第5話 俺達を襲った首謀者
シーラは、部屋をうろうろしながら考え事をしていた。
侍女のマリーネの報告によると、マックスさんを狙っている貴族って誰かしら?
私が縁談を断った貴族らしいけど・・・いっぱいいるから誰かわからないわ。
マリーネが雇った傭兵が間に合えばいいのだけど・・・
それに、デビルベアの報酬も渡す手はずだし、うまくいけばなんとかなると思うのだけど・・・
一方、この町の外れに広大な土地の中にひときわ大きな屋敷があった。
貴族の中でも有力なドラス伯爵の屋敷である。
なぜ伯爵の屋敷がこんな町外れにある理由については様々な憶測が出ている。
中でもそれらしく広まっているのが、外部から怪しげな連中を引き入れやすいためではないか?というものだ。
その屋敷の1室でドラス伯爵と、その息子のドラス2世が話をしていた。
「オヤジ! 早くシルヴィアかセーラと結婚させてくれよ」
「もう少し待っておれ、相手が相手だけにすぐには出来ない相談だぞ」
「彼女達と結婚するために俺は30過ぎても独身のままでいるんだぜ?」
「わかっておる。そのためにももう女遊びは控えておけよ」
「はいはい、結婚したらやめますよって」
「お前が女を襲った後始末にも金がかかっておるんだぞ、少しは自重しろ」
「だから、あの姫のような美女を抱けるなら他はいらねぇから大丈夫だって、
特にシルヴィアがいいな、あのお高く止まってる女を蹂躙できるとなるともういてもたってもいられん!」
「しかし、シルヴィアには気になっておる男がおっただろ?」
「そいつなら今頃死んでる頃ですわ!」
「お前もやりおるな」
「父上の息子ですから」
「「フッハハハハ!!」」
そんな中、執事が部屋に飛び込んできて、ドラス2世に歩み寄った。
「残念な報告です。雇った3名は暗殺に失敗しました。
スラムにある彼の小屋には死体が3つ転がっており、彼やその妹はどうやら逃げたようです」
「なんだと! どういう事だ! 手練の3人ではなかったのか!」
「落ち着け息子よ。むしろ都合が良いではないか?
マックスを殺人の罪で捕まえ処刑すればいい」
「さすがだぜオヤジ! それでいこう!」
ディエネ女王が治めるハイランド国の比較的近くに魔王城の一つがある。
そこの主は大魔王マモンという貪欲な魔王であり、配下に魔王クラスの力を持つ配下
もいる程だ。15年前までは積極的にハイランド国に魔物をしかけては、食物から金銭
宝物、女子供にいたるまで略奪していた。
ハイランド国も黙ってはおらず、ある時王自ら出陣し魔王軍に決戦を挑んだ。
女王も参戦する予定だったが、妊娠していたため出陣は見送られたが、それが後に後
悔の元となってしまった。
戦いは激しく、魔王軍の幹部も何名か倒したが、王を始め名だたる騎士も死んでしま
ったため双方痛み分けに終わった感じだったが、大魔王マモンは健在だったため、いつ
再侵攻がはじまってもおかしくない状況だった。
その魔王城で大魔王マモンと配下の魔王アンドラスが話していた。
「大魔王様、ハイランド国で勇者とおぼしき者への襲撃は失敗したようです」
「所詮、人間に任せたのが間違いなのだ。
しかし、本当にそいつなのか?
15年前一筋の強き光があの国に降り立った
それから魔物が近づきにくくなったのだが、それはディエネ女王が生んだ双子のせい
かと思ったが、様子見で送ったデビルベアをああも簡単に倒したあの男が怪しいな」
「そうですな。念のためその男を亡き者にしようとしたところ、我ら以外にも彼を邪魔と思う者がいた事が判明しました。今後はそいつらと手を組んであの国を混乱と破滅に導きましょう」
「そうだな、あの双子とその男には今後も注意しておけ、できればあの双子は妾に欲しいものだな。グフグフッ」
「お主も好きだな。今までも何人もの女と遊んでは、すぐ食べてしまっただろ」
「遊びながら食べるのが一番いいんだよ。ヘヘッ」
「おい、ヨダレがでてるぞ。汚ねぇなぁ」
俺はナオさんの家から出るとき、襲撃者の情報を知りたいため持ち物を確認したところ、特に手がかりはなかったが、金貨が大量にあったので失敬する事にした。
これからの生活には必要だからだ。
そういった作業をしながら、俺は自分の力について思い馳せていた。
普段の戦闘ではそうでもないが、強敵やピンチの時に体が軽く勝手に動くような感じで敵を圧倒してしまっている。それに、さっきの剣を手に入れるために念じただけで剣を引き寄せる事ができた。
俺は、試しにその辺の物を手をかざして、あの剣の時のように引き寄せてみた。
すると目標の物が手の中に飛び込んできた。
「これは、便利だ。しかし、魔法とは違うこの力は・・・
まぁ、普段は使わないようにするか」
その様子を上から見ている存在があった。
女神メアリーと天使ラグエルである。
「大天使ラグエル様、彼の強さは飛び抜けていますね。
なぜ勇者として宣言してはいけないのですか?
彼なら歴代随一の勇者になれますが?」
「堕天使メアリー、いやここでは女神か
彼は私の盟友である大天使ケレリタスの転生体だよ。
今は記憶を封印しているが、徐々に目覚め始めている。
さっきの彼の力は、超能力を含めても、まだ半分も出ていないであろう
彼の本来の役目は、邪悪な存在を滅ぼすもの
しかも名前のごとく、そのスピードは光の速度を超えると言われている程だ。
さっきのスピードなど比較にならんよ」
「その天使の名前は、ここでは古の破壊神として知られています。
まさか、彼がそれだなんて・・・もうこの世界は終わりですか?」
「もともとは貴方がより強い者の召喚を望んでいたではないか?
まぁ、この世界が彼を呼んだというのもあるのだ・・・弱き者達の怨嗟の声が彼を望んでいたからだよ
全てが憎い・・・破壊神ケレリタスよ、全てを破壊してくれ・・・とね。
彼は破壊神ではないのに、勘違いにも程がある。
だが、敵にとってはそうかもしれないね。」
「だから、スラムで生まれたのですね。そんな彼を貴族は殺そうとするなんて・・
もし彼がこの国を敵と認識したら・・・」
「一夜にして滅ぶだろうな。あのソドムの町がそうであったように・・・
モーゼの民を襲う軍隊がそうであったように・・・」
「それもこの国の住民が選ぶ事です。全ては人々が選ぶ事ですね」
シルヴィアはというと、シーラに会いに屋敷に来ていた。
部屋に入るなりいきなりシーラに問いかけた。
「マックス達が襲われたってどういう事?犯人は誰?」
「シルヴィア落ち着いて。襲われたってどういう事?」
シルヴィアは知っているかぎりの状況を話した。
「そんな事が・・・そうならないように侍女のマリーネに人を3人雇わせて守らせようとしたのに」
「雇った人はどんな人なの? 襲撃者も男3人だったわ」
「まさかマリーネを疑っているの?」
「それなら違うわ、マリーネが雇ったのは男2人と女1人よ」
「そう・・・ではその3人は何をしているの?」
シルヴィアとシーラは、マリーネに雇った3人の事を聞いたが、まだ3人が戻ってこず行方不明になっている事を知りより一層不安になった。
「こんな事ならやはり私が直接行くべきだったわ!」
「お嬢様!無理言わないで下さい。
お嬢様が直接スラムになんて入れるわけないでしょ!
もう彼の事は諦めて下さい」
「こうなると、ますます欲しくなるわ!」
「お嬢様…
」