そして
街頭に火が暖かく灯る頃。私は昨日とは違い石畳の大通りを猫さんと歩いていた。
昨日、猫さんと出会った路地が見えてきた。
「昨日あの路地で出会ったんですよね。」と、私が何気なく言うと。
猫さんは「そうだったね。行ってみようか。」、そう言って、裏路地へとサササッと走っていった。まるで猫の様な俊敏な走り、まあ実際猫さんなんですが…と思ながら、「待って下さい。」と、私は猫さんを追った。
裏路地は今日も、冷たい湿気と吹き抜ける風で寒い。
男性の笑い声。
女性の笑い声。
男女が愛し合う声。
夫婦喧嘩の声。
得体の知れない声。
様々な音が聞こえやっぱり怖い。
それを察したのか猫さんは、「何?怖がってるの?」と、からかう様に聞いてきた。
私はちょっとムッとして、「昨日ここでうずくまって震えていたのはどなたでしたっけ?」と、言った。
「そうだったかな?」と、猫さんはそっぽを向いた。
「そうですよ。」と、私がそう言う。
すると猫さん急に立ち止まって少し低い口調で「でも今日、震えているの君だね。」と言った。
私は確かに少し怖くて震えている、でも私は強がって「そんな事無いですよ。」と言っう。
すると猫さんが私の目の前に前に立ちはだかった。
猫さんの顔がさっきと違う。目を見開き口元に笑みもない。
何だか猫さんが少し怖い。
猫さんが「君が…」と言って距離を詰める。
私は思わず後ずさる。
「私が…」
「そう君が…」
更に近づき。私は後ずさる。
「君が…」
更に近づき。私は後ずさる。
背中に硬い物が打つかる。いつの間にかに壁に追い詰められていた。
猫さんは壁に手を突き、私に覆いかぶさる。
風圧が来る。
一瞬私は目を閉じる。
次の瞬間
綺麗な瞳が目の前にあった。
見開いた瞳金色の瞳。
吐息が私の唇をくすぐる。
距離が近い。
ギリギリ目の焦点が合う位の距離。
圧迫感。
恐怖心。
緊張感。
胸がドキドキする。
猫さんが「君が居なければ」と囁く。
近いせいか私の唇に響いてくる。
その響きに「はい…」と、答える。
「君が居なければ、僕は昨日ここで死んでいたかも知れない。」
猫さんの瞳が少し潤みを帯びる。
「はい…」と、答える。
「君がいたから僕はここにいる。」その口調は少し高揚してる様なそれを抑えつける様なかんじだ。
「はい…」と、私が答えるが、猫さんは無言。
金色の瞳が私を見つめる。その瞳に吸い込まれるように時間が止まる。
「君が好きだ。」
「え?」
私の胸が熱くなり顔が火照る、全身を温かい心地いい何かが掛けぬて行く。
これは裸を見たせいでも、舐められたせいでもない。
これはもしや私も猫さんの事が…
彼の顔がだんだんと近づいてくる。
私は思わす目をつぶってしまった。
更に顔が近づく感覚がする。
柔らかい感覚を感じる。
冬の冷気のせいか、少し冷やりとして、なめらかな、ベルベットの様なサワっとした感触。
気持ちがいい。
肌の感触。
そう、頬に柔らかな滑らかな感触。
私は頬摺りされていた。
ホッとしたような。残念な様なそんな気がした。
やっぱり猫、愛情表現が猫そのものだ。
胸の奥から温かい言葉が浮かび上がってくる、「私も猫さんの事が好きだよ。」と、笑顔で言った。
そして私は頬釣りを返した。柔らかくて気持ちがいい。
彼の真剣な表情は崩れ柔らかな笑顔に戻ってくれた、それして「ありがとう。」と嬉しそうに言って頬をすをしてくれた。
私の、この好きという感情がどういうものかは分からない。猫としての彼が好きなのかそれと人としての彼なのか。
でも「好き。」という感情は本物。
彼は「僕も好きだよ。だから僕は何があっても君を守るよ。」そう言うと、私の体を抱きしめた。
「ありがとう。」と、私は彼の暖かくたくましい胸に顔埋めた。
しばらく、そのままお互いの体温を確かめ合い。
私と彼は部屋へ戻り、二人の夜はふけていっく。