16. 冥婚
「ギンゲイド」
「……ゾン」
オーク達のリーダー、ギンゲイドは俺が声をかけたのに気がついて立ち上がった。
出会った時の覇気はなくゾンビのような顔だ……そういえばゾンビだった。
「殺せ」
ボソリと呟いた。独り言のように後を続ける。
「魔族に支配され手先に成り下がり、お前達に敗北した。挙げ句の果てに化け物にされ……もうオーク達は終わりだ。殺せ」
「解放してもいいんだが……お前の女王はどうするんだ」
「……何故それを?」
「悪いと思ったんだが、魂喰った時に見えたんでな」
ギンゲイドの曲がらぬ強い意志は一つのビジョンを俺に見せた。
『女王の盃』。
ギンゲイドが名乗ったそれは、オーク女王の親衛隊だ。
猛きオークは目を瞑り、天を仰ぐ。
「……女王は」
「お前がここに攻めてきたのは、女王を人質にでも取られたからだろう。魔族によって」
「そうだ。その通り。だが、俺達は失敗した。もはや魔族バウメリアは女王を生かしておくつもりはあるまい」
ギンゲイドは目を開き、俺の方を見る。その目はまっすぐだった。戦士の目だ。
「勘違いするな。お前達に恨みなどない。正々堂々戦い、我らを上回ったお前達に敬意すらある。だから……」
「誇りを抱いたまま逝かせろ、か?」
「そうだ……それだけが今の俺の望み」
「嘘だな。女王の安否はまだ分からん。魔族を倒せたなら、救い出せるかもしれない」
目が微かに揺れる。迷い。
「……奴の居場所は分からぬ。それに俺は既に……死体だ」
「それは俺達を馬鹿にしてるのか? まあ待て」
俺は目を閉じ、集中する。
ギンゲイドを完全に支配できていない理由。それは強固な忠誠心によるものだ。あるいは、愛か。
俺の中にあるギンゲイドの魂。そこから伸びるか細い糸を辿り、魂で繋がった相手を探る。
……見つけた。オークの女王。
牢屋に囚われたオークの女王は…………デカい。
「見つけたぞ。この国の端、巨大な地下迷宮の奥だ。生きてるぞ」
「なんだと……?」
「まあ成仏するんだよな? お前は。魔族の居場所も知れたし、もういいぞ。さらばだ」
俺が手を向けると、ギンゲイドは目に見えて狼狽える。
「お、おい、待て……」
「……ゾン殿、意地が悪いですよ」
それまでアネッサに肩を借りて様子を見ていたリアナが口を出してきた。
「ギンゲイド殿、私達と共に戦いませんか? 魔族と戦うのに戦力が必要ですから」
「……いいのか、俺は、お前達の仲間を……」
「それはお互い様でしょう。私達は本来敵ではない。共通の敵は魔族です」
「……こちらとしても魔族を放っておけばまた手を出してくるだろうし、こんな真似をしてくれたお返しをしてやらないとな」
それを聞いたリアナは俺ににっこりと笑いかける。
「じゃあゾン殿、ここに居てくださるんですね?」
「……まあ行くところもないしな」
「死の王の力を継いだんですから、領主も代わってくれるんですよね?」
げっ……そうなるのか?
今度は俺が狼狽する。
「待て、俺はどこの馬のゾンビ……違う、馬のスケルトン……骨とも分からないさすらいのゾンビだぞ」
それを聞いたリアナは我が意を得たり、とばかりに満面の笑みで手を打ち合わせる。
「では、こうしましょう! 私を娶ればよいのです!」
えっ。
「領主様!? なんてことを!?」
「リッグス、私は結婚してみたかったのです。それが個人的な一番の心残りでした。……ゾン殿、不束者ですが、末永くよろしくお願いいたします」
リアナは深々と頭を下げる。
リッグスは口から魂が抜けかけている。……レイスから魂が抜ける、世にも珍しい光景だ。
……じゃなくて。
「お前、正気か? ゾンビだぞ俺は」
「あら、私だって死んでますわ。人間、外見ではありませんよ」
そもそも人間ではありませんよ。
なんで急にそんな逞しくなってんだ、この娘は。
「リアナ様……ずるい……起きたばかりでそんな……わたしだって……」
「ふむ、これはめでたいですな。死後の結婚は冥婚、と言いましたな。いや、死人と死人だとどうなんでしょうな……」
アンデッド達に祝福(?)されながら、俺は天にも登りたい気分だった。もう昇天したいという意味で。
────
宿を借りるつもりで訪れたゾンビは、領主と結婚してグレンダロフ領主となってしまった。
ゾン=グレンダロフ。いいのかこれ。
ギンゲイドは結局提案を承諾し、俺の喰ったオーク達の魂も女王奪還のため殆どが屍術による復活を選んだ。オークゾンビ部隊の結成だ。
オーク達の生き残りと女王の部族も合流したが、この城には生者は居られないので城の近くの森を拓いて集落を作った。
今は魔族との戦いに備えて軍備を拡張している最中だが、人間達も気になる動きをしている。
どうやら第2王子のクーデターがあったようで、王と第1王子は殺され、例のリリベル王女も行方不明だそうだ。
こちらにとばっちりが来なければどうでもいいのだが……なんとなく巻き込まれそうな予感もしている。
「主君、式の準備ができましたぞ」
控え室にいた俺をニムダが呼びに来た。
黒焦げだったニムダは服を脱ぐように黒焦げの皮を脱いでスケルトンリッチになった。なんでも身軽で気持ちいいそうだ。……俺も脱ごうかな、この肉。
「なんか……なんなんだろうな。アンデッドだよな? 俺達」
「アンデッドだろうとなんであろうと、意志がある以上、楽しめばいいのではないのですかな」
それもそうか。それは俺がリアナに言ったことだったな……
扉を開けると、黒のウェディングドレスを纏った美女が立っていた。こちらに妖艶な微笑みを投げかけてくる。
まあ、いいか。
「じゃあ作るとしよう。アンデッドの楽園を」
「はっ、どこまでもお伴しますぞ」
死の王。復讐に囚われた哀れな王達。
その力を継ぎながらも、俺はアンデッド生を楽しんでやることに決めた。
それこそが、神の定めたクソみたいな運命への復讐になるだろう。
第1章、完結です。
ここまでお付き合い頂いた方、ありがとうございます。
気の赴くまま書いてたらこんな感じになってしまいました。自分としてはこれくらいの長さが好きです。
にしても……あまりゾンビ感ないですね。
自分では結構楽しんで書けたんですが、ウケは悪いだろうな〜とか思ってました。
第2章は未定ですので、一応完結としておきます。
ゾンの正体とか、未消化の伏線もあるので気が向いたら続き書くかもですが、今は他に書こうとしてるものがあるのでしばらくはないと思います。
では、近いうちに。




