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黄昏の森の優しいオオカミ  作者: ぐの字
第4章 黄昏の森の優しいオオカミ
14/21

本当の日常

 あの真白な光に包まれた後、私はあまりのまぶしさに目を閉じた。

目を閉じても感じた光が、だんだん和らいで行くのを感じた。そして、その光が完全に落ち着いたと感じたときに、私は再び目を開けた。


 真白の天井、周りを覆う白いカーテン、淡々と響く電子音、そして、私の顔を覗き込んで心底驚く白衣の天使。

私が次に目を開いて、映ったものは『黄昏の森』とは程遠い光景だった。

「ちょ、ちょっと待っててくださいね!!先生、先生呼んできますから!!」

白衣の天使は、慌てふためきながらその場を後にした。

(起き上がるべきだろうか…。)

とは思うものの、私の右腕には血管を通じて点滴が投与されていて、迂闊に動くべきではないと判断できた。

私はベッドの上で、しばらく過ごしたあの森の事、そしてあの心優しいオオカミの事を思い返していた。

(夢…、だったんだろうな。)

寂しさと空しさに苦笑していると、白衣を着て、少し歳を召した白髪の男性が入ってきた。

「ああ、良かった!君が救急搬送されて1週間、ずっと意識が戻らなかったんだよ。」

ほっとしたように優しい笑みを浮かべながら、その人は言った。

「自分の事はわかるかい?」

少し不安げにその人は尋ねる。私…私は…。

「中森…中森愛…。」

「うん、うん、良かった大丈夫そうだ。」

先生は安堵した笑みに変わった。


 その後、私は自分に関することを思い出すように話していた。

自分が勤めていた職場でパワハラを受け、うつ病を発症したこと。それ以来、この病院に通院していたこと。そして、いつものように通院する途中で事故に遭い、この病院に救急搬送されたが頭を打ってしまっていたために1週間昏睡状態に陥っていたこと。

「まだしばらく様子を見なければならないから、退院はもう少し先になってしまうけど、ゆっくり休みなさい。」

先生は穏やかな顔でそう話した。

「あの、でも手続きとかそういうの…。」

不安げにつぶやくと、先生はそっと頭に手をかざす。

「心配しなさんな、入院手続きから保険の対応までちゃんとしてある。」

私は驚いた。誰がこんな独りぼっちの人間の為にここまでしてくれるのか。

「すまんが、それは私の口からは言えないのでね。」

先生はいたずら気味に笑った。私の疑問符が更に増えることになった…。


 それからは問診、検査、諸々を受けて私の身体は徐々に回復していった。

点滴も外れて、体力をつける為にということで、私は院内ではあるが、外を歩き回ることになる。

思い返すように左腕を見てみるが、傷なんてみじんも残ってなかった。

(あの時の苦しみは何だったんだろう…。)


 季節は秋から、冬に移り変わろうとしていた。

植えられた樹木の赤や黄に染まった葉は少しづつ、少しづつ、地へはらはらと落ちていく。

肌寒さに、私はあの森を、あのオオカミの事を思い返す。

(思い出せない…。やっぱり…。)

懐かしさと優しさで、私を包み込んでくれたあのオオカミの思い出は、私の中でずっと燻っている。

(うそつき…、ずっと傍に居るって言ってたのに…。)

もう戻れない場所に思いを馳せながら、肌寒さを感じた私は院内へと戻ることに決めた。

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