仕事
朝から色々と有り過ぎてあっという間に時間が過ぎていた。
「もうこんな時間。」
仕事へ出かけなくてはいけない。
この人いや猫を部屋へ置いていっていいのだろうか?と悩む。
でも連れて行く分けにもいかないし。普通の猫ちゃんだってお留守番できるんだし大丈夫よね。うん、大丈夫。そう自分に言い聞かせ。
猫さんを起こさないように静かに準備をして。そ~っと扉を開け家を出て、そ~っと扉を閉めた。
職場へ向かう道すがら、朝のことを考えた。
裸の男性に舐められた。
相手は人ではないけれど、初めての経験だった。
胸が熱くなり、顔が火照ってきた。
いやいや違う違う。
私は頭を振り、頭を冷やした。
そんな事よりも、何で猫ちゃんが人間の姿になったのかな?
魔法?
妖精のいたずら?
神様の奇跡?
そう言えばどこか遠い国の童話でそんなのがあったような。
助けた動物が人間となってお礼をしに来るとか。そんな童話があったような。
でもあれはあくまで童話だよね。
色々と考えている内に職場の前まで来ていた。
パン屋さん。
私はそこで売り子として働いている。
お店の前で「よし!」と、気合を入れ。
朝のことは一旦忘れて、お店に入った。
お店はそんなに大きくはないけれど評判のいいお店だ。
寡黙だけど、腕のいいご主人と、明るく優しい奥さんの夫婦で経営している。そのに雇わて私は仕事をしている。
バゲットが美味しい評判のお店、朝食のパンを買うお客さんが朝から沢山来客される。
私は忙しく働いた。朝の事などすっかり忘れていた。
忙しい一日が過ぎていく。
夕方前、何だか外の様子が騒がしい。
お店の奥さんが外の様子を見に行き、程なくして帰ってきた。
不快そうな顔をしている。
「何な男がいたわよ。」と、奥さんは言った。
「変な男ですか?」と、私は聞いた。
それに奥さんが答える。
「真冬なのに上半身裸で腰に布を巻いて首に赤いマフラーを巻いただけの男。」
その話を聞くに連れ頭の中に一人の人物が浮かび上がってくる。
「それって!」
そう言って私は店を飛び出した。
「どこいくの?」と、背後から奥さんの声が聞こえたが振り返らなかった。
道に人集りが出来ている。私は人集りへ走った。人集り到着すると、人の間を縫うように進む。
「すみません!失礼します!」
何とか人々を掻き分け、やっと人集りの中心へとたどり着いた。
警務官に質問されている男がいた。
銀髪にテーブルクロスを巻いた男。
間違いない猫さんだ。
「やっぱり。」と、私は呟いた。
その小さな声に反応したのか猫さんは私の方に振り向いた。
「あー居たー!」と、猫さんが叫んだ。
そして私の元へと近寄ってくる。
私は聞いく、「どうしてここに。」
猫さんすこし不満げに言う、「だって起きたら居なくなってたんだもん、だから慌てて匂いを頼りに追いかけて来たんだよ。」
その様子をみて、「君の知り合い?」と警務官が聞いてきた。
「あ、はい一応…」と、私は答えた。
猫さんが横から「僕が寝てる間に居なくなってたんだよ、酷いよね。」と、横槍を入れてきた。
警務官の鋭い眼光が私に向く、「そうなのかね?君は彼を騙して身ぐるみ剥いだのかね。」
私に緊張感がはしる。
「それは違います。」と、私は否定した。
対照的に猫さんが緊張感無く言っう、「彼女の家で寝ただけだよ。」
「なるほど。彼女の家で寝いた。」
鋭い眼光が今度は猫さんに向けられる。
「逆に君が襲ったとか。」と猫さんに問いかけ、続けざまに私に「どうかね。襲われたとかじゃない?朝起きて怖くなって逃げたとか。」と問いかけた。
その言葉に、今朝の事を考える。あれは襲われたの?あれはスキンシップだよね。うん…と思い、「襲われては居ないです。」と答えた。
警務官が聞く、「同意のうえってこと?」
「はい。それに仕事へ行く時に未だ寝ていたので黙って出てきてしまっただけで。起きたた私が居なくて彼は驚いてそんな格好で…」
警務官の鋭い眼光が和らぎ、
「ああ、夜を男女共にして…」
警務官はフンとため息を付いて。
「ああまったく。そういう事か。」
そう言って警務官は行ってしまった。
それと同時に人集りも散らばって行った。
私はまったくこんな所までこんな格好でと思いながらも、このまま放置するわけにもいかない。取り敢えずここはまずいのでお店へと連れて行く。
お店に猫さんを連れて戻ると夫婦はビックリしていた。仕方がない、半裸の男を急に連れてきたのだから。
しかし、猫が人間になったなんて信じてもらえるだろうか?
考えた結果。
追い剥ぎに襲われて、裸で倒れていた所を助けたと言い訳をした。パン屋のご夫婦はその話を信じてくれた。それは可哀想だと同情してくれた。
お店のご主人が服からは着なくなった服までもらってしまった。ズボンとシャツ、それと暖かそうなウールのカーディガン。それらを猫さんにくれた。
しかし、案の定猫さんは自分で服を着れないと言う。
奥のお部屋を借りる。猫さんを部屋に入れ。私はシャツを渡し忘れたと言って部屋の中へ入った。
部屋の中に居る猫さんに服を渡して、「取り敢えず緒戦してみください。」と、やらせてみる。
その間は私はもちろん後ろを向いている。
「ん?ここにこうして?ニャー!」
悪戦苦闘する声が聞こえる。
しばらくすると「出来た。」という声が聞こえた。
恐る恐る後ろを振り向くと、開けたシャツに腰穿き状態のズボン、下着は何とか履けていたので安心した。まあ何とか着ること出来たみたいだ。
あとは私がシャツのボタンとズボンのボタンを締めてあげるだけ。
シャツのボタンをボタンを留めていく。他人のボタンを留めるのは意外に難しいなと思いながらも、徐々へ下へと留めていった。
後はズボンのボタン。
前のボタン…
顔が熱くなってくる。
いや私は何を考えているんだ。
下着を履いて居るのだし何か見える分けじゃない。そういい聞かせて。
ボタンを留めようとする。シャツ以上に留めずらい。
何か手に当ってビクッとする。
何か当たった様な?
まさか…
まあ気の所為、気の所為…
そうそう!うん!
等と思いながらも、何とかボタンを閉じることが出来た。
「これでよし。」
「ありがとー」と猫さんが私に抱きつこうとした。
ここで今朝のようになってはまずいと思い。
身をひらりとかわした。
「なんで避けるの?」
「ダメです。」
「何で?」
「何でも。」
猫さんは朝と同様頬を膨らませていじけてしまった。
そして部屋の隅で丸まっている。このまままた眠ってくれるだろうと思い。私は店先に戻った。
店先に居た奥さんがニヤつきながら私を見ていっう。「シャツを渡すだけでずいぶんと遅かったねー」
私はそれに「いえ…あ、はい…」と、声を詰まらせながら答えた。
「若いっていいわねー」と、奥さんは茶化した。
その後は何事無かったように、いつも通りに仕事をした。
猫さんはありがたい事に、私が仕事をしている間店の奥で寝続けていた。
仕事が終わり、猫さんを起こす。
「帰りますよ。」
猫さんは一旦顔を上げるも又寝る体勢へ。
「帰りますよ。ここに置いていってもいいんですか?」
猫さんはその声にビクッとしてやっと起きて帰る気になってくれた。