第35話 アカリの決断
音波爆弾が崖にぶつかったことで起こった茶色の濁りが拡散していく。
現れたのは3人の人影。
それはもちろん俺とエラパパとエラママだ。
いやー、ほんと危なかった。エラが俺たち3人を包むように防御魔法をかけてくれたおかげでクラーケンの攻撃に耐えることが出来た。でも、
【アカリ、バリア出すの遅すぎない!?あと5秒遅れてたらみんな死んでたよ!?】
【生きてるんだから文句言わないでください!あれだけ高密度の魔法を跳ね返すのには準備も必要です!】
【あ、そうなんだ、、、あざっす】
ド正論で返されてしまったのでこれ以上何も言えなかった。
「う、うぅ、、ここはどこだ?私は天国に来たのか?」
気を失っていたエラパパが目を覚ます。アカリによると魔力が不足したことによる貧血のようなものらしい。魔力のない俺には関係ない話だけど。
「うーーん、天国にしては、えらく現世そっくりやな」
エラママも起きだす。
そして振り返った俺と目があった。
「た、タクミ君!?まさか君まで死んでしまったのかい?」
「そんな、彼女もできないうちに死んでしまうなんて、、グスッ」
「、、、エラのお父さん勝手に殺さないでください。そしてエラのお母さん、俺の人生を悲しいものにしないでください。お二人ともまだ死んでないですから」
そういって俺はバリアの外側を指さす。そこにはもちろんクラーケンがいるわけで、、、
「ク、クラーケン!天国まで追いかけてきたのか!?」
「クラーケンが天国に来れるわけあれへん!てことはうちらが地獄に!?こっそり貝殻のネックレスを買ったのが神様にバレてしまったんやろか」
「はい、ストーップ!お二人とも落ち着いて、ね?」
それから二人にまだ自分自身が生きてることを説明するのに少々時間がかかった。その間に聞かなくていいことも聞いてしまった。言わないけど。
ようやく二人が納得したころ。
ゴロゴロ、、、
またクラーケンが音波爆弾の準備を始めた。
【また来ますか。この隙にお二方を逃がしましょう】
【了解!】
アカリが俺たちを包んでいた防御魔法を解いた。
「二人とも、またクラーケンの攻撃が来ます。俺が食い止めるんで二人ともその隙に逃げてください」
「でも、、、」
「俺なら大丈夫です。だからエラのところに向かってやってください」
「ありがとう。君のことは一生忘れない!」
「うちらがあなたの雄姿を語り継いであげる!」
だから勝手に殺さないでって!!!
、、、、、ドーーン!
爆弾が発射された!
「今です!行って!」
ビュン!!!二人の人魚は猛スピードで去っていった。
【これで俺たちとクラーケンの直接対決だ!絶対に勝つぞ!】
【えらく自信満々ですね】
【それはお前がいるからな】
【フフ、いいこと言ってくれるじゃないですか】
目の前に魔法陣が現れ、そこを中心として波が発生する。
ドーーーン!
クラーケンと同じ音波爆弾がアカリによって発動した。
パン!!
クラッカーがなるような軽い、甲高い音が鳴って二つの音波爆弾は相撃ちとなり消滅する。
ここにきて初めてクラーケンは俺たちを観察するためにじっと、その見えない目を俺たちに向けた。
まるで久しぶりに敵に出会ったかのように。
【、、、音波攻撃ぐらいは簡単に消滅させることが出来ますが、ここからの戦闘はより激しいものとなります。タクミ様、魔導書を出してください】
アカリに言われて本を出す。すると水中でページがひとりでにめくられ、真ん中付近で止まった。右側のページに赤色の魔法陣が浮かびあがる。
【タクミ様と出会ってからそれなりに月日が経ちました。そろそろ私の魔力とも馴染んできたでしょう。今なら出来るはずです。タクミ様、右の手を魔法陣に触れてください】
俺は意を決して右手を本と重ねる。触れた手は紙の感触を感じることなく、そのまま体全体が吸い込まれていった。
ーーーーー
暗い中滑り台を頭から落ちていくような感覚に襲われた後、急に視界が明るくなると同時に俺は固い地面に着地した。もちろん顔からだけど。
「痛いなぁもう、アカリってこういうところほんと考えてないよな」
周囲を見ると石造りの廊下だった。片側は窓になっていて太陽の光が差し込んでいる。どこかの建物の中だな。
廊下を進んで行くと突き当りに一つの扉があった。ここに入ればいいのだろうか。
恐る恐る扉を開けると、、、
「いらっしゃいませ、ようこそおいで下さいました。ご主人様」
メイドカフェにいたら人気ナンバーワン間違いなしの美少女が出迎えてくれた。
中を見るとこの前夢の中で見た西洋風の書斎だ。円形の部屋で、壁の部分が本棚になっており360度本に囲まれている。
二階ぐらいの高さまで本が並んでおり、全部読んだら一生かかるだろうなというぐらい沢山あった。天井はガラス張りで暖かな光が真ん中にある木製の重厚感ある机を優しく包んでいた。
「どうですか?良い場所でしょう?この前はすぐ移動してしまったので、お見せする時間がありませんでしたが」
そういいながら手早く準備して、机の前にあるソファーに座る俺にコーヒーを出してくれる。
「ズズズズ、、、なあ、こんなゆっくりしてていいのか?」
「飲みながら言われても説得力がありませんよ。ただ、質問にお答えするとここは時間の流れが違うのでコーヒーを飲む時間ぐらいはあります」
アカリは紅茶を飲む。
「で、なんでここに俺を呼んだんだ?」
「それはタクミ様にお渡ししたいものがあるからです」
パチン!
アカリが指を鳴らすと後ろの本棚から一冊の本が飛んできてアカリの手元に収まった。
「こちらになります」
本の向きを変え、俺に手渡してくる。
それは黄色のハードカバーで、タイトルも背表紙も何も書かれていないようだった。




