隊長レオン・バークスが接触いたしました」


モールス「うむ、しかし、本当にその者は反乱を企てておるのか?」


ソドム「はい、確かな筋の情報です。その証拠に、やつは魔物を使役し利用しているとか」


モールス「だが、それは新たな秘術の効果実験だと……」


ソドム「いずれにしろ、すでに間者は忍ばせております。すぐにやつの企みも明るみに出るでしょう」


モールス「う、うむ。引き続き警戒に当たれ」

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