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昼休み

 「とりあえず、龍也と美冬は落ち着け。懐かしいのは分かるが、周りを見てみろ、呆然としてるぞ」


 桜井先生は、2人に言う。2人は先生に言われた通りに周りを見る。すると、2人の頬はみるみる赤く染まる。周りの反応や視線、さっきまで自分達がやっていた事を思い返したのだろう。龍也は顔を下に向けて自分の席へ戻る。

 そして先生は、コホンッと咳払いをして話し出した。


 「さて、気を取り直して彼女は湯之元 美雪(ゆのもとみゆき)家庭の都合により、ここ阿武隈高校へ編入してきた。まあ、私からよりも美雪から話した方が良いだろ」


 そう言うと先生は、美雪に教卓の前に立つように誘導した。そして湯之元さんはまだ頬が赤く染まっているが、教卓の前に立つと前を向き言った。


 「桜井先生の紹介にあずかりました、湯之元美雪です。先程のやり取りを見ていれば分かる人もいるかもしれませんが、小学校の時まではここに住んでいて中学校に上がる時に父の仕事の都合で引っ越していましたが、父の仕事でまたこちらに引っ越すことになったので編入してきました。途中からクラスに参加することになったのですが、よろしくお願いします」


 湯之元さんはそう言うと、こちらに向かって一礼して教卓から移動した。入れ替わりで桜井先生が教卓に立つと先生は言った。


 「それじゃ、美冬の席だが達也の隣だな。お互い知り合いの様だし何か困った事があっても話しやすいだろ。とまあ連絡事項は以上だ、それじゃ授業の準備をしておいてくれ」


 そう言うと先生は、教室から出て行く。すると、クラスの殆どが湯之元さんと達也の元へと向かって行った。


 「朔也、お前はあそこに行かなくていいのか?」

 「何で行く必要があるんだよ」

 「何となくお前なら行きそうだと思ったからだな」

 「そう言う一幸は行かなくてもいいのか?」

 「どうせ俺みたいなのが、関わることは無いだろうから行くことは無いだろ」

  

 朔夜からの問いに対して、俺は答えた後鼻で笑う。というのも、龍也の幼馴染であることが関係してくる。龍也こと好間 達也(よしまたつや)はこのクラスの中心、つまりトップカーストに君臨している為大体の事は彼とその取り巻きで何とかなってしまう為である。ただ、少し問題になりそうな気もするが。


 「まあそれもそうか、あのグループで大体完結するもんな」

 「そういや話は変わるが今日の昼飯、響のとこ行って食わないか?」

 「いきなりどうして?」

 「多分、昼の時間に面倒くさい事に巻き込まれる気がするし後、偶に行ってやらないと響がなぁ」

 「あー、成程ね理解したわ」


 朔夜は、最初俺の言っていた事に疑問を持っていたが、その真意に気付いたのであろうすぐに納得した。

 因みに響こと磐梯 響(ばんだいひびき)は俺と朔也と同じ中学の友人である。と言うよりもうちの中学校から阿武隈高校に来た生徒は俺達以外いない。  


 「まあ、どうなるかは昼休み次第だな」

 「まあ、そうなるね」


 といった話をしていると、一時間目の予鈴が鳴る。予鈴が聞こえた為、湯之元さんに群がっていたクラスメイト達は自分の席へと戻る。心なしか、湯之元さんが疲れている様に見えた。というか質問攻めにあって疲れない奴はいないだろう。質問攻めにあったことは無いが。

 因みに、湯之元さんはまだ教科書が届いていないらしく隣の席の龍也に、見せて貰っている。勿論、机はくっ付けている状態である。

 その状況を羨ましそうにかつ恨めしそうに見ている女子が多数いた事に気付いたが、俺は知らないふりをした。触らぬ神に祟りなしって言うし仕方ないよね。


 色々な視線が飛び交っている中、午前中にある授業は終わり昼飯の時間になった。そしてチャイムが鳴ったと同時にクラスを出て響のいるクラスへと移動した。響のいるクラスはまだ授業が終わっていなかった。響は俺達に気付いたらしく授業が終わると、弁当を持って俺達の元に来た。

 因みに余談だが響がこちらに来ている時に、響のクラスの人達は誰も響の元へと近寄ってこなかった。それどころかみんな響の事を避けてるように見えた。


 俺達は、昇降口にある自動販売機の近くのテーブルに座って話をする。


 「お前まだ、クラスに馴染めてないんだな」

 「一幸、流石にそれは言ってはいけない。本人が気にしてるんだよ、滅茶苦茶」

 「俺は俺ら以外に響にビビらずに、話しかけられる聖人君子がいることを願ってるよ」

 「俺お前らになんかしたっけ?」

 「「何もしてないからじゃね」」

 「えぇ…」


 実際、響が恐れられてるのには理由がある。簡単に言えば見た目であり、背が高い割には細身であり目つきが鋭い為である。それくらいならまだ話しかけてくれる奴はいると思うが、ある噂のせいでこの学年で響は恐れられてしまっている。


 「見た目のせいだけだったらまだしも、あの噂のせいで誰も俺に話しかけてくれないし酷い時には、隣の女子が消しゴムを落とした時に拾ってあげたら、涙目でとてつもなく怯えられたこともあったからな」


 そう響が溜息を吐きながら言っていたのを聞き俺達は苦笑いをするしかなかった。

 

 「あの噂に関して言えば、運が悪かったなとしか言いようがないんだよなぁ」

 「確かにあの噂に関して言えばドンマイとしか言えないからね」


 あの噂とは、響が他校の女子生徒にを襲ったというものであるが、実際は全く違う。

 実際は、その女子生徒が別の男子生徒に襲われている所に突っ込んでいきその生徒を助けに行っただけである。その時に女子生徒を襲った男子生徒が響に殴りかかった際、逆に返り討ちにした所を見られてしまった為、そんな噂が流れてしまった。


 「実際の話からすれば、その時救った女子が今の彼女ですって落ちなんだろ?」

 「そんな事起こる訳無いだろ、その時の助けた女子にすら悲しい事に怖がられたからな」

 「それはご愁傷様です」


 響の家は祖父の代から空手の道場を開いており、物心ついた時から空手をしていた響は全国でも屈指の実力者として知られている。そりゃ不良の一人ぐらい簡単に倒せるだろう。多分目つきも遺伝であるのだろう。響の祖父と父親も響と同じく目つきが鋭い。


 「そういや今日お前らのクラスに編入生来たんだろ、うちのクラスでも話題になってたぞ」

 「お前話す相手いないくせに何でそんなこと知ってんだよ」

 「やめなよ、話す相手が居なくてもままに入るぐらいには話が上がってたんだよきっと。察してあげなよ」

 「しまいにゃ泣くぞ、まあいいけどどんな感じだったんだ?」

 「あー、うん」

 「まあね…」


 俺と朔也は、今朝クラスであった事を話した。すると響は何か微妙な顔をした。

 

 「うん、反応に困るな」

 「逆に、納得できる奴なんか要るのか?」

 「正に、事実は小説より奇なりだね」

 「この後、彼女は寝取られるのかな?」

 

 いきなり響が、訳の解らないことを言い出した。

 

 「「お前、本当そう言うところだよ」」

 「流石にこれは擁護できない」

 「お前のそういうところが根本的な原因だと思うんだけど」

 「でも俺、寝取られモノNGだわ」

 「「じゃあ何で言ったんだよ!」」

 「何となくだな」


 多分響のこういうところが、治ればまだ交流が広がりそうな気もする。多分ね。


 「そろそろ昼休み終わるな」

 

 響がそう言うと俺らはあることを思い出す。


 「さて朔也、クラスに戻ったら何かあったか賭けるか?」

 「いいね、俺はあったにジュース一本賭けるよ」

 「クソッ、先取られたそうなったら俺は逆にかけるしかないな」

 「今回は俺の勝ちで決まりだね」

 「それ何の掛け?」

 「うちのクラスが平和かどうかの掛け」

 「そんな賭け普通に考えたら、一幸の勝ちじゃないのか?」


 響は、俺達に疑問を投げかける。確かにいつもなら意味のない賭けではあるが、今回は違う。

何故なら、編入生が()()()()()()だからである。


 「響、さっき編入生が来たって話をしたよな」

 「それと何の関係が……あっ」

 「気付いたみたいだね」

 「んじゃ俺も何かあるに賭けとくわ」

 「ジュース2本は勘弁してくれ」

 「ま、楽しみにしとくわ。じゃーな」


 そう言って響は、自分のクラスへと戻って行った。


 「にしても不気味だね」

 「確かに、何か違和感があるんだよな」

 「あ、俺らのクラスが異常なくらい静かだからか」

 「あー、俺の負けかー。残念だなー」

 「負けた一幸さんには、先に入ってもらう権利を与えましょう」

 「嫌だけど仕方ない」


 そう言って俺は、教室のドアを開ける。すると、黒板には自習と書かれていた。それだけなら良かったのだが、予鈴も鳴っていないのにみんな自分の席に座っている。しかも誰も話しなどしない、ただ座っているだけだった。


 「「なんだこれ、たまげたなぁ」」


 これが俺達が教室に入った時に不意に出てしまった一言だった。


 




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