第37話 アカリの2つの頼みごと その2
「俺の心?」
「はい、心は過去に起こったすべての出来事によって形作られるものですから。そのため、タクミ様に関する情報が全てその中に詰まっております。例えば中学3年生で一生懸命作られたポエムもその一つです。あなたの憂いを帯びたその瞳に僕の心は動かされた。」
「おいおいおいおいなんでそれ知ってんだよ!てかこれ読んだの!?」
俺が中学三年生の時に送った魔のラブレターの冒頭だ。書いた時の記憶がこの本に記録されているのかもしれない。
「さっき取り出したとき読みました。私1分あれば一冊読めるんで」
うわぁ、キスどころか最悪の相手に最悪な情報渡してしまった、、、、
「あの、このことはくれぐれもご内密に、、、」
「分かりました、誰にも言いません。本当は世界で1番自分がカッコいいと思っているご主人様(笑)」
し、死にたい、、、
「はい!話を戻しましょう!いきなりですがクイズです。ここに2つの本があります。1つはタクミ様の本、もう1つは私の本。もしタクミ様の体の中に私の本が入ったらどうなるでしょう?」
アカリがクイズを出してきた。
「急だな。うーん、そうだなぁ、、、アカリが俺の体を自由に動かせるようになるってこと?」
「ご名答です。そしてそれが2つ目の頼み事です」
拍手をした後、アカリが俺のことを真面目に見つめてきた。
「それが2つ目?待ってくれ、俺はどうなるんだ?消えちゃわない?」
「それは大丈夫です。私とポジションが変わるだけなのでこの空間の中は自由に行き来できます。ご主人様の中に入っている私にご主人様が話しかけることもできます。」
最後の言葉はややこしいけど要はそういうことか。
「それは構わないんだけど、どうして入れ替わる必要があるんだ?」
今までみたいに俺を誘導してくれるような感じでいいんじゃないか?
「私としても本当は面倒なのでタクミ様にやっていただきたいんですが」
「面倒っていうな」
「私だって本当は書斎に座りながらポテチ食べて、ご主人様があたふたしているところを観戦しつつ嘲笑っていたいのですが」
「言い直すなよ、さらにひどくなってるし」
「今回の敵は強すぎて、今のタクミ様の体捌きや魔法の使い方では負けてしまいます。ならばいっそタクミ様の体を私が使ったほうが効率がいいのです」
アカリがこれだけ言うということはクラーケンはこの世界の中でも上位の魔物なのだろう。
「分かった。アカリに体を貸すよ。その代わり絶対勝ってくれよ?」
「もちろんです。必ず勝ちます」
確かにクラーケンを確実に倒さないとエラたちはもちろんパーティーのみんなにも、オケアンの人々にも被害が出るだろう。ここは世界最強の人物が出てきたほうがいいのかもしれない。
「で、どうやって入れるの?」
そこを知らないと話が進まないからな。
「簡単です。この本を胸の中に押し込んでください」
アカリが俺に黄色いほうの本を渡してきた。
「押し込む?無理に決まってんじゃん!」
「魔法で入り込むようになっているので大丈夫です。」
「魔法ってわかっててもいやだけどなー、、、まあやるよ」
俺はアカリの本を胸の前まで持ってきた。
こんな大きなものを体の中に入れるのは、人間なら誰しも抵抗すると思うがやるしかない。
「えいっ!!!」
俺は胸に本を押し当てた。すると俺の胸部には本が当たる感覚はなくひんやりとした感触が胸にくる。
うっかり見てしまったが辞書が半分だけ体に埋まっている。気持ちわりぃ、、、
「大丈夫です。タクミ様ならできます」
目の前でアカリが励ましてくれた。気のせいかアカリが少し透けて見える。
そして何とか辞書を押し込むと俺は気持ちが悪くなってそのまま意識を失ってしまった。
ーーーーー
「う、うーーん」
どのぐらい時間が経ったのかは分からないが何とか目を覚ますことが出来た。
手足の感覚もしっかりあるし、目を開けると上にガラスの天井が見える。そのままソファで寝てしまったみたいだな。
「お目覚めになられましたかご主人様」
アカリの声が聞こえた。
「ああ、うまくいっ!?」
その次の言葉が出てこなかったのはアカリの声がするほうに<俺>がいたからだ。つまりこの部屋に俺が2人いることになる。
「はい、無事に私は無事にご主人様の体の中に入ることが出来ました。ご主人様の方も問題なさそうですね」
<俺>がアカリの声で喋る。
「自分に話しかけられるって不思議な感覚だな」
「そのうち慣れますので安心してください。おや、もうこんな時間ですか。それでは私は行ってきます。そこの机に座れば私の様子が観察できるので、勇姿をとくとご覧ください」
「了解、ここで留守番してるよ」
「では失礼します」
アカリ(見た目は俺だけど)は俺の入ってきた扉から出ていった。
そして俺は書斎で一人ぼっちになる。
アカリがソファー前のテーブル上にコーヒーを置いて行ってくれていたので一口飲む。その後、俺はカップを持ったまま机に移動した。
椅子に座ると木目調だった机の表面がまるでプロジェクションマッピングをされたかのように色が変わる。そこに移されたのはクラーケンの姿だった。
机の画面に収まらないほど大きいその巨体が目の前に映し出されている。
リアルに見えるので、俺はこれは実際にアカリが目にしている光景そのものなのだろうと推測した。
これをアカリは倒すんだな。
エラを助けようとしたときはアドレナリン出まくってたから分からなかったけど、こうして一歩引いてみると恐ろしく感じる。
「、、、、頑張れよ」
俺は小さな声で呟いた。
【・・・・・・・】




