ある日の10分休み
ほとんどノリと勢いで書きました〜♪
キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン
ゆったりとしたチャイムの音が鳴り、1時間目の国語の授業が終わる。それにしても困った、時間割が書いてある紙忘れちゃった!
私、谷中美鈴が通うこの安達高校は、1週間の時間割が1人1人に配られる。だから時間割が黒板に書いてあったり掲示板に貼ってあったりしないから、それを忘れてしまうと次の授業がわからないの。入学したばっかりで、月曜の2時間目なんてとても思い出せないんだ。移動教室だったら大変よ。
でも大丈夫。こんなときは友達に見せてもらえばいいんだからね!
私は狭い机と机の間を縫うように進み、親友の湯島那美ちゃんのところに行って話しかける。
「那美ちゃん、次の時間割わかる?」
「うん、わかるよ。美術!」
よかった〜。那美ちゃんは自信溢れる声できっぱりと答えてくれた。
「ありがとっ じゃぁ、持ち物は筆箱だけでいいよね」
美術の教科書とかは美術室に置いてあるんだ。筆箱を持って、那美ちゃんと美術室へと歩いていく。クラスのみんなは半分くらい既に移動してるけど、半分くらいは談笑している。まだ休み時間は8分はあるもんね。でも、早い目の行動を普段から心がけている私達は、迷いなく美術室へ向かう。
軽く那美ちゃんと昨日のことや趣味の話、勉強の話をしながら歩いていく。教室があるのは3階で、美術室があるのは1階だから、階段を下りるの。でも、階段を下りようとしたとき、誰かに呼ばれた。
「美鈴、那美!」
なんだろうと思って振り返ると、同じ中学で隣のクラスになった森口麻美ちゃんだった。麻美ちゃんは何故か大慌てだ。どうしたのかな。
「ねえ、古典の辞書持ってない!? 次、確実に当たるんだけど忘れたの、貸して!」
すっごく必死な顔で頼む麻美ちゃん。大切な友達が困っているんだから、もちろん貸さなきゃね。
「那美ちゃん、麻美ちゃん、ちょっと待ってて。辞書持って来るね」
2人にそう告げて、私は来た道を戻って行き、教室の自分の席へ向かった。さっき国語で使ってたから難なく取り出して、また教室を出る。談笑していたクラスのみんなはさっきよりも半分くらいいなくなっていた。不安になって時計を見ると、休み時間はあと6分。うん、まだまだ大丈夫だね。特に急がずに階段まで行く。2人のもとへ着くと、麻美ちゃんはとても嬉しそうになった。
「美鈴、ありがと〜! あとで返しに行くからね!」
そう言って、麻美ちゃんは走って自分のクラスへ戻っていった。毎日元気だなぁ。
「那美ちゃん、行こっか」
「うん」
タンッタタンッとステップを踏みながらマイペースに階段を下りる。普通に下りてたら、なんかこけそうになるんだ。隣を歩く那美ちゃんは普通に下りてるけどね。
2階に着くと、白衣を着た化学の明石先生が通りすがった。
入っているテニスクラブで挨拶は大切、と叩き込まれた私は、ほぼ無意識におはようございますと挨拶する。同じくテニス部に入ってる那美ちゃんも挨拶をした。私も那美ちゃんも声が高い方だから、廊下で話すと響いてうるさいの。今の挨拶も相当うるさくて、明石先生はちょっと驚いたけど、にっこりと挨拶を返してくれた。でもなんか様子が変、困っているみたいなの。
「先生、どうかしたんですか?」
那美ちゃんが尋ねる。すると、明石先生は手に持った筆を見て、ため息をついて答えた。
「実はな、今朝川西先生に筆を貸してもらったとき、できるだけ早く返してと言われたんだ。でも今、筆を使う実験も終わったし返そうと思ったのに川西先生が職員室にいないんだよ。多分美術室にいるんだろうけど、次の実験の用意しないとダメだし……」
川西先生は美術の先生なの。筆かぁ、そういえば次の授業では絵の具で色を塗るって言ってたからなぁ。うん、どうせ美術室に向かってるんだから筆を代わりに返そう!
「先生、私たち次、美術室だから返しますよ」
そう申し出ながら筆を受けとるべく手を出すと、明石先生はとっても嬉しそうに微笑んだ。
「本当か谷中! ありがとう、すごく助かるよ!」
そんなに喜ばれたら嬉しいな。私も微笑み返して筆を受け取った。明石先生は一刻も早く実験の準備だ、と走って去って行った。
「あはは、あの先生って本当に元気よね。気軽に声かけやすい」
明石先生が去って行った方向を見て話す那美ちゃんは楽しそう。
「本当だよね、私あの先生好きだな〜」
授業も面白いし楽しいんだよっ。
それからは高校の先生たちの話をしながら1階に降りる。美術室は階段を降りて左の突き当たり、もちろん左を向く。あれ? おかしいな。廊下に誰もいない……。みんなもう美術室に入ってるの? チャイムが鳴るまでもう時間がないかもしれない。ゆっくりし過ぎたかな。
「ちょっと急ごうか」
那美ちゃんは私の提案に応じて、私たちは早歩きで美術室を目指した。
う〜ん、鳴ったらどうしよう〜。焦るよ。あと約10歩くらい、5歩、3、2、1――ガラッ
キーンコーンカーンコーン……
間、に、合った〜! よかった、扉を開けると同時にチャイムが鳴った。ギリギリセーフだよね?
中を見るとやっぱりみんな着席してるな。いつの間に追い越されたんだろう?
私の席は教卓から見て一番後ろ、今私たちがいる場所から近いところにあるの。
でも、あれ? 誰か座ってる。間違えたのかな。
「ねえ、そこ、私の席だよ」
女物の学生服の肩を叩いて話しかける。もう、席間違えるなんておっちょこちょいだな。笑いそうになってしまう。一体誰だろう。髪が長いから瑠香ちゃんか多岐ちゃんかな。
振り返る姿を見ながら色々予想する。さてさて、間違えたのは誰かな?
――きょとんとした知らない女の人だ。
あれ、なんで? クラスメートの顔はもう覚えたつもりだったんだけどな……ん? 誰かが私の肩を叩いている。振り向くと那美ちゃんだ。何故か顔が青いな。
「あ……ご、ごめん美鈴ちゃん。今時間割見てみたらね、次、美術じゃなくて数学だった……」
そっか、数学か……じゃあ、もといた教室の隣の教室だね。でも、なんで那美ちゃんそんなに焦ってるんだろう?
ん? そういえば、次数学なら今ここにいるのって、誰?
美術室を見回してみる。なんか、ざわざわと話声が出てきたな……でも左からずっと見ていくと、知っている顔があってホッとする。赤城先輩だ!
「って、え!? せんぱ……え?」
混乱していると右腕を思いっきり引っ張られた。
「ど、どどどうも、失礼しましたー!!」
那美ちゃんは大慌てでそれだけ叫んで美術室を出た。私は連れ出された。
う〜ん、まだ状況が掴めない。何があったの? 次は……数学で、3階で、美術じゃなくて、先輩がいて……ああ! わかった! 先輩だらけの美術室に入っちゃったんだ、恥ずかしい〜!
「ごめんね美鈴ちゃん! 数学だよ、石倉先生だよ、怒られる〜!」
「わ、本当だ! 急ごう!」
私と那美ちゃんは全力で階段を駆け上る。3階まで一気に上がり、こんなタイミングだけど思う。あぁ、運動部に入っていてよかった!
那美ちゃんより少し早く着き、急いで隣の教室を開くと、シーンとしていた教室がザワッとした。あぁ、注目されてるよ、恥ずかしい!
「遅れてすいません!」
「谷中、どうしたんだ?」
謝罪すると、国語の新田先生が……え!?
「ちょ、美鈴ちゃん違うよ、もう一つ隣!」 那美ちゃんが慌ててさらに隣の教室の扉を開ける。と、すぐに勢いよく閉めた。
「ご、ごめんなさい!!」
閉めてから叫んで謝るなんて、那美ちゃんはスッゴク焦っている。私もだけどね。あぁ、那美ちゃんの声が廊下で反響してる! いや、それどころじゃない!
「そこは私たちの教室じゃない! その隣でしょ……そこよ!」
那美ちゃんが開けた教室――出発した教室を通り越した隣の教室を開ける。教卓を見ると……
「石倉先生だ! 那美ちゃん、ここだよ!」
「何を騒いどるんだ! 遅刻だぞ、授業中だぞ、何考えてんだ!」
「す、すいません!」
怒る石倉先生に私と那美ちゃんは同時謝った。教室のみんなはクスクス笑っている。そして、開けていった教室の人たちが笑っている声も聞こえる……恥ずかしい。しばらく色んな人に笑われるんだろうな……でも、那美ちゃんと一緒にだし、それが唯一の救いだ。
「そして谷中、お前はなんで筆を握りしめているんだ!」
「筆? ……あ!」
何故か筆を持っている私を見て、みんなさらに笑い出した。あ、この流れに紛れていつの間にか那美ちゃんが座ってる!
裏切りだぁ〜!
「違うんです、これには深〜いわけが――」
「ええい、いいから早く席に着け!」
話も聞いてくれないよ! いまだに3階中から笑い声は響き続けるし、私は顔から火が出るほど恥ずかしい、でも笑い声は鳴り止まない!
その後、私は1ヶ月くらいこのことについてイジラレた。う〜、那美ちゃんも同罪なのにズルい!!
読んでくださってありがとうございました!!