第3話 ギルド試験を受けよう!
宿で朝食を食べた俺はさっそく冒険者ギルドに向かう。
ギルドは町の中心部から少し外れたところにあり、外壁の門に近いところにあった。
おそらく町の外に出る冒険者の利便性を考慮してのことだろう。
地方中心都市のギルドなだけあって、建物は石造りの3階建てで、かなり大きい。
正面の入り口から入ってみると、手前の方には鎧などの装備をまとった人が多くいて、椅子に座りながら何かを食べたり、飲んでいたりしていた。
朝っぱらから飲み始めるのも冒険者っぽいな。
奥の方へ行くと受付窓口のようなものが5つ並んでいて
<クエスト受注相談所>
<素材買取所>
<素材販売所>
<冒険者サポートセンター>
<新規冒険者受付>
とあった。
俺が受付まで歩いていくと、
「いらっしゃい。ようこそ冒険者ギルドへ。新規の人か?」
机の前に座っていた筋骨隆々の男が笑顔で声をかけてきてくれた。
「はい。タクミといいます。遠くの国から来たのでまだ全体の仕組みがよくわかりません。色々教えてくださると助かります」
俺はその男に向かって返事をする。
「おうおう、そうか。そしたら、ギルドそのものの説明からしようか。俺の名前はレインだ。呼び捨てで構わん。これから、頻繁に会うだろうから覚えときな」
そういってレインは詳しくギルドの説明を始めてくれた。
このギルドはヴァードル王国の公的機関で、ギルドに登録していると国の中の都市間の行き来は無料で出来るようになるらしい。
ただ、国を跨ぐような移動は国際冒険者資格を取る必要があって、そのためにはAランクの冒険者にならないといけないみたいだ。
それに公的機関だからこそ、冒険者のサポートも充実しており、冒険者試験も無料で初心者の頃は指導員もつくとのこと。
確かに魔物の討伐など依頼には国民の安全を守る側面もあるから国がギルド体制を整えるのは合理的である。
職場として充実しているように思えるが、冒険者は危険な現場に赴くことも多いから、死傷率が高い。だから冒険者になることを希望する人が殺到しすぎるということはないみたいだ。
また、冒険者のランクはFランクからSSランクまでの8段階あり、依頼をこなしていくうちにランクが上がっていくとのこと。
【ちなみに、元の主、ユイ様は余裕のSSランクでした】
アカリがさりげなく自慢してきた。まあ頭の中に響くだけなので、ほかの人に聞かれることもないが。
どうやらアカリを作ったユイという魔法使いはとんでもない人だったようだ。
「以上がギルドの説明だ。しかもラッキーなことに今日が月一回の冒険者試験の日だ。まあ試験といっても検査みたいなもんだから、落ちることはまずないぞ」
「分かりました。よろしくお願いします」
俺は少し不安な気持ちになりながらも、返事をした。
「じゃあ、俺についてこい」
レインは立ち上がり、大きなリュックを背負って出口の方に向かって歩き始めた。
俺もそれについていく。すると、
「おっ、新入りか!、落ちないように精々頑張れよ!!」
などと酒に酔った冒険者が大きな声で俺のほうに向かって叫んできた。
「おい!ダッカ!そんな風に新人に絡むのはやめろ!みんな怖がるんだからな!」
とレインもダッカという冒険者の方に向かって叫び返す。
「すまん、すまん、若いのを見かけるとつい声をかけてしまいたくなるんだ。はははっ!!!」
と豪快な笑い声を飛ばしてきた。
「今のはダッカと言ってBランクのベテラン冒険者だ。口は悪いがいいやつだから安心しな」
そういってレインは歩みを進める。
「これから、外壁の外にでる。必要なものは持ってるか?」
ギルドの出口を出たところで、レインが振り返って質問してくる。
「はい。大丈夫です。ところで、どんなことを試験するんですか?」
まだ何も試験内容について聞けていない俺はそう問い返す。
「それは到着してからのお楽しみだな」
レインはニヤッと笑った。
全く不安が解消されなかったわけだが、俺はレインの後を追って外壁の方に向かって歩き始めた。
門を潜り抜けてから15分ほど歩くとかなり大きめの草原のようなところに来た。そこには俺と同じかそれより若い人たちが15人ほどいた。
「レイン、あの人たちは?」
「ああ、あいつらが今日タクミと同時に試験を受けるやつらだ。いわゆるタクミの同期だな」
レインは俺をその集団の端へ連れていくと、自分はその集団の前に立つ。
「お前ら、よく聞け!改めて自己紹介をするが、俺はレインだ!ギルド職員で元Aランクの冒険者でもある。今回の試験の試験官だ!まず、お前らの冒険者としての適性を調べる。今からお前らに番号を割り振った板を配るからその通りに並ぶこと!」
レインはポケットから小さい板を取り出すと、手前の人から順番に配り始めた。
そして俺のほうまで来ると、
「お前で最後だ。」
と言って18番の板を渡してきた。
「それじゃあさっそく試験を始めるぞ!まずは魔力の測定だ」
言い終えるとレインは呪文を唱え始めた。
すると、何やらゲートのようなものが現れた。
「あれ、転移魔法じゃないか?」
「すげー!さすがAランク!」
と周囲の受験者がざわめき始める。
【転移魔法ですか、なかなかやりますね。離れた空間をつなげるのはかなり高度な技術になります】
上から目線なのは気になるが、アカリが解説してくれた。
【そんなにすごいのか?】
俺が聞いてみると
【この街で出来るような人は30人ほどじゃないでしょうか】
2万人を超えるような大きな都市で30人ということはレインは冒険者としても一流のようだ。
【アカリはできるのか?】
俺は気になって質問してみると
【馬鹿言わないでください。こんな魔法朝飯前です】
となぜかキレ気味に返答を返してきた。どうやら魔法に関してはプライドがあるらしい。
そんな話をしていると、レインの作ったゲートから何やらウサギに小さな角がちょこんと生えたのような魔物が一匹出てきた。
みんなが身構える。
「安心しろ。これはマジックラビットと言ってな、おとなしい草食の魔物だ」
そう言うとレインはウサギを抱きかかえた。
「周囲の魔素に反応して角が伸び縮みする。こいつを抱きかかえると、その人がもつ魔素量、つまり魔力量に応じて角の長さが変化するぞ」
するとウサギの角はぐんぐん伸びて日本刀サイズまで伸びた。
「おお!」
またも受験生から歓声が上がる。
「まあ、1メートンぐらいか、初心者としては0.5メートンぐらい行けば上出来だ」
メートンは大体1メートルと同じくらいの長さっぽいな。
言い終えてから地面にマジックラビットをおろすと、角が元に戻った。
「よし!まず、1番のやつこい!」
高校生くらいの年齢の女子が恐る恐る前に出る。レインがマジックラビットを抱えるように促すと、意を決したように掴みかかった。
すると角は30センチぐらいになった。レインはリュックから巻き尺を取り出して角の長さを図る。
「0.3メートンか。これくらいあれば最初は十分だ!訓練で伸びるからな。よし、次!2番のやつ前に出てこい!」
1番の女子は笑顔でマジックラビットを置くと、集団の方に戻った。
続いた20歳前後の男も40センチぐらいで、それ以降の人も似たり寄ったりだった。
こうして順番は回っていき、いよいよ俺の番になる。
「次で最後だな。18番!来い!」
俺は17番の男子と入れ替わると、マジックラビットを思い切りつかむ。
つぶっていた目を開けると、、、、、普通のウサギだった。
「角がないのか?」
「小さくて見えないだけなんじゃないか?」
なんか受験生のほうまでざわざわし始めた。
「よく見せてみろ」
そういってレインが俺の方に近づき、マジックラビットの頭を注意深く触った。
「どうなんですか!?」
俺は慌ててレインに聞き返す。
「こりゃ、完全に角が消えてるな。てことはお前さん魔力ゼロだぞ」
なんだって!?!?!?!?