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オリンピアの夢  作者: 伊賀嵐 大城
8/10

7話

中年の1年も学生の1年も大体同じ長さだ。

どんな時も4月はあっという間に過ぎ去るものだ。


結局サークルに入ることはなかった。今のところではあるが。


キャンパスは既に初週の半分程度の密度になっていた。普通の学生はこの頃になると出るべき授業と出なくてもいい授業を学び、そして出席カードを真面目そうな友達になんとかして押し付けることを学ぶ。もちろん全員ではないが、やはりそういうのは目につく。


かくいう自分も他人に任せたりなどはしていないが、そこらへんの分別は覚えてきた。別に真面目な学生ではないので、出席のない文化芸術論は出ないことにした。過去に例の夢の自分なりの対策でフロイトの本を読んでいた。彼にはもう飽き飽きしている。もし期末テストが馬鹿みたいに難しかったら、その時は青山に問題文のLINEでも送れば大丈夫だろうと、勝手に予定を立てる。


そのまま授業関連で、木曜2限の必修のキリスト教の基礎の話に移る。


自分の通っている大学はカトリック系の大学なので、1年次にキリスト教の基礎を必修で学ぶ。聖書を購入し、それに沿ったカリキュラムで30回の授業を進めるものだ。自分は前に無宗教だとは言ったが、かといって宗教を否定するわけではない。なので芸術的な側面もあるキリスト教を一応真面目に学んでいる。ルネサンス期なんかは、大体キリスト関連の作品だったりする。

色々な学科の学生がごちゃ混ぜで受けるこの授業は大教室で行われていて、自分は藤田さんと2人で受けていた。

そう、スノボー先輩のモノとされていた藤田さんだ。

だがこの記述には大きな間違いがあり、そもそも藤田さんはスノボー先輩と付き合ってなかった。細かく説明すると長いのだが、真田の思い違いであった。大袈裟が悪く働いた。


それにまんまと騙され、そう言う人だったのかと少し気を落としていた自分は、たまたま学科が同じだったのと、インスタグラムを追加していたのもあり、その事についてをつい細田さん本人にDM(ダイレクトメッセージ)で聞いてしまった。それでこのデマが発覚したわけだ。

「多分それね、新歓の翌週くらいに学校で黒川さん(スノボー代表)に絡まれてね。結構馴れ馴れしかったからそこを見て勘違いしたんだと思う」

至極冷静にそう言った。冷静な人は嫌いじゃない。


こういう経緯で誤解が解かれると共に細田さんとキリ教の授業が被っていることも分かり、友達になった。めんどくさいのでしばらく真田には合わせないでおくことにした。


さて、そのキリスト教であるが先ほども言った通り大教室で席順などはないので、席は決まってない。いつもは真ん中少し前くらいに座っていたのだが、今日は2人とも遅刻してしまったので後ろの左端の席に座っていた。

「正直言って、私は熱心なキリスト教徒じゃない」

と自負する先生の生徒に優しい大きめの板書を写していると、少し前に佇む綺麗なブロンド髪の女性が目に入った。

おそらく留学生であろう、別に特別な光景ではなかった。この大学は交換留学制度を取っていて、国際学部には毎年50名程度の留学生がやってくるらしい。だからそのブロンドやら、肌の色やらには時期に慣れるだろうと思った。



授業が終わった、今回はバビロン捕囚の話だった。先生、ここが正にバビロンだと思います!と言いたくなる。そういう反発的な気持ちを抑えて広げていたレジュメを畳む。細田さんはサークルの友達を昼を過ごすらしいが、どこのサークルだかはまだ聞いていない。

よし、と顔を上げると同時に先ほど見たブロンド髪の女性と目があった。翡翠色の目だ。その目の奥の宇宙空間に引き込まれそうになるのをすんでのところで耐えると、その女性はニコッと微笑んで教室を後にした。海外では目が合うと習慣として微笑むらしいが、その笑みの当事者となるとドキッとする。

「何、男は顔なの、結局なの」

と訝しげに細田さんがこちらを見る。否定することはできなかった。




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