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12. 城内戦開始


「来たな」


城壁の上から眼下に展開するオーク軍を見やり、呟いた。敵は城を正面から半円状に取り囲んでいる。


覚えたての蟲術で蝿を召喚して各所を上空から監視しているが、開戦時の相手の様子を直に見ておきたかった。


後方にも蝿を飛ばしているが、ちょっとした崖になっているうえに城壁が高く、段階的にオーバーハングしているのでそちら側からは攻めては来ないようだ。


オークは馬鹿ではないが、武勇を尊び搦め手を嫌うらしい。正面から数と頑強さを頼みに攻めてくるだろう。そしてそれが最も恐ろしい。矢の数本を受けたくらいでは怯みもしないのだ。


実際、最初の奇襲で手の内がバレたか、幾度かの奇襲では殆ど損害を与えられなかったようだ。


『第一陣、来るぞ!』


ガランの思念が伝わって来た。射撃戦が始まる。


弓を使えるスケルトンの数は限られている。侵入を完全に防ぐことはできない。

守備隊には序盤はとにかくあるだけ射ちまくり、仕留められなくても手傷を負わせればよいと伝えてある。

本番は城内に乗り込まれてからだ。


オークは弓を使わず、投槍や投石で城壁のスケルトンを狙い、決死隊を援護する。細い矢ではスケルトンには効果が薄いという判断だろう。

数の差こそあれ、高低差を物ともせずに互角の射撃戦が展開される。


オーク達は降り注ぐ矢を頭上にかざした盾で防ぎながら堀に丸太を渡し、鉤縄のハシゴを投げて城壁に取り付く。


特に屈強な者達が矢傷を受けながらも早くも城壁に登り、壁上のスケルトンを力任せに薙ぎ払う。


「よし、内壁まで退却だ!」


俺は伝令役のゴーストに指示を飛ばし、壁上から飛び降りて城門前の広場に向かう。


城内は階層構造になっており、外壁を突破されても内壁がある。被害が大きくなる前にそちらに戦力を集める。

侵入した奴らは外壁に邪魔がなくなればまず跳ね橋を下ろそうとするだろう。


俺が広場に着いた時、既にそこでも戦闘が始まっていた。

ここには跳ね橋のレバーを守る少数のスケルトンとゴースト部隊を配置してある。仕留めるのは難しいが、闇魔法や幻術による足止めを得意とする部隊だ。

それと……


「頃合いだな。ニムダ」

「承知」


城壁を乗り越えてきたオーク達が集まってきたところで、それまでその場で戦況を見守っていたニムダが魔法を発動する。リッチの面目躍如、呪いの霧だ。

ゴースト達の闇魔法に紛れて黒い霧が辺りを覆う。


「なんだ、こ……!」

「気をつけろ! が……はっ」


この呪いの霧は、生者の傷を広げ、出血を激しくして体力を急速に奪う。

壁を越えるために傷付いたオーク達はその勇猛さが仇となり、次々と倒れていった。


「上手くいきましたな」


「まだまだ。ここからだぞ」


侵入してきたオーク達の全滅を確認した俺は──跳ね橋のレバーを下ろし、城門を開いた。



──



「跳ね橋が降りたぞ!」

「行け、遅れるなよ!」


オーク達の突入部隊が跳ね橋を渡り、城門に殺到する。

跳ね橋を降ろした決死隊の労苦を労うでもなく、戦功を求め我先にと奥に駆けていく……


が、そこで再び城門が閉じた。


「な……!?」

「隊長、こいつら……ぐあっ!」


先に侵入していたオーク達の武器が突入隊に向けて振り下ろされる。


こいつらは俺とニムダによりゾンビ化している。

わざとここまで引き込んでから一網打尽にして、屍体操作術(マリオネットデッド)で蘇らせたのだ。


味方による不意討ちを受けた突入隊は退路を断たれ、為す術もなく全滅した。


「いや、エゲツないですな、主君」


「もう二、三回くらいはいけそうかね」


また戦力が増えたぞ。ありがたい。


城内は死の王の領域だ。アンデッドの魔力・冥力は強化される。

さらに死体から出てきた魂をモグモグするとちょっと回復する。屍術はまだまだ使えるぞ。


突入隊も蘇らせてあげてもう一度同じことを繰り返す。


開ける。閉める。殺す。蘇らせる。

開ける。閉める。殺す。蘇らせる。

開ける。


「入ってこなくなりましたな」


「さすがにバレたかな……じゃあ返すか。行ってこい」


数が多すぎて指示が大変だ。

オークゾンビ達の大半を城外に放り出した。

城外から悲鳴や怒号が聞こえる。


「これで200くらいは削れたかな……」


「まだまだおりますな」


「塵も積もれば山となる。死体も積もれば邪魔となる」


「至言ですな」


「いや、イマイチだな。……壁からも侵入されているようだ。俺たちも下がるぞ」


10ほどのオークゾンビ達を伴い、内壁まで退却する。そこで勝負を決めたい。

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