無邪気な声と物語
院内へ戻ると、少しだけ賑やかな声がした。
それほど大きくはない病院だが、子供たちが少しでも遊べるようにと、割と広めのスペースがある。
楽しそうな子供たちの声に、少しだけ楽しい気持ちをわけてもらったような気がした。
少し覗き込んでみると、子供たちがたくさん、何かを待ち望んでいるかのようにそわそわしていた。
「子供は好きかな?」
背後からいきなり声をかけられ、思わず小声で驚く。
「ああ、すまんね」と少しいたずら気味に笑いながら、先生が謝る。
「今日は定期の朗読会なんだよ。ボランティアの子が来てくれてるんだが、子供たちに大人気でねェ。」
先生も楽しそうに子供たちの様子を見ている。
「皆の目が、すごくわくわくしてて、楽しそうです。」
私も子供たちの様子を見ながら、その笑顔につられてしまう。
「せっかくなら、中森さんも見て行ったらどうかな?」
先生の唐突の提案に私は「えっ?」と返した。
「ずっと院内に居ても退屈だろう、多少の息抜きになるかもしれないよ。」
少し戸惑ったが、子供たちの様子を見て「そうですね、それじゃ。」と返して、私は子供たちの居る所へ足を踏み入れた。
少し離れたところで観ようと思っていたのだけど、子供たちが一斉にこちらを向いた。
その眼差しは、私が怯えるような恐れるような蔑みの視線なんかじゃなくて、まっすぐでキラキラしてて
純粋な好奇心そのものだった。
男の子が1人、私の元にやってきた。
「おねーちゃん、そんな後ろじゃなくてもっと前においでよ!」
そう言って彼は私の手を引く。
その様子を見て、その場に居た子供たちが全員私を囲みながら誘導する。
「せ、先生…。」とたじろぎながら先生の方を向いた。がそこに先生の姿は無かった。
子供たちの賑やかさに囲まれながらも、私は不思議と安心感を覚え子供たちの輪に加わった。
「きょうねー、おはなしをきかせてもらえるのー!」
小さな女の子は嬉しそうに話す。
「でも今日は来るのが遅いんだよなー」とさっきの男の子がぼやいた。
私は「そっかー、そっかー」としか相槌が出来なかったけど、それでも彼らは嬉しそうに話を続ける。
ふと、大人しそうな男の子が1冊の絵本を手に持っていた。
「それ、何の絵本?」
男の子は恥ずかしそうに、それでもはにかみながら私に本を渡してくれた。
「見てもいい?」
男の子は静かにうなずいた。表紙には狼の絵が描いてあった。
「ねー!お姉ちゃんその絵本読んで!」1人の男の子が声をあげた。
その言葉を発端に一斉に皆が朗読をせがむ。
「え、えーでもお姉ちゃん本を読んだこと…。」
そう返そうとした瞬間だった。
黄昏の公園、ブランコに乗った少しさみしそうな女の子。
脳裏にそんな光景がよぎった。
「もしかしたら、うまくできないかもしれないけどそれでもいい?」
子供たちに尋ねると、みんなが嬉しそうに「うん!!」と言いながら頷いた。
本を貸してくれた男の子にも「読んでもいい?」と声をかけると、嬉しそうに頷いてくれた。
私は、そっと絵本を開いてその物語を読み始めた。




