モブなのに異世界に召喚されました。理不尽すぎる
ここはどこだろうか?
異世界観あふれる見覚えのない景色を見ながらそう思った。
突然ではあるが私はモブである。
特別な才能があるわけでもなく生まれが特殊でもない平凡で、典型的なモブである。
学校での成績も中の中ぐらいで、友達だって多くもなくかといってボッチなわけでもない。
目立つことのない存在である。
私はそんな自分を気に入っていた。
なぜなら目立つことが嫌いだからだ。
何故中二病を患っているものはああも目立ちたがるのだろう。
目立つということはそれだけ自分の振る舞いや在り方をよく他人に見られるということである。
あることないことを吹聴され、勝手な噂をたてられ、自分と言う存在を勝手に形作られるのだ。
迷惑なことこの上ない。
だから私は目立つのが嫌いだ。
あと、責任を負うのも嫌いだ。
小説では異世界に召喚され、そこで勇者やら聖女やらの役目を勝手におわされ世界を救ってくれと頼まれることがある。
そんな物語を読んでいてよく思うのは、召喚した世界の人間勝手すぎるだろ、と。
それでいてよくそんな環境でがんばれるな、とも。
だってそうだろう?
縁もゆかりもない世界にこちらの都合も関係なく呼ばれ、命の危険にさらされてまで世界を救ってくれだなんて、身勝手にもほどがあると思う。
その上、世界を救えなかったら、自分に責任があると攻められるのだ。
理不尽すぎる。
とはいっても、小説では世界を救えなかった、なんてことはほとんどないのだが。
というか、召喚する人間はほとんどといっていいほど正義感あふれる(現実では滅多にいない)人や、慈愛の精神に溢れた(こちらも滅多にいない)人だ。
その精神のあり方や顔が美形であることを除けば、普通の人だ。
どうせなら、私はいつか世界を救うのよ、と言っているような中二病患者をつれていけばいいのにと思う。
中二病患者だって喜んでそんな展開を受け入れ、世界の救済に力を貸すだろう。
それが双方にとって喜ばしい展開だ。
だからこそ、私は今叫びたい。
ふざけるな、と。
私は今、知らない人間に囲まれている。
全員男だ。
年齢はバラバラで、20から60代ぐらい。
服装はRPGの神官のような格好をしている。
非常に動きにくそうだ。
周りを見渡すとこれまたRPGに出てくる神殿の中にある祭壇のある部屋みたいな光景が広がっていた。
ちなみに数分前まで私は歩き慣れた通学路を使って帰宅していた。
鍵を開けて家に入ろうとしたら、いきなり見覚えのない部屋のなかにいた。
後ろを振り向いても、入ってきたはずのドアはなかった。ちくしょう。
周りの人たちはざわざわしていて、何かを相談しているようだった。
相談し終わったのか、唯一服装の違う人が私の前まで来た。
ちなみにその人は小説の挿し絵にでも載っていそうな王族らしき服を着ていた。
その人ーー目も眩むようなイケメンはアニメ声優のような美声でこう言った。
「聖女よ、召喚に応じてくれて感謝する。我がアクレスティア帝国へようこそ。私たちと共にこの世を脅かす魔王を倒してはくれないか?」
夢であってくれ、と心の底から願った。
イケメンのセリフから数時間経ちました。
それまでに何をしていたかというと、主にこの世界のことや現状の説明だった。
イケメンのセリフから薄々察していたものの、私は異世界召喚というラノベの中でしかないような展開に巻き込まれていた。
この世界では数ヶ月前に魔王を名乗るものが侵略してきているらしい。
魔王の軍勢は強く、このままでは滅ぼされてしまう、と危機感を抱いたお偉いさんが伝承にある聖女召喚に乗り出した。
伝承にある聖女は、膨大な魔力を持つ黒髪の絶世の美女だったらしい。
聖女はその膨大な魔力を持って世界を癒し、守ったーーーーーーーーーーというのがこの国に伝わる伝承。
お偉いさんは半信半疑だったものの、わらにもすがる思いで聖女召喚を行い、私がここに来た。
......気持ちはわからないでもないが、辞めてほしかった。切実に。
ちなみに、私を元の世界に送り返す方法は今のところ不明だ。
私が協力して世界を救うなら、その対価として必ず見つけだすとも言われた。
私の都合も関係なく呼び出したのはあっちなのに.......。
まあ、協力するのならこちらにいる間の衣食住は保障すると言っているから、生きていくためには協力するしかないのだけれど。
ということで、今日から異世界での聖女ライフが始まります。
誰か変わってくれないかな、マジで。