5. お城拝見
我ながら展開が遅いので本日2話目です。
そう言えば前作のとき、次から5話くらいまでは一気にいこうと思っていたのを忘れてた。
……ォォォォオオオオオオオオォォォォ……
そんなおどろおどろしい音が聞こえてきそうな古城である。
崖の上からは見た時は森に埋もれそうな感じであったが、近くで見上げるとかなりの威容を誇っている。
どうやらこの周辺は森の木もかなり大きく育っているため、カモフラージュされていたようだ。
その木々もかなり不気味だ。腐っているかのように紫がかっており、渦を巻くようにうねっている。
巨大で不気味な森のためか、昼間だというのに城に近づくほどに暗くなり、周囲の景色と相まって魔界に踏み込んだかのような錯覚を覚える。
城壁の外は堀になっており、毒々しい色の水が淀んでいる。
城壁はところどころ崩れているが、正面から覗くと壁が迷路のように建てられているのが見え、不穏な空気を放っている。
壁の内側は複雑で立体的な造りをしているため天守は直接は見えないが、不気味な尖塔がいくつもそびえている。
下手に入れば二度と出てこれないことを容易に想像させる。肝試しでも入ってみようなどという者はおるまい。
「アンデッドの住処としては最適ですな」
気楽だね、ニムダくん。
だがニムダの言う通り、ゾンビの身としてはこの雰囲気は心地よくすら感じる。
先住者がいるなら交渉して居候させてもらいたいところだ。
よし、ゾンビは度胸。墓穴に入らずんば墓碑を得ず。
とにかく行ってみるとしよう。
──
降りっぱなしの跳ね橋を渡り、城門前で立ち止まる。
主の機嫌を損ねるわけにはいかんからな。
入る前に一応声を掛けておこう。
──頼もう! 我々は怪しい者ではない! 主はおられるか!
「デャノォー! ヴァェ、ヴァェヴァヴァァヅィィヴォッデャィィ! ヴァウジヴァアヴォルルァリィルルァ!」
しーん……
暫し待つ。
5分……10分……
何も返事はないな。
そもそも返事ができるような知能のある存在がいるのか……?
なんか恥ずかしくなってきた。入ろう。
「主君の挨拶に顔も見せぬとは、思い上がった者共ですな。思い知らせてやりましょう」
やめなさいって。こちらは間借りさせてもらう身だ。低姿勢でいこうじゃないか。
「はっ、主君がそう仰るのであれば」
城門からゾロゾロと中に入ると、瘴気が一層濃くなった。これは確実に邪悪な存在がいるな……
通路を少し行くと、開けた場所に出た。
地面が剥き出しになっており、隅の方の建物は兵士の詰所のようだ。
庭、兼、兵士の訓練所といったところだったのだろうが……今は大量の鎧や人骨が転がっている。侵入した敵に抵抗した兵士達の亡骸だろう。
広場を進み、中ほどに差し掛かると、周囲の人骨がカタカタと震えだし──やがて、一気に人型に組み上がる。
数体の武装したスケルトンが立ち上がり、俺達を取り囲んだ。
『ニンゲンヨ、セイアルモノハコノサキニハユケヌ。ココニイノチヲオイテユクガヨイ』
脳裏に直接たどたどしい声が聞こえた。
俺は片手を上げて挨拶すると、大剣を携えたスケルトンのボスらしき体格の良い個体が俺をまじまじと見る。
『ナンダ、ナカマカ。トオレ』
そう言うとゆっくりと体を分解して元の状態に戻っていった。
うむ、チョロいな。
「どうも、支配者の意志を感じませんな。いくつかの野良グループが棲みついているだけかもしれませんな」
であれば、俺達が混ざるのも簡単かもしれんな。
とりあえず城の天守の方に向かってみよう。
主がいるとすればそこだろうからな。
その後も階段を登ったり降りたりしながら進んで行くと実体を持たないゴーストやスケルトンなど、自我の薄いアンデッド達と幾度か遭遇した。
出会い頭に警戒するような動きを取るが、こちらの姿を確認するとすぐに引っ込んでいった。
セキュリティが甘いな。
それにしても……最初のやつもそうだが、後のやつも俺を人間と勘違いしていたようだが。
「ゾンビが珍しいのかもしれませんが、主君の自我が強く残っているため冥眼でも人間に近い色に見えるようですな。よく見るとちゃんと死んでるのですが」
一般的なアンデッドはこんなに自我が強くないものなのか?
「ヴァンパイアなどの上位アンデッドは別ですが、ゾンビでは聞いたことがありませんな。上位アンデッドであれば冥眼での色は人間からかけ離れておりますから、勘違いはしないものですが」
うーん、自分の立ち位置がよく分からんな。
自分探しする必要がありそうだ。
さしたる障害もなく天守の建物まで辿り着いた。
エイとビイに命じて門を開けさせて中に入ると、しくしくと咽び泣く女の泣き声が聞こえた。
「人間ではありませんな。バンシーでしょう。泣き声に釣られて人間が近寄ると、呪いの金切り声を上げて動きを止めて取り殺します」
なにそれこわい。
まあゾンビだから大丈夫。きっと。
扉を入るとすぐに通路が伸びており、正面に階段が見える。泣き声が聞こえるのは通路脇の扉の先である。
うーん……無視してもいいのだが……どうしても気になるな。男の本能というやつか。
扉を開けてみると、そこは食堂のようで長いテーブルがある。ここはさほど荒れていなく、テーブルの上には食事こそ並んでいないものの、燭台が並び、整頓されているようだった。
その部屋の隅で俯いて泣いているメイド服姿の女がいる。
バンシーだと聞いていたから気付けたのだろうが、普通の人間とは雰囲気が違う。
冥眼で見ると確かにアンデッドの黒いオーラを発しているな。
──もし、お嬢さん。
「ヴォ、ジョッォァ!」
声を掛けると、女はバッと振り向いた。
黒髪ロングの、なかなかの美少女である。泣き腫らしたせいか目の下が厚ぼったい。
「あ、ああ……キャアアアア! ゾンビィィィィ!」
金切り声を上げ、そのまま昏倒した。
……アンデッドにまで気絶されるのか。どんなツラをしてるんだ、俺は。