第1話 異世界散策
第0話に続き、読んでいただきありがとうございます!
「大丈夫、大丈夫、これは夢だ。ほら目を開ければ、いつも通り」
しかし目をあけてみると、白い翼の生えた女の人が本を読みながら歩いている。
どうやら俺は異世界に来てしまったようだ。
普通の人間が一番多いみたいだが、長い耳を持つエルフなど物語でしか見たことのないような種族も見かける。
困ったことに通る人みんなが俺を見てくる。おそらく現代風の服が目立ってしょうがないのだろう。
こっちだって目立ちたくて目立っているわけではない!と叫んでやりたかったがさらに目立ちそうなのでやめておいた。
そしてもっと困ったことに、俺が飛び出してきたはずの本屋(?)はいつの間にか八百屋になってしまっていた。
眠そうなおばあさんと商品棚にはもやしのような植物しか並んでないところからしてとても元の世界に帰れそうな雰囲気はない。
これは当分帰るのを諦めるしかなさそうだな。まあちょうど土日だったから数日ぐらいなら俺がいなくても騒動にはならないだろう。
立っていても仕方ないので八百屋から数軒隣の服屋で服やカバンを売り、代わりに通行人が着ているような服とリュックを購入して着替える。
ちなみに売った時のお金は金貨2枚と銀貨2枚と銅貨3枚。珍しい服だからと高値で買い取ったと服屋の人は言っていた。購入した服は銀貨4枚と銅貨1枚だった。
これがどれくらいの価値なのかさっぱりわからなかったから服屋のおじさんに聞いてみることにした。
「すいません、私遠いところから来た旅人なのですが、この辺の話を聞かせていただけませんか?」
驚いたことに口から出た言葉は日本語ではなかったのだが、なぜか理解することができた。
「ああ、いいぜ兄ちゃん。珍しい服も売ってくれたしな。」
おじさんはいい笑顔で答えてくれる。
「まず何から聞きたい?」
「この銀貨、銅貨の価値を教えてください」
「そうだな、まず銅貨は一番安い硬貨で、これを10枚集めると銀貨に交換できる。そして銀貨を10枚集めると金貨になるぞ。確か金貨よりも上の硬貨もあるみたいだが、大商人が使うようなもので俺は見たことがない。まあ、普通の人の日給は大体銀貨5枚ぐらいかな。それだけあれば十分に1日は持つからな。」
となると俺の所持金は日給4日分ないぐらいか。あまり多くはないな。仕事を見つけないと明日以降困る。
「私のようなものでも働けるような場所はありますか?」
「そしたら冒険者ギルドに行って冒険者になればいい。試験はあるが、面倒見もいいと聞く」
やはり冒険者か。俺は大して活躍できなさそうなんだけど。
今日は時間も遅いから、冒険者ギルドに行くのは明日にすることにした。
おじさんに宿の場所は教えてもらったので、あとはこの街を散策することにしよう。
街を一通り歩いて感じたのはこの街は都市としてそれなりの大きさがあるということだ。
城こそ建っていないが、中心部には賑やかな商店街が広がっていて活気にあふれている。
また石作りの建物は街の中心部に集中していて、周辺方向、街を囲う外壁に近づくほど木造家屋も増え始める。
俺のたどり着いた場所も外壁の近くだったということだ。
通りを歩いていた人から話を聞いてみると、この街はヴァードル王国にあるカーイルという名前の地方の中心都市で、この国で一番大きい都市、王都までは300キロール(キロとほぼ同じだ)あるらしい。
馬車を使って5、6日ほどかかるようだ。
俺は銅貨5枚で購入したお好み焼きに似た食べ物、コノーミを片手にぶらぶらとしていた。
味は悪くなかったので一先ず食事に関しては口に合いそうだ。
なんてことを考えながら歩いていると、目の前に古本屋があった。
「そういえば俺がこの世界に来た時の空間には本がたくさんあったな」
ためしに店内に入ると、いわゆる昔ながらの古本屋の雰囲気であった。
ふと手に取った本は
⦅ヴァードル王国の歴史~英雄の出現から王国の繁栄まで~⦆
と表紙には書かれており、中もつまらなそうな内容が小さな文字でびっちりと書かれている。
ここで勘の良い人は気づくかもしれないが、本が「読める」のだ。なぜなのかはわからないが、この世界の本は日本語ではないのに俺には読むことができる。
しかし、あの空間にあった本は全く読むことができなかった。
つまり、この異世界の言語とも違う言葉であの本は書かれていたということになる。
結局元の世界に戻れそうな情報は得ることができなかったので、諦めて店の外に出ようとしたその時、俺は店の隅に置かれた「激安コーナー」のところに面白い本を見つけた。
[魔法使いの、魔法使いによる、魔法使いのための本]
なんと、日本語で書かれていたのだ!
おそらく異世界の人には全く読めないはずなので、一冊たった銅貨1枚のコーナーに置かれているのも頷ける。
ちなみにさっきの歴史書のような一般的な本は銀貨3枚程度となかなか値が張る。
だから銅貨一枚のところに置かれているものは状態がかなり悪いものか、⦅漬物石のすべて⦆とかなんで貴重な紙を使って発刊したのか分からないようなものしか並んでいない。
なので俺がこの日本語で書かれた本を店のおばさんのところに持って行ったときにはかなり怪訝そうな顔をされてしまったが、何食わぬ顔で銅貨1枚支払った。
よし、宿に行ってこの本でも読むことにしよう!