10. 奇襲
あれから三日後、奴らはついに進軍を開始した。
ちょっかいを出してもこちらからのアクションがなかったから悠長に構えていたらしいな。
おかげでこちらも多少の準備はできた。
切り拓かれた森の中を地響きを立てながら2機の投石機が進んでいく。
投石機の動力はオーク達自身のようだ。奴隷のような格好をしたオークが数人がかりで梶棒を引いている。
森の細い道を行くオーク達の隊列は伸び切っている。
投石機の周囲はそれぞれ20ほどのオークの部隊が護衛しているのみ。
投石機を狙う最大のチャンスだ。
奇襲をかけて投石機を破壊し、即座に離脱する。
そのための遊撃隊は50のゴーストと20の比較的身軽なスケルトン弓兵、そして俺とニムダだ。
『主君、展開完了です。いつでもいけますぞ』
ゴースト達に指示を出していたニムダが念話を送ってくる。
よし、攻撃開始だ。
俺が手を振って合図すると、まずはゴースト達が呪文詠唱を開始する。
ゴースト達の攻撃手段は闇魔法となる。主として精神攻撃だが、ポルターガイストによる撹乱程度の物理攻撃も可能だ。
まずは闇魔法の効果により、周囲を徐々に暗くしていく。
「おい、なんか暗いぞ。松明をつけろ!」
部隊長らしきオークが指示を飛ばす。
が、既に精神攻撃の術中である。
「た、隊長……周りを」
「なんだ、これは……!」
「うわっ、来るなァ!」
奴らには周りの森がおぞましい化け物に変貌し、襲いかかってくるように見えているはずだ。
前後の部隊にも同様の攻撃を仕掛けている。援軍を遅らせるためだ。
幻術に動揺している隙を狙い、樹上に陣取ったスケルトン達が射撃を開始する。
「ぐあっ!」
「なんだ!? 何かがいるぞ!」
勇猛なオークの戦士達だ。いきなり矢を射かけられても動揺はしないだろうが、精神を揺さぶってからなら効果は覿面だ。
意外に正確なスケルトン達の矢に仲間を射抜かれてパニックを起こし、右往左往する。
今だな。
俺は茂みから飛び出し、投石機に駆け寄る。
懐から取り出した物を投げつけた。
「なんだ、この煙、ひどい匂いだ!」
「隊長! 投石機が!」
投石機の中心部分がグズグズに腐り落ちている。
これはトルマルドが完成させた、腐毒爆弾だ。
俺の腐毒を濃縮、腐敗に耐性のある素材で包んで衝撃で爆発するようになっている。
危険過ぎるので俺以外は扱えないが、威力はご覧の通りだ。
「アンデッドの襲撃だ! そいつだ、殺せーッ!」
「敵襲ーッ! 狙いは投石機だ!」
おっと、バレた。早いな。
もう1機の投石機を守るようにオーク達が集まる。
そこを、呪文詠唱を終えたニムダが放った竜巻の魔法が直撃する。
さすが上位アンデッド、リッチの魔法だ。投石機を破壊し尽くすほどの威力があるわけではないが、集合したオーク達を吹き飛ばした。
本当は爆炎の魔法なら手っ取り早いらしいが、森を焼き尽くすわけにはいかんからな。アンデッドは火に弱い。こちらが助からない。
スケルトン達の援護射撃を受けつつ、投石機に近寄って腐毒爆弾を投擲する。任務完了だ。
と──
背後に殺気を感じ、前方に体を投げ出す。
今まで俺が居た場所の地面を戦鎚が叩き、大地が揺れた。
「よくもやってくれたな、ゾンビごときが!」
そこには俺の倍近くの体躯を誇るオークの隊長が憤怒の表情で立っていた。
肩当てを着けているが、目立つのは腹の中央に鎖で繋いでいるメダル……その意匠は抽象化されているが、虫、だろうか。
地面を穿った戦鎚を肩に担ぎ直す。
「俺の秘術を食らって地獄に帰れ!」
オークが何事か呟くと、体から煙が噴き出した。
いや、煙じゃない。
「虫……!?」
「主君、そやつは精霊使いの一種、蟲使いです!」
おいおい、こんなガタイの癖に精霊使いかよ、詐欺だろ。というか虫は精霊なのか……?
オークはニヤリと笑う。
「蝗群。肉を喰らい尽くす蟲の群れだ。好き嫌いはないぞ、腐肉でもな」
マジかよ、スケルトンになっちゃう。
「いけ! 逃がすな!」
号令とともに蝗の群れは俺目掛けて殺到する。
肉を啄ばまれる。これは躱しきれない。やばいな。
「主君!」
ニムダの放った突風の魔法が群れを吹き散らす。ナイスだ。
だが、殺せたわけではない。すぐに戻ってくるだろう。
今のうちに対抗策を……周囲を見渡す。
周囲にあるのは腐り落ちた投石機の残骸とスケルトンに射殺されたオーク達の死体のみだ。
よし、これだ。
俺は早口で呪文を唱える。屍体操作術。
これは屍体反魂術と違い、術者の魂を分け与えて死体を操る。
それぞれの能力は弱いが少ない冥力でより多くを操ることができる。
俺の術が効力を発揮し、全身から矢を生やしたオーク達の死体が立ち上がった。
「今さらゾンビを増やしたところで……!?」
そう、オークの死体を操っても生前の強さがそのまま発揮できるわけではない。高レベル戦士であろう隊長にはあまり脅威とはならないだろう。
ならば……
オークゾンビ達は俺に駆け寄って抱き着いてくる。まあ俺がそう命じたわけだが。名付けて肉鎧。
「なんだ……それでどうしようというのだ! 脳ミソまで腐っているのか!」
オークの隊長が嗤う。
もっともだ。この状態では蝗は防げても動けない。戦鎚でオークゾンビごと砕いて終わりだろう。
が……俺はさらにゾンビ達をくっつけさせる。
もっともっと。
10体以上がくっつくとさながら巨大な肉団子だ。
「な……あ?」
オーク隊長が間の抜けた声を上げた。肉団子はゴロゴロと転がり出し、隊長目掛けて加速する。
「ぬおお、舐めるなァ!」
両手で持った戦鎚を横薙ぎに振るい、肉団子を砕き飛ばす。
「どうだァ! ……あ」
得意げな声を上げる隊長だが、一瞬後、その表情が凍りつく。
空中に舞い散った肉団子の破片の一つ……というか俺が頭上に降ってきたからだ。
戦鎚をフルスイングしてしまった隊長は動けないまま俺を顔面で受け止めた。
さて、こう密着した接近戦なら俺には最強の武器がある。
仮面をくいっと上げて、頭からゲロゲロと緑汁をかけてやる。お前もゾンビになーれ。
「あ……ガァ……」
隊長は頭部が完全に腐り落ち、骨だけになった。うわあグロい。
「主君、ご無事で!?」
ニムダが駆け寄ってくる。
「おう、問題ない。助かったよ」
「では、急いで離脱致しましょう。敵の援軍が集まってきております。ゴースト、スケルトンには退却指示済みです」
「うむ。……あ、ちょっと待て」
隊長の体から抜け出てきた魂を掴んで口に放り込んだ。
蟲術、か。アンデッドにこそ相応しい術だな。
「よし、逃げるぞ」
俺とニムダで生み出した残りのゾンビ達を暴れさせつつ退却した。
今回は上手くいったな。ここからが本番だ。




