3. ゾンビサバイバル
アテンション!
ゾンビ達は俺の命令に応え、立ち上がりぴしっと整列した。
ゾンビは全部で4体。恰幅のいい男、細身の男、短髪で長身の女、長髪の小柄な女だ。
君達、自己紹介したまえ。
「グァラッゲッ(腹減った)」
……ゾンビリーダーは意思疎通できるんだよな?
「下級ゾンビの自我など、そんなものですな。冥界から呼び出した時点で魂が劣化していたのでしょう。あなた様の方が珍しい存在です」
ふーむ、そんなもんか。
ところで、腹減ったらしいが、ゾンビはなにを食うんだ?
まさか人に
「屍術師が冥力を与えれば動きますが、食物を食べて自力で冥力に変換することも可能です。食物は動物の肉でも構いません」
よかった。
まあとりあえず試しに冥力とやらを与えてみるか。
さっきの黒いモヤのことだよな?
俺が手をかざして集中すると黒いモヤが出てくる。これをゾンビ達に分けるイメージで……体に吸い込まれていく。
うむ。これは……俺の腹が減るな。
「主君は自分で食事するしかありませんな」
うーん……狩りでもするか……
とりあえず洞窟を出てみよう。
ゾンビ達をゾロゾロと引き連れて外に出る。洞窟はそんなに広くはない。外までは数分の一本道だ。
外に出ると、真夜中の森の中だった。
さっきのお姫様は森を抜けてちゃんと帰れただろうか。
後ろはちょっとした岩肌が剥き出しの崖がそびえており、人二人が並んで通れる程度の穴がさっきの洞窟だ。
横から回り込んで崖の上に出れば遠くまで見渡せそうだな。
だが先にメシだ。冥力を消費したせいでかなり空腹状態だ。
動きの遅いゾンビで狩りなどできるだろうか。
それ以前に……真夜中なので真っ暗でなにも見えない。
「おや、主君は肉眼で見ているのですね」
……そりゃそうだろ。
「いえ、アンデッドはすべからく特殊な視力を備えておりましてな。先ほどの要領で目に冥力を集中してみてもらえますか」
こうか?
黒いモヤが目に集まるイメージで……
すると、闇の中だというのに目の前のニムダが黒いオーラに包まれて見える。
他のゾンビ達も黒いオーラ、森の木々はぼんやりと光って見える。
「冥眼、と呼ばれる力です。生命力を直接見ることができます。アンデッドはスケルトンなどそもそも目のないものも多く、この力で物を見ます。アンデッド相手には隠れてはならない、と言われるのはこれのせいですな」
ほう。ゾンビアイなら透視力というわけか。
木々の合間にチラチラと赤い光が見える。あれが動物だな。
ただ真正直に追いかけて捕まえるのは厳しいだろう。
飛び道具……弓とかがあるといいが作るのも扱うのもゾンビには荷が重い。
それに、既に腹が減ってるので即効性のある方法がいい。
とすると、罠だな。
この辺りには肉食の獣はいるかね?ニムダくん。
それと、川や池、湧き水は?
「森狼や野犬がおりますかな。池は森を少し行けばあったかと」
よし、では……ゾンビ達には名前がなかったな。
さっきの順番でエイ、ビイ、シイ、デイでいいか。
デイは薪拾いだ。洞窟の篝火を絶やしたら火がなくなってしまうからな。
いくらゾンビでも心は人間だ。生肉は食いたくない。
それ以外はついてこい。
ニムダ、池まで先導しろ。
「御意」
──
1時間後、池のほとりに数体の死体が倒れていた。
水を飲みに来たのだろう、群れからはぐれた狼が餌を見つけて近寄ってくる……
「グォォェアァ!」
「ギャン!」
突然起き上がったゾンビ達に襲われて狼はあっという間に死体になった。
うむ、上手くいったな。ゾンビ釣り大作戦。
「さすがですな、マイロード」
狼や野犬は夜行性だ。水場に張ってれば来ると思ったぜ。
本物の死体なので警戒もされなかった。
……でも、よく考えたら群れで来られたら勝てるか分からんな。ゾンビの戦闘力は素手の人間と変わらん。
……この方法は今回だけにしよう。
「我輩は多少の魔法が使えますので、狼如きに遅れは取りませんぞ!」
ほう、頼もしいな。
だが狼を侮ってはならんぞ。集団の狼は強敵だ。
「御意。力に奢らないとは、さすがマイロード」
お前にさすマロされてもな。美少女がいいな。
ともあれ、食料を得られたので心なしか嬉しそうなゾンビ達に担がせて洞窟に戻る。
もちろん血抜きと皮剥ぎも忘れてはいない。
今帰ったぞー。
うむ、ちゃんと薪が足されているな。偉いぞデイ。
頭を撫でてやる。
「ゲェッグ」
褒められたデイは頰の色は分からないが嬉しそうに唸った。
お前に撫でポされてもな。美少女がいいな。
肉を串に刺し、篝火で焼いてみんなで食べた。バーベキューだ。
……ゾンビ生活、意外と楽しいな。どうしよう。