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2. 屍術師


腕立て伏せ、腹筋、反復横跳び、垂直跳び。

一通り自分の性能を確認してみた。


壁際にゾンビ達が体育座りしている後ろでゾンビがトレーニングしている図はさぞかしシュールな光景だろうが、気にしたら負けである。


ちょっと動きにくいが、筋力などは人間だった頃より少々強い程度はある。

人間……屍術師の首を簡単に噛みちぎれるくらいなので、咬合力も強いのだろう。


そうだ、あいつがなにか良いものを持っているかもしれない。確認すべきだろう。


洞窟の端に転がしておいた死体に近寄ってみる。


ん……?

死体はもちろんそのままだが、その上……腰の高さくらいにボヤッとした白い玉が浮いている。


魂とかだろうか?

触れてみると、突然空腹感に襲われた。

これを喰えってことか?


抗いがたい飢餓感。

俺はその魂らしきものを丸呑みにした。


つるんとした喉越し。

突っかかるようなこともなく、感触は腹の中へ落ちていく。


どこからともなく声が聞こえる……



『進化条件を満たしました。進化しますか?』



あ、これ俺の心の声だわ。


言葉で聞こえたわけでなく、直感的に理解した。

3つのイメージが脳裏に浮かんでくる……



【ゾンビリーダー】

ゾンビのリーダー。他のアンデッドと意思疎通が可能になる。


【ジャイアントゾンビ】

巨人のゾンビ。強靭な筋力と体力を誇る。


【スケルトン】

動く人骨。



……もっとマシなものはないのだろうか。


とりあえずジャイアントゾンビは人間から離れていきそうなので除外だ。


スケルトンは見た目的にはマシかもしれないが、進化という気がしないので除外。


ということで消去法でゾンビリーダーしかないな。



決めた瞬間、全身が禍々しいモヤに包まれ、体がメキメキと音を立てる。

モヤが収まった時、そこには……一体のゾンビが立っていたのだ。


いや、変わってねーから、ソレ。


しかしまあ、死体を喰えってよりマシだったのはよかった。

あ、なんかきた。


『屍術(初級)を習得しました』


と、心の中で呟いた。いや、自分で言ってんだけど。


ほう、俺もこの屍術師のように死体を生き返らせることができるのか。

まともに喋れないけど、ちゃんとできるだろうか。


最初に聞いた呪文を思い出しながら唱える。


「デェェルルォドォゥオ! ィヴァアヴォッガェィウァガエイィガェッ!!」


おお、なんとなくそれっぽく聞こえるように言えたんじゃないか? 気のせいか。


進化時と同じような黒いモヤが俺の手から飛び出し、屍術師を包み込み──やがて吸い込まれて消える。


屍術師の死体がゆらりと起き上がり、こちらを向いた。


それこそスケルトンのような貧相な顔にあご髭が一筋伸びている。

目がビカッと光り思わず身構えるが、そのまま膝をついて頭を垂れた。


「お呼びでしょうか。我が主君よ(マイロード)


うむ、苦しゅうない。

というかお前は喋れんのかよ。


「まだ腐っておりませんゆえ」


なるほど、鮮度が命なわけだ。

それで、お前は何者だ? ここでなにをする気だった?


「我輩は屍術師のニムダと申します。第3王女リリベル=クラウディオを拐かし、ゾンビ化させて操ろうとしておりました」


なんで?


「内部から王国を乗っ取り、美女を侍らせてハーレム三昧」


もういい。


「イエス、マイロード」


俺はなんでゾンビになってる?

よく考えるとまったく記憶がない。


ゾンビになったっていうのに適応し過ぎだよな。動揺もなにもない。

そもそも屍術師に召喚されたんなら、自分の意思で動けるのおかしくない?


「あなた様が何故支配されなかったのかは我輩にも分かりかねますな。屍体反魂術(アニメイトデッド)は召喚・変性・支配・憑依の四段階がございますが、あなた様の魂が強靭だったため支配の段階で失敗したのかもしれませぬ。動揺がないのは変性の効果でしょう。精神構造が人間とは別物になっておられるはずです」


うーん、まあパニクるよりはマシか。

この体は俺のなのか?


「死んですぐ屍術を使えば本人の魂を使うことができますが、そうでない場合は体に適合する魂を冥界から召喚することになりますな。本人の場合もありますが、違うこともあります」


つまり元の体じゃないかもしれないってことか。

というかこの死体は誰だ?

腐ってるってことは死後数週間経過してるんだろうが。


「この洞窟に元からありましたな。王女を王宮に潜り込ませるために高機能にする必要がありまして、絶望感を与えるためにこの洞窟の死体を利用した次第です」


なるほど、絶望させることで良いゾンビが作れると。

……お前は高機能なゾンビみたいだが、絶望してたのか?


「いえ、一瞬でしたし、驚愕の方が大きいです。そう言えばそうですな。制限時間もなさそうですし、絶対服従のようです。おそらく、あなた様の魔力や技量が高いということでしょうな。さすがはマイロード」


よく舌の回る死体だな。

おだてても出るのは緑の体液くらいだぞ。


「はっ、恐縮です」


まあ、屍術について聞ける相手を得られたのは僥倖だな。

さて、次は壁際のゾンビ共をどうするかな……


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