第38話 アカリvs伝説の魔物
「変装魔法、私」
アカリは部屋を出た後そうつぶやいた。すると前方に魔法陣が床に垂直の状態で浮かび上がる。
その中を潜り抜けるとそれまでタクミだった体がアカリのものへと変化した。
(タクミ様からお身体を借りることができて助かりました。クラーケン相手に魔力体では厳しいですからね)
現実世界へ向かう途中、アカリはそう思った。
アカリは自分自身の魔法で体を作り出すことが可能だ。それをアカリは魔力体と称している。
これを使ってルーシーを盗賊から守り、撃退したわけであるが、この便利に思える魔法には欠点があった。
それは魔力体の状態を作り出すことに集中力を使わなければならないので、他の魔法を発動しにくくなるということだ。
だから簡単な魔法は使えてもそれだけでクラーケンに勝つことは不可能だと考えたわけである。
そのような問題を解決するためアカリはタクミの体を借りたのだ。
(体の問題は解決したとして、肝心なのは戦い方ですね。まあそれはクラーケンと戦い始めてから決めましょう)
伝説の魔物クラーケンを相手に小手調べしようとする他の人には考えられないような思考回路を巡らせながら、アカリは現実世界の入口への階段を駆け上がっていった。
ーーーーー
水中にポツンと取り残されていた本の中からアカリは現実世界へと飛び出した。
目の前には視界を覆いつくすほど巨大なクラーケンが、10本の足の先端すべてをこちらに向けた状態で静止している。完全に臨戦態勢だ。
普通の人間ならば脇目も降らずに逃げ出すような状況下で、アカリは平然とウォーミングアップを始める。
体の筋肉を伸ばし終えるとアカリは両手を前に突き出す独特な構えで静止した。
水生生物もいなくなった海の底で、無音の時間が過ぎていく、、、
ドドドドドドドドド!!!!!
先に動いたのはクラーケンだった。アカリの下方にあった2本の足を、真っすぐ彼女へと水の抵抗を突き破る勢いでぶつけにかかった。
「避ける時間はないですね、身体強化魔法!」
アカリは頭の中に書斎を思い描きし、本棚から身体強化魔法が書かれた魔導書を呼び寄せるイメージをした。
すると体を魔法陣が包み込み発光する。光が消えるとアカリは体に力がみなぎるのを感じた。
「八ッ!!」
短く太い声を出すとアカリは両腕に力を込め、下から襲い掛かってくる2本の足を受け止める。
とはいえ水中に浮いているアカリは踏ん張ることが出来ないので、アカリは海面の方へと吹っ飛ばされた。
その勢いは衰えることなくついには海面を飛び出し空中にまで達する。
「物理攻撃には物理攻撃でお返ししましょう。形態変化、鳥」
そうつぶやくと同時にアカリの背中から白色の翼が生える。その後さらに上空へと飛び上がった。
そして空中で停止すると今度は頭の向きを逆さまにして地面に向かって羽ばたき始める。
ザッバーーン!!
着水の衝撃をものともせず、水中でもなお羽ばたき、加速し続けたアカリは一瞬でクラーケンの頭部に接近する。そして殴りかかろうとしたその時、
ドーーーーン!
衝撃音と共にアカリの振り上げた右腕の拳は左右から出てきた2本の足に阻まれた。
圧倒的な質量差があるからかクラーケンはびくともしない。
「チッ、この程度の攻撃じゃダメージも与えられませんか」
アカリはすぐさまクラーケンと距離をとることにした。
クラーケンを視界に収めたまま移動する。ところが急にクラーケンのいる辺りが黒くなり見えなくなった。数秒後には暗闇が拡大し、彼女の方へ迫ってくる。
アカリは翼を全速力で動かし、逃れようとした。しかし、四方から追いかけてきた暗闇からの逃げ道はなく、アカリは暗闇に包まれてしまった。
「この暗闇は何なのでしょう、私の視覚を奪う魔法でもかけた?それにしては魔法を使う気配を察知できませんでしたし、、、」
暗い中移動するのは危険と判断したアカリは、その場で停止し思考を巡らせる。
【イカ墨じゃない?だってクラーケンってイカだし】
アカリの頭の中にタクミの声が響いた。
【!!その発想はありませんでした。タクミ様ありがとうございます】
「聴覚強化魔法」
イカ墨と確信したアカリはすぐさま行動に移した。
イカ墨によって視界を奪われた以上、視覚強化魔法を発動したところで意味がないと判断したことからこの魔法を発動する。
小さな音まで聞こえるようになった反面、雑音まで聞こえることから、アカリは神経を研ぎ澄ませつつクラーケンから発せられている音を慎重に聞き分ける。
「、、、!!アイスソード」
手元から氷でできた巨大な剣を作り出す。そしてアカリは魔法で強化した体をよじりながら勢いをつけ左斜め後ろに向かって剣を振り回した。
ギャーーーー!!!
それと同時にまるで海底火山が噴火したのではないかというほど爆音が海底中に響き渡る。
「聴覚強化魔法解除。攻撃が当たったみたいですね、海流魔法」
アカリは辺り一帯の海水をイメージしながら翼を動かすことでイカ墨で真っ黒になった海水を自分の周りからどかしていく。
そして視界が晴れてくるとクラーケンが奇声を上げながら足を振り回しているのが見えた。そのうち1本は先端が欠けている。
暗闇に乗じて攻撃しようとしたクラーケンの足にアカリがカウンターを食らわせたのだ。
「さてと、今のうちに攻撃を畳みかけましょう」
アカリは大剣を両手で強く握りしめた。




