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第10話 長い夜の間に

 パーティーが寝静まり、月のない夜空に満点の星が広がっている頃。


 ルーシーがゆっくりと目を開ける。

(みんな寝たね。てか冒険者が見張りも立てずに寝るなんて初心者過ぎ。まあ、あたいにとっては好都合だけど)


 そう思いつつゆっくりと、音を立てずに寝袋から這い出た。そして横で、すやすや寝ているステラのリュックを慎重に探り始める。奥の方から麻袋を取り出した。


(どれどれ、、、この子金貨こんなに持ってんじゃん!ラッキー!)


 ルーシーは何のためらいもなく麻袋を自分のポケットの中に入れてテントの外へ出る。


(これだけでもこのパーティーに潜り込んだ甲斐があったよ。さて、もうこの姿でいる必要ないよね)


「解除」

 と呟くとルーシーの体は淡く白色に光り始める。ゆっくりと背は伸び、光りも徐々に収まり始めると茶色の髪も燃えるような赤色に、そしてエルフ特有の尖った耳も短くなり人間のものとなる。


(やっぱ他人の姿をとるのは疲れるわ。さて、ほかのテントからも目ぼしいもの取ってさっさととんずらしなきゃ)


 ルーシーだった女がソフィアたちのテントに向かって歩き始めたその時。


「アンナさん、そこらへんにしておいた方がいいんじゃないですか?」

 後ろの方から名前を呼ばれた女は驚いて振り返る。


「誰だあんたは!」

 しかし振り返っても人の姿はなかった。


「こちらですよ」

 再び声がした方を向くとそこにはメイド姿をしたひとりの若い女が立っていた。


 身長は150センチ程度で170センチ近くあるアンナと呼ばれた女よりはふた回りも小さい。しかし、その姿からはまるで何百年も生き抜いてきたような落ち着いた気を放っていた。


「あんた只者じゃないね。あたいの背後を簡単に取れるような奴はそう多くはない。それに会ったこともないのにどうやってあたいの名前を知ったんだい?」


「簡単なことです。あなたの心を魔法で読み取っただけです」

 メイド姿の女がさも当然のように言い放つ。


「ふっ。そんなこと簡単にできるなら人間生きるのに苦労しないんだけどね。あんた名前は?」

 アンナは苦笑しつつ聞き返す。


「名前言って覚えられても困るんで言いたくないです」


「、、、そこは空気読んで名前言おうよ。なんか、こう、、一騎打ちって感じにならないじゃん!」


「そんなに声出すと皆さん起きてしまうのでやめてください。面倒なので場所を移しましょう。」


 大きな声を嫌がるようなそぶりを見せつつ、メイド姿の女が指を鳴らすと夜空の星が高速で回転して一点に収束する。


 次の瞬間には先ほどまでいた森の中ではなく下草が焦げた平原へとやってきた。この前タクミが冒険者試験を受けた場所だ。


「は!??ここはどこよ!?」

 アンナは驚きのあまりそれ以上の言葉が出ず口をパクパクさせた。


「ここはカーイルの近くにある平原ですね」


(こんな一瞬で複数人を移動させられる人間なんて存在するわけがない。ひょっとしてとんでもない奴に見つかっちゃったかも。)


 アンナは冷や汗をかきつつも逃げ出すのをこらえる。他人を強制的に移動させることができる人間から逃げても何の意味もないからだ。


「どうやって私のこと見破ったの?」

 アンナはとりあえず時間を稼ぐ作戦に出た。


「言葉遣いの違和感もありましたが一番の違いは食欲の無さですね。ルーシー様がスープ1杯で満足するはずはありません。で、心を読み取ってみると盗みの算段について考えていることがわかったのでずっと警戒しておりました。状況を考えるにルーシー様が薪を取りに行った時に入れ替わったのでしょう」


「あなた近くから監視してたのね。チッ。成り代わる相手を間違えたわ。で、これからどうするわけ?私を葬り去るなら相当の覚悟が必要よ」


 今まで数々の山場を越えてきたアンナには彼女の実力が自分の実力をはるかに上回っていることは理解できていた。服の裏から素早くナイフを2本取り出しメイド姿の女に向かって構える。最期は覚悟していた。


「どうやらアンナさんはシリアスな展開に持っていきたいようですけど、私そんなつもりありませんからね。ご主人様の楽しい楽しいキャンプ訓練を邪魔する輩を排除したいだけです。ステラ様のお金とルーシー様を返していただけるのなら特に危害を加える気はありません」


 ものすごく面倒そうな顔をしながらメイド姿の女は言い放った。


「あ、あんたねこっちの気持ちも考えなさいよ!強いからって偉そうに!こっちだって盗賊の意地があるんだからね!!」

 アンナは訳が分からず逆ギレし始めた。


「はぁ、しょうがないですね。こんなことしてる暇があったらご主人様の寝顔を見ていたいんですけど、お相手しますよ。面倒ですが」

 そういい終えるや否やメイド姿の女は空中からナイフを2本取り出し構えた。


「では、始めますね。」

「ちょっといきな、、、っつ。」


 アンナが言い終えるよりも早くメイド姿の女はアンナの懐に潜り込み、みぞおちを左のナイフで狙う。


 それをアンナが両手のナイフをクロスさせ、その切っ先をナイフの側面で受け止める。ギリッ、ギリッと金属が鈍く擦れ合う音がする。


「この攻撃を受け止めますか。なかなかの反応ですね」


「ほんとは受け止められて焦っているんじゃないの?今度はこっちの番よ!」


 アンナはナイフをはじき返し、その反動で空いた左の脇を右のナイフでねらう。しかし、メイド姿の女は体を反時計回りにひねらせ、右手のナイフで攻撃を捌く。

 そのまま回転したメイド姿の女が腕を目いっぱい伸ばしながらナイフで薙ぎ払いの動作を見せる。


(やっぱり強い!でもまだまだ!!)

 その後も息の付けない接戦が繰り広げられたが、そう長くは持たなかった。

 ついにアンナはメイド姿の女に両方のナイフをとられてしまう。


「両手を挙げてください。さらに武器を取り出そうとしてもその素振りを見せた途端に切りますからね」

 メイド姿の女は喉元にナイフを突きつけつつそう言った。


 隠し武器の存在まで見抜かれたアンナにはそれ以上成す術は残っていなかった。


「何か言葉はありますか?」

「最後にあんたみたいな強いやつと戦えてよかったよ。これで潔くあの世へ行けるよ」

「そうですか。では」


「うっ!」

 それを最後にアンナは突っ伏して動かなくなった。




 ーーーーー

「がー、ごごごごご、んがっ、がーごごごご。」


「まったく、最近の盗賊は死にたがりなんですかね。私がそんなことするはずがないじゃないですか。もう最後は睡眠魔法かけてしまいましたよ」

 メイド姿の女はアンナのいびきを聞きながらそうぼやく。


「あ、ルーシー様の居場所聞くの忘れちゃったじゃないですか!もう!まあ、居場所の見当はついてるんでいいですけど」

 メイド姿の女はアンナのポケットからステラの金貨の入った麻袋を回収すると移動魔法を使って闇夜に紛れる。


「むにゃむにゃ、ちくしょー、おぼえてろよー」


 平原にはアンナの寝言が響くだけだった。

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