表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏の森の優しいオオカミ  作者: ぐの字
第4章 黄昏の森の優しいオオカミ
19/21

彼の涙

 ある日の夜、兄は神妙な面持ちで話しかけてきた。

「ルカ、あのさ…。お願いがあるんだ。」

兄がお願いを言うなんて、一度も無かったから私は驚いた。

「どしたのお兄ちゃん、何かあったの?」

私は少し、心配しながら尋ねた。

「ッ…。」

兄がものすごく躊躇しながら、必死に言葉を紡ぎだそうとしている。

その緊張感は私にも伝わってきた。その空気を感じながらも兄の言葉を待った。

 そして。

「ボランティア、手伝わせてくれない?」

思っていたよりも、明るい内容に一瞬目を丸くしてしまったのだろう。

兄はとても慌てはじめた。

そんな兄を初めて見たものだから、思わず頬が緩んでしまった。

「ごめん、お兄ちゃん。もちろん手伝ってくれるのは嬉しいよ!でもどうして急に?」

私が尋ねると、兄はまた言葉を選ぶのに試行錯誤し始めた。

こんなに必死に言葉を探す兄が、何を話すのか、再び待った。

「あの絵本…、まだ持ってるよな…?」

あの絵本とは、私が小さい時に貰った絵本だ。夕暮れに一緒に遊んでくれたお姉さんが、寂しがってた私の為に作ってくれた絵本。

 世界に1冊しかない、私だけの絵本だ。

「持ってるも何も、私が朗読の練習でお母さんやお兄ちゃんに聞かせてるじゃない。」

という言葉で、とても大切にしているということを伝えた。

「無理を承知で言うよ。貸してほしいんだ、あの絵本。」

頼む、という言葉で兄は頭を下げた。

私はそれ以上は何も聞けずに、兄にそっと絵本を手渡した。

(愛お姉さん、元気にしてるかな…?)

懐かしくて、寂しい気持ちになりながら、当時の事を思い出した。

あのお姉さんが絵本をくれた時、泣きそうな顔でお別れを告げたのを覚えてる。

お姉さんがそれ以上悲しまないように、必死に笑顔を作ったのも、あの絵本をお姉さんだと思って大切にするって約束したのも、10年経った今でも覚えてる。

 懐かしい記憶を抱えて眠りについたのに、夜中に目が覚めてしまったその日。

喉が渇いたからキッチンに行こうとすると、兄とママがリビングで話し合っているのが聞こえた。

兄の声は、何処か上擦っていた。

私はどうしたのかわからず、二人の話に聞き耳を立てていた。

「それで…意識が戻らないんだって…。でも…、何もしないなんて出来ないって…思って。」

「ルカには言えなくて…。絶対悲しむから、こんな想いは俺だけでいいって。」

「ごめん、母さん。まだ俺弱いや…。」

(私に言えない…?)

「そんなことないわ、あなたは優しくて、とても強い私の自慢の子だわ。ルカだってそう、絵本のお姉さんのおかげであの子は笑顔になったもの。クラージュ、あなたの思うようにしなさい。お母さん、咎めたりなんてしないわ。大丈夫、絶対に愛さんだって意識が戻るわよ。」

ママがあったかくて優しい声で兄に言った。

愛お姉さんの名前が出た時、私は息を飲みこんだ。

(愛お姉さんの…、意識が戻らない…?お兄ちゃん、愛お姉ちゃんを知ってる…?)

たくさんの情報が流れ込んできて、私は喉の渇きも忘れて部屋に戻った。

その後、兄の不器用すぎる優しさと大好きな人の現状に声を殺して泣いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ