街
「ここがグンマーの73都市の1つバエルだ。もっとも今は戦争に負けて18しかないけどな。」
「戦争があったのか。興味深いな」
「知らないのか、シュタイン?」
ブリトーが怪訝そうな顔で聞いてきた。
「知らないとも、是非ともどんなものか聞きたいね」
「参ったな、まぁ用事を済ませてから帰り道に聞かせてやるよ。」
彼はいかつい顔に似合う長いヒゲをいじりながらそういった。
街の中は森の近くなだけあり木造建築にあふれていた。道を歩いていたのは二足歩行の豚いわゆるオークだった。これを見たシュタインはブリトーに尋ねる。
「おい、なんの冗談だ。豚が歩き回っているぞ。」
「おいおい、シュタインの旦那オークすら知らないなんてそれこそ冗談だよな?」
彼は呆れたように答え、それを聞きシュタインは確信した。自分は本当に異世界に来てしまったのだと。
「なぁ、ブリトー。僕も後で話があるよ」
そういって、2人は寂れた建物に向かっていった。
「ここは?」
とシュタイン。
「俺が、造った武器を買い取ってくれるところだ。ここから、材料も買ってるんだが最近は安く買われて高く材料を売られるんだ」
ブリトーはため息をついて店に入っていく。内装も寂れていた。カウンターの奥から豚顔の店主が出て来る。
「やあ、いらっしゃいドワーフの。ん?なんだここはお前のようなものが来る場所じゃない。帰ってくれ」
彼はシュタインを見るなり嫌そうな顔をした。
「まぁ、そうカッカするな。俺の連れだよ旦那。シュタイン、こいつはトーマス。俺のお得意様みたいなもんだ。トーマス、こいつはシュタインだ。よくわからん奴だ」
とブリトーが仲立ちする。
「ふん。まぁいい。それで今日もいつもとおんなじかい?」
トーマスは鼻を鳴らし、そう聞いた。ああと短くブリトーが答える。そうしてやりとりが続く間シュタインはぼーっとしていた。
10分ほどたってからブリトーの用事は済んだ。店を出て彼はたったの7グラニューかとぼやいていた。銀貨1枚と小銀貨3枚分である。
「そんなに、買い叩かれてるのかい?」
とシュタインが尋ねたら
「まぁな、戦前はドワーフの武器は儲かったし、戦時中なんかもっといい値で買ってくれたんだ」
と言った。
「で、旦那は何を探しに来たんだ?」
「金属の原料になりそうな石をね」
「それなら、あのおやっさんのとこがいいかもな種類もあるし、顔見知りじゃなければそっちの方が安い」
少し歩いた先にそれはあった。中から店主が出て来た。
「ブリトー、この街は豚……もといオークしかいないのか?」
「それも後で話す」
店にはたくさんの種類がありシュタインは硝石と硫黄それから
「これは、なんですか?」
とシュタインが尋ねると
「それはね、南の帝国から売りつけられてるクズ石だ。欲しいなら1個1チャットでいいぞ」
と店主は答えよくわからない石を買った。余談ではあるが1グラニューが16チャットであり、1グラニュー硬貨が小銀貨1チャット硬貨が銅貨である。
「5グラニューね」
「ブリトー頼む」
俺かよと言いつつ彼が払う。
帰り道ブリトーは言う
「その石何に使うんだ?」
「帰ったらわかるとも、君も手伝ってくれよ」
「わかった。それから戦争の話しだが少し長くなるぞ?」
「構わないとも」
それから彼は話し始める。人間が魔族たちに戦争を仕掛けたこと。人間の不意打ちによって先代魔王が討たれたこと。リザードマンが突然裏切ったこと。魔族が降伏したこと。領地を分断されてとられたこと。オーク以外の魔族は奴隷にされるか殺されるかだということ。滅ぼされた種族さえいるということ。魔族の大半が人間を嫌っていること。それから、周りを気にしながらそっと言った。
「今代の魔王はダメだ。あいつのせいでいつまでも国が力を取り戻せないんだ」
シュタインはなぜ小声なのか聞くとどこで聞かれているかわからないからと答えた。
「次は旦那が話す番だ、なぜそんなにも無知でいるのか、なぜ俺をブリトーと呼ぶのか」
ブリトーが言う。
「ああ。僕はね、この世界の人間ではないんだ。」
ブリトーは唖然とした顔で彼を見つめ、やがて心配そうに言う。
「え、それはどういうえ?頭大丈夫か?」
「ああ正常だとも。悲しいことにね」
それから彼はグンマー王国にやって来たいきさつを語った。
「だから、僕は帰らなくてはならないんだよ。僕の世界に」
「だ、旦那結婚してたのか」
どことなく悔しそうにブリトーは呟いた。
「理解してくれたのか?」
「まぁ、転移魔法があると言われているからな。かろうじて理解はした。で、俺のあだ名の理由は?」
「それは、秘密だ」
「いつかは教えてくれよ」
「ああ。いつかね」
ブリトーは少し間をおいて聞いた。
「しかしどうやって帰るんだ?」
「さぁ。その方法はこれから見つけるよ。どれだけ時間をかけてでもね」
彼はその長いヒゲをいじりながら尋ねた。
「よかったら、手伝ってやろうか?」
「いいのかい?!それはこっちから頼みたかったことだよ!」
それを聞いて嬉しそうに応えるシュタイン。
「ああ、旦那がいいのならどこへでもついて行ってやるさ」
2人はその後もいろいろ話しながら家へ帰って行った。