今日位は平穏な一日を送りたい
次の日、昨日起こった出来事のせいかもしれないが凄く寝た感じがしない。というか7時間近く寝ていたはずなのに疲れが取れた気がしない。
重い瞼を擦りながら、カーテンを開けに窓のある方へと向かう。ゆっくりとカーテンを開くと俺の今の心境とは真逆に、今日は雲一つない晴天だった。
昨日の今日で何かまたおかしなことが起きる気しかしないが、身支度を整えた後朝食を摂る。両親は共働きなので、基本的に俺が起きた時には両親は既に出勤している。その事もあり、大体俺が家を出るのが最後になる為、鍵を閉めて家を出る。
しばらく学校に続く道を歩くと朔也が目の前にいるのを見つけた為、俺は朔也の元へと駆け寄り声をかける。
「おーす、朔也」
「ああ、一幸か。おはよう」
俺に一言、挨拶を返す朔也。しかしいつもよりも元気が無く、心なしか疲れている様に見えた。
「元気ねーな。どうしたんだ?」
「昨日の事がね、頭から離れなかったものだから何か疲れちゃってね」
「やっぱお前もか」
「逆に昨日だけで色々起こり過ぎたもんだから、仕方ないと割り切った方が早いかもね」
「まあ、考えるだけ無駄だわな。てか考えたら疲れる」
やっぱり朔也も昨日に色々と起こった事もあってか疲れていたようだ。先程から、愛想笑いを浮かべている。
「そういや今日あいつ来んのかな?」
「あー、もしかして響の事?」
「そう、流石にほぼ無傷とはいえ大型トラックに轢かれてるかんな」
「流石に今日は響でも休むでしょ」
ちなみにだが、響は俺達が知ってる限りでは一度も学校を休んだことがない。というよりも響は風邪にすらかかった事が無い。しかし車に轢かれたとなれば話は変わってくる。流石に今日ぐらいは休むはずだ。多分。
「何の話をしてるんだお前ら?」
すると後ろから、先程から話に出てきた人物が話しかけてきた。
「あれ響、今日お前休みじゃ・・・」
そう言って俺は声のした方へと向く。俺は響を見た瞬間、言葉を失った。響を見ると、いたるところに包帯が巻かれており、響から消毒液のような香りがほのかに漂っていた。朔也もどうやら俺と同じような反応をしていた。
「お前、何でそんな包帯巻かれてんのに学校に行こうとしてんだよ!」
「馬鹿なの?もしかして響は馬鹿なの?」
「揃いもそろって2人とも酷くないか?包帯に関して言うなら昨日病院に行った時に、血が出てたもんだったから止血で巻かれた」
「病院に運ばれてそれしか処置されなかったのかよ」
「何かMRIとかCTそれ以外にも色々検査したけど擦り傷で血を流した以外には異常がなかったらしいわ」
「「えっ、何それ怖い」」
病院の診察がおかしいのかはたまた響がおかしいのかが分からなくなってくるぐらいには、こいつの言ってることが分からない。てか車に轢かれて擦り傷しか負わないとなると、逆にどんな構造してるのかが気になってくるぐらいには頭が働かなくなってきていた。
「てか事故の事について何かしら親に言われなかった?」
「そういや、人を助けたのは感心するが、あんな自分が死ぬかも知れない事をするなって言われたわ」
「そりゃ、自分の息子が死ぬかも知れない訳だしそう言うわな」
「あ、でもその前に何でお前生きてんのって皆から言われたわ」
よくよく考えたら、トラックに轢かれて病院に搬送されたって聞かされたら最悪死死んでるかも知れない訳だし、当然の反応といえばそうかもしれないけどなんだか納得いかない。てか理解するのも嫌になってくるな。考えたら負けだな、うん。
「そういえばさ、一緒に搬送されていった子ってどうしたの?」
「知らね」
「そりゃそうか」
「話は変わんだけどさ、多分響に話しかけてくれる聖人君子はいなくなったと思っておいた方が良いぜ」
「何でだよ」
「お前、今自分がどんな格好してんのか分かって行ってるのか?」
ただでさえ、目つきが悪いというだけで悪い噂が流れている奴が至る所に包帯が巻いてあったり絆創膏が張ってあるのだ。正直、どっかで喧嘩してきたのではと思われてしまうだろう。俺だったら多分そう考えるわな。
「別に大丈夫じゃないか?」
「そんなら昼休みにいつもの所で飯食うべ。そん時にどんな反応されたのか聞くわ」
「まあ、見直されるか離れていくかのどちらかなのは確実だね」
「普通だと思うんだけどなぁ」
「「少なくとも普通ではないからな」」
しばらく歩いていると学校に着く。しかしいつもとは違い昇降口が騒がしい。よく見ると昇降口に置いてある掲示板に人が群がっていた。
「何か騒がしくないか?」
「あれじゃない。ほら昨日の」
「あー、お前らのクラスで起きたやつね」
「とりあえず響、あそこの人だかりに突っ込め」
「何でだよ」
「まあいいから行ってこい」
俺が響にそう言うと響は、渋々掲示板のある方へと向かう。すると面白い事に響が行く方向に人だかりが割れていく。まるでモーゼの軌跡を彷彿とさせられる位に奇麗に割れた。その光景を見てしまった俺と朔也は、我慢できず笑ってしまった。
しばらくして響が落ち込んだ様子で戻って来た。
「何であんなに怯えられなきゃいかんの?」
「そりゃお前何でって、ブフッ」
「ちょっと一幸そんなに笑っちゃ可哀そうだよ、クククッ」
「しまいにゃ泣くぞ」
流石にかわいそうになって来たので笑いを何とかしてこらえた。
「悪い悪い、そんでなんて書かれてたんだ?」
「そういえば響をあそこに行かせたのはそれが理由だったね。どうだったの?」
「あー、簡単に言えば何やったかは書かれてないけど謹慎処分3人とその他厳重注意と反省文って書かれてた」
「えぇ・・・」
「本当に何やったんだよ・・・」
謹慎処分になるってほとんど起きないはずだし、もっと言えば何をやって謹慎くらったんだよ。滅茶苦茶気になるけど触らぬ神に祟りなしって言うし。まあ、何があったか先生が話してくれるかもしれないしそれに期待しておこう。
「とりあえず教室行くか」
「そうだね」
「はぁ・・・あそこであんな反応されたし教室行っても腫れものみたいな扱い受けるんだろうな」
「まあ、なんだその・・・うん、あれだほら・・・まあ気をしっかり持てよ」
「もしかしたらあの場面を見てた人が俺達以外にも居たかも知れないしね?」
「元はといえばお前らのせいだろうが!」
「「悪いとは思うけど、反省はしていない」」
「はぁ・・・」
響は深い溜め息をつき教室へとトボトボと歩いて行った。その光景を見て俺と朔也はどうやら同じことを考えたらしい。
「あいつにジュースぐらい奢ってやろう」
「流石にあれはやり過ぎたね」
そう言って俺達は、外からでも分かる程重苦しい雰囲気が漂っている教室へと向かった。