第14話 狩りの時間 その2
突進してくるイノースに目を向けていると急に、目の上の方にゲージが表示され始めた。
〈前方にジャイアントイノースを検知しました。これよりナビゲーションを開始いたします〉
女の人のハキハキとした声が聞こえる。
いきなりのことで戸惑うが、なんの補助もなしに戦っても死ぬのは目に見えているので黙って従う。
〈イノースはあと12秒ほどで現在地に到着いたします。合図をいたしましたら、2メートンほど右にダッシュしてください〉
OK右ね。
〈3、2、1、今です〉
俺は合図とともに2メートン、半ば回転するような形で右へ駆ける。
ビュン!
巨大イノースはすれすれのところで目の前を突っ切っていく。
ドガガガガ!
周囲の木をなぎ倒しながら止まる。怖っ!
「ヴォー!!!」
再び俺の方に突進してくる。
〈もう一度カウントダウンをいたしましたら次は左に避けてください。3、2、1、今です!〉
さっきと同じ要領でダッシュすると再び避けることに成功した。
これならなんとか避けることはうまくいきそうだ。
巨大イノースは当たらない苛立ちからどんどん鼻息や鳴き声が荒くなっていく。
そう、俺はまだ避けることができるようになっただけで攻撃は一切できていない。
先生や他のメンバーがイノースと対峙するときは相手の勢いを利用し、すれ違いざまの頭部への一撃で対処することができていた。
しかし、今回のケースの場合には相手の勢いを利用しようものなら良くて骨折、悪ければ腕ごと吹き飛ばされるだろう。
〈これからジャイアントイノースの誘導を開始します。矢印に従い、走ってください〉
アナウンスとともに目の前にはピンク色の赤い道のようなものが示されていた。これに従って行けばいいわけだな。
俺は巨大イノースを無視して走り出す。道はくねくねと曲がっていてイノースが容易には追いつけないような仕組みになっている。
追われている緊張感と久しぶりの全力疾走によってヘトヘトになりながらも、ついに矢印が途絶えるところまで走りきった。
すると目の前にはちょうどイノースが入れるか入れないかぐらいの大きさの洞窟にたどり着いた。
なるほど、そういうことか!
ナビゲーションの意図を理解した俺は入り口でイノースがやってくるのを待つ。
「ヴォーー!」
相変わらず一辺倒な鳴き声を上げつつ俺に向かって突進してくる巨大イノース
〈3、2、1、今です!〉
俺がナビゲーションの合図で避けると
ドーーン!!
巨大イノースはそのまま洞窟の入り口に引っかかり、身動きが取れなくなった。よし!!自然の罠にかかったぞ!!
「ブーーッ!!ブーーーッ!」
まるで豚のような鳴き声で、バタバタと身をよじらせようとするが努力もむなしく、抜け出すことができない。
ここまでくれば、あとは止まっている獲物に攻撃するだけだ。さて、どこから攻撃しよう?体も大きいし普通に剣で傷つけるだけではダメージが小さそうだ。
そんなことを考えていると、イノースの下半身の何か所、例えば尻尾の上や腹の下の方などにピンク色の円が浮かび上がってきた。
試しにその場所を剣で突いて見るとイノースは叫び声を上げ始める。それと同時に目の上にあったゲージがどんどん短くなっていく。ここが急所ということか。
俺には巨大イノースの悲鳴を聞き続ける趣味は持ち合わせていなかったので、それから素早く何か所かの急所を突いて視界の中のゲージをゼロにした。すると
〈ジャイアントイノースの討伐に成功しました。目的達成です。ナビゲーションを終了します〉
プツンという音がした。ふぅ。何とか倒せたみたいだ。
【さすがタクミ様です。見事ジャイアントイノースを討伐いたしましたね!ほら!私の言った通りになったでしょう?】
ナビが終わってすぐにアカリが話しかけてきた。
【と言っても俺はナビゲーションに従っただけだけどな。結局アカリのおかげだよ】
【そんなことはございません。今回の補助はナビゲーションだけなので攻撃を回避し、罠にはめ、攻撃したのはほかでもないタクミ様自身です。それにナビのみで出来たということは訓練さえ積めば自分の力だけで魔物は倒せるということです!】
そうか!俺に自信をもたせるためにやってくれたのか!!ありがとうアカリ!!
、、、、とはならないぞ!戦いで忘れるとこだったけど、わざわざ俺に魔法かけてまでこの状況に陥れたのアカリだよな?結局仕組んだのアカリだよな?死ぬかと思ったんだぞ!!
【チッ、おだてれば忘れると思ったのに】
今なんて言ったぁぁぁ!!!!!
【(鍛えたかったのは本当ですよ。私としましてもタクミ様には強くなっていただきたいですから。口に出しては言いませんけど)】
ーーーーー
アカリに向けて毒を吐き出し切った俺は、洞窟の入り口に引っかかったままの巨大イノースをアカリに魔法で引っ張り出してもらう。大きな角を何とか切り取り、本に収納してからみんなのところに戻った。
「タクミ大丈夫だった!?タクミが巨大なイノースから逃げ出したとき心配したんだからね!!」
ルーシーが涙声になりながら抱きついてくる。やっぱルーシーっていいやつだな。
「大丈夫だったよ。それにほら」
そういって俺は本から巨大イノースの角を取り出す。他のみんなが手に入れた角よりもはるかに大きいものだった。
「そんなに大きいものなの!?それにしてもよく討伐してきたよね」
ステラも驚きを隠せないでいた。
「ああ、本当にタクミの実力に上限はないみたいだね。まだタクミから戦いの話を聞きたいけど、そろそろ日も暮れてきそうだし、リールの村に戻ろう。」
ライアンの提案で俺たちはリールの村に戻ることにした。
途中道に迷いそうにもなったが、ルーシーが先導してくれたことで無事リールの村へ日が暮れる直前に到着することができた。さすがエルフだ。
「タクミ達!遅かったじゃないか。もう少し遅かったら探しに行かなきゃならなかったぞ」
村で待っていた先生がほっとした顔で俺たちを出迎えてくれた。
「すみません。イノースを見つけるのに手間取ってしまいました」
「謝る必要はないぞ。ちゃんと戻ってきたのだから。ところでイノースはどうだった?しっかり討伐できたか?」
俺たちはそれぞれ狩ってきたイノースの角を先生に提出する。
「おお、みんなよくやった!全員が討伐できたのはタクミ達のパーティーだけだぞ!ただ、この角は一体なんだ?、、もしやジャイアントイノースか!?」
先生が驚いた顔で俺を見る。
「はい、とても大きかったです」
「だろうな。これだけの大きさだ。ランクとしてもCランクとBランクの間レベルの強力な魔物だ。」
先生によるとジャイアントイノースはイノースのボス的な存在で、多くの子供を産むそうだ。
つまり、こいつが原因で農作物に被害が出ていて、なおかつ俺がその元凶を断ったということになる。
【もしかしてアカリ、そこまで計算していたのか?】
【まさか。そんなことまで計算できるわけないじゃないですか。】
だよな。いくらアカリだからってそんなことできるわけない、、よね?