にゃんは世界を救えます〜魔王は猫と女が好きらしいので聖女に猫耳メイドのコスプレさせてみた
「く、くそっ! なんて強さだ!」
勇者であるケビンはパーティーメンバーと共に魔王城に来ていた。
世界を滅ぼそうとしていた魔王と戦闘が始まったが、どれだけ攻撃しようとスキのない魔王には防がれてダメージが与えられない。
「『聖なる槍』!」
「フハハハッ! 無駄無駄無駄ぁ!」
魔王の魔法であろう漆黒の魔力で構築された魔弾によって、神々しい光を放つ槍は跡形もなく打ち消される。
「くそったれめ! 何か弱点はないのか!」
パーティーメンバーである聖騎士のアイク、上級魔法師のクレアは既に気絶していて、聖女であるアリアも既に満身創痍だった。
ケビンは『鑑定』を使って必死に魔王の弱点を探す。
(何処だ! 何処だ何処だ何処だ! ……ん?)
『鑑定』によって脳に流れてくる魔王の情報の中に、ケビンは一つの可能性を感じた。
(いや……それで倒せたら俺は今までなんの為に……)
「ケビン危ないっ!」
「なっ!? グオッ!?」
魔王はいつの間にか目の前にいて、ケビンの鳩尾を蹴り上げた。
ケビンは後ろにいるアリアの元まで吹き飛ばされた。
「ぐっ……ゴホッゴホッ!」
「ケビン大丈夫!?」
「あ、ああ……」
(……もうこれで駄目なら世界は終わりだ。どうせ終わるなら試してみるしかない)
ケビンは異空間からあるものを取り出した。
「アリア、俺が時間を稼ぐ。その間にこれを着てきてくれ」
アリアはケビンから渡された服と装備品を見て一気に顔が赤くなる。
「け、ケビン、何よこれ! こんな時に何考えてるの!」
「頼む! ついでに……」
ケビンは服を着たあとにする行動について耳打ちする。
幸い魔王は戦いを楽しみたいのかただの馬鹿なのか知らないが、律儀に待ってくれている。
「も、もう、なんでこんな時にそんな馬鹿な事……」
「これしかない。スキさえあれば急所を突けば一撃で倒せる」
「……分かったわ。死なないでね」
「任せろ!」
「作戦会議は終わったか! では行くぞ!」
ケビンは魔王による連撃に必死に耐え続けた。
自分からは攻撃する事なく、ただただ必死に攻撃を避けて受け流し続ける。
「ぐっ……ガハッ!?」
必死に耐え続けていたが、均衡が敗れて一撃をもらったケビンは後ろにある壁に叩きつけられた。
「……これで終わりか。つまらんな」
「く、くそっ……」
ケビンが諦めかけたその時、ようやくアリアがケビンの用意した服と装備品をつけて戻って来た。
「ま、魔王様、私の事は見逃してくださいにゃん」
「──っ!?」
魔王が見たその姿は、メイド服を着たアリアだった。
更に髪の毛によって上手く隠されたカチューシャの猫耳。メイド服の穴から通された下着につけられた尻尾。
それは正しく、猫耳メイドという姿そのものだった。
(たまたま雑貨屋にあったグッズを買っておいて良かった……)
ケビンはこの先彼女が出来たらこの姿になってもらいたいと思い、この猫耳メイドセットを買っておいたのだ。
「な、何という可愛さだ! これぞ私の求めていた姿! 素晴らしいぞ!」
魔族領に猫耳メイドがいなかったのか、猫と女好きな魔王にはどストライクだったようで興奮していた。
魔王はアリアに見惚れて近付いていく。
「魔王様……私はもう勇者なんてどうでもいいにゃん。だから……」
「そうか……うむ、ならばこちらへ来るがいい。そうすれば見逃してやるぞ」
(……アホだこいつ)
何も知らない魔法は猫耳メイドのアリアによって思考が鈍っているのか、なんの疑いもなくアリアを自分の近くに向かわせた。
アリアは言われた通りに魔王の近くに向かい、魔王はアリアを守るように後ろに立たせた。
(アリア……頼むぞ)
「『闇の霧』」
ケビンが唱えると、ケビンを中心にドス黒い霧が辺りを支配した。
「最後の抵抗か! 無駄な事よ!」
それでも視界が霧で染まっている事は確かだ。
魔王の側にいたアリアは『身体強化』のレベルを最大に上げて魔王の目の前に立った。
そして静かにメイド服に忍ばせていたナイフで魔王の頭を突き刺した。
「がっ!? ……ぁっ……」
頭にナイフが刺さったまま、魔王は膝から崩れ落ちて倒れた。
「や、やったか……」
魔力を使い果たしたケビンもその場で倒れて仰向けになり、魔法によって破壊された魔王城の天井の間から空を見た。
すると駆け込んできたアリアが、その視界に入った。
「ケビン……倒せたにゃん」
「……納得いかねぇぇぇ!」
今までの苦労は何だったのか。
強いだけで馬鹿だった魔王は猫耳メイドのコスプレをした聖女によって倒され、世界は救われた。