俺と梶山さん
今回は梶山さんについてです。
時刻は午前7時25分。今日も俺は職場に着く。俺はこの三辛バードフーズ第三工場の数少ない正社員であるため、この工場のセキュリティ管理を任されているのだ。
いつものように入り口を開けると・・・やっぱりいた。
「おはよう烏間君!」
「おざまーす。」
いつものように梶山さんが挨拶をした。この人はいつも俺より先に来ているのだ。さっきも言ったとおり、この工場のセキュリティ管理は俺が担当している。(正確には作業場のである。)当然そのセキュリティは解除キーがなければ解除できないし、その鍵も俺が持っている。だからいくら早く来ても俺が解除しなければ作業場に入ることはできない。この人はいつも何時から来ているんだろう・・・?まあそれはさておき、今日も俺たちは作業場に向かう。
俺がここに入社してから約3年がたつ。高卒で入社していざ初出勤したとき、俺はこの工場の所長さんから一人の初老の男性と作業をすることになった。その男性こそが梶山さんだった。この人と作業をしていたときは・・・まあよく喋るわ喋るわ。このときから今と変わらずお喋り好きな人だった。その当時俺は正直ウザいと感じ、当初は適当に聞き流していた。
しかし、この人と作業をしていたら、確かにお喋りだが仕事は真面目にこなすし、俺が困っていたら真っ先に手伝ってくれたり、頼みごとを嫌がらずに引き受けてくれたりと色々と頼りがいのある人だと気づいた。他人嫌いの俺はいつしか梶山さんに心を許し、一番頼りにしていた。
「烏間君ってもしかして彼女でもできたの?」
今日の昼休み、梶山さんが唐突に聞いてきた。
「いやいや、いませんよ彼女なんて。何ですか急に。」
突然の質問に動揺しつつ何とか平静を保ちながら否定した。
「いやーなんか烏間君前よりも、なんつーか・・・生き生きしてるような感じがしてねー。」
「生き生き・・・ですか?」
梶山さんの放った言葉に対し、俺は困惑を隠せなかった。忘れてた。この人は見かけによらず妙に勘が鋭いんだった。そして梶山さんは続けた。
「烏間君一人暮らしを始めたって言ってたでしょ。その頃からなんかだんだん変わってきたなーと思ってね。」
・・・その頃からだったのか。自分でも気がつかなかった。まあ、あそこに越してきてから色んな人達と出会ったからなー。
「それでどうなの?お隣さんとかご近所さんは美人さん?」
「・・・・・・ええ、・・・・・・まあ・・・・・・。」
梶山さんの質問に対し、俺は言葉を濁す他ならなかった。まあ嘘は言ってないけど・・・言えないもんなー。そのお隣さんとご近所さんが美少女好きの変態で、しかも俺に至っては幽霊と同棲しているなんて。
「ックシュン!・・・誰かあたしの噂をしているのかなー。」
「ヒクチッ!・・・あらーもしかして可愛い女の子が私の噂をしているのかしら?」
「ップシュン!・・・もしかして可愛い女の子が僕の噂をしているのかな?」
「まあ、女の子の友達ならいますけど。・・・同じ趣味を共感し合える。」
「羨ましいねー。美人さんがいるなんてね。」
「・・・逆に大変だと思いますよ。」
「大変?」
「いえ、何でもないです。」
「そっかー・・・だったら」
と梶山さんは穏やかに、でもどこか真剣さを感じさせる顔をして、
「その人達を大切にしないとだめだよ。」
といかにも大人の男性を彷彿させる事を言った。いつものお喋り好きとは思えないほどだ。それに対し俺は、
「・・・はい!」
と答えた。
やっぱり梶山さんは・・・俺の友人と同じぐらい頼りになる人だ。
次回は真樹視点です。