表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/16

9

 マンダリンさんというギガント族の女子ギルメンがいる。

 新人さんだったのだが、向上心がはんぱなく、装備のいろはから職人まで人にいろいろ尋ねまくっていつの間にかギルドでもガチよりになっていた。

 タイラントでは、金を制するものはガチを制する。

 何をやるにもカネカネカネカネ(BYミョン)である。

 金をいかに稼ぐか。

 金策こそ全て。

 全ては金策。

 金策に始まり金策に終わる。

 それがタイラント。

 その金策を極めた者はレベ上げからレアボス周回、高額装備まで全て手にすることができるのだ。 

 金策で一番いいのは、生産系の職人をすることだと言われる。

 ライト層は何日かに一度できる金策ミッションやドロップ品の転売、アイテム分解による素材売りなどで大体日に3万~15万も資金を稼げばいい方なのだが、彼女は1000万コツコツ貯めたと思うと、一気にその資金で職人レベルをカンストさせた。

 まずライト層の思考ではない。ライト層は資金をそのように投資として使う発想がない。

 1000万投じても、すぐ取り返せる。この思考自体がすでにアッハイでございます。イグザクトリィイイイ!!

 そこでタラオは思った。

 マンダリンさんぱねえ。

 そのままマンダリンさんは生産職を極め、土日で500万稼ぐような廃職人へとご成長された。

 そして最新の高額装備に身を包み、準廃コンテンツにもギルメンと一緒に出かけるまでになった。

 そうはいっても、このマンダリンさん、実につき合いのいい方である。


タラオ「〇〇行く人いませんか~?」

ギルメン「し~ん」


 これが。

 一番辛い。

 その点、マンダリンさんは積極的に「行きたいです。お邪魔でなければ」と積極性と謙虚さを兼ね備えたスーパーギガント。

 なんやかんやでギルドに溶け込んでいた。

 昔からいるグミグミ族のルーミーさんなど、同じ皮職人として、逆に教えを乞う始末である。

 そして誰かが言い出した。


「工場長」


 と。

 

「工場長、皮の軽鎧がどうしても6割成功超えないんです……」


 ルーミーさんが相談するとあーだこーだと指導が始まり、気づくと皆何時間も皮を縫合していた。


「やはり軽鎧成功率6割以下ですか。ルーミーさん、あなたの成績では契約続行は難しいですねえ」

「う、うう、工場長、がんばります。首を切らないでくだせぇ」

「すべては結果ですよ! 精神論では6割ボーダーを超えることはできません!」

「はい!!」

「僕も皮職人やろーっと」


 ミョンちゃんが言い出し、他にも皮職人がどんどん増えて、ギルド内に女工が生産されつつある。

 そんなある日、マンダリンさんから手紙が届いた。

 そしてギルチャでこう発言した。


「今日ギルドを抜けます」


 え。


 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ。

 

 とミョンちゃんが絶叫した。タラオの代弁か。


「色々お世話になりました」


 別れのあいさつにも、私はショックを隠せなかった。

 エアメンと違って、マンダリンさんはギルドに溶け込んでいた。

 一緒にたくさん冒険もした。

 馬鹿な茶番もつきあってくれた。

 そういうギルメンが一人いなくなると、空気が変わるだろう。

 何より、さびしくなる。

 しかし、同時にあれほど色々して『上げた』のに抜けるのか、という思いがちらとでもなかったかと言えば、嘘になる。

 無償というのは難しい。

 どこかに見返りを期待する自分がいる。ずっとギルドにいてくれると思っていた。

 求めないつもりでも、裏切られたと感じてしまう自分がいたんだなあ、とそのこと自体がショックであった。

 小難しいことをいうとあれだが、ミョンちゃんがこう言った。


「涙が出てきた……」


 はっとした。

 ああ。

 小学生。10歳って、どうしてこんなに素直なんだろう。

 そう。

 さびしくて涙が出てきた、と素直に気持ちを吐露できる。変なプライドとか変な自重とかそういうのをとりはらった根底にあるのは……


 私はふっと肩の力が抜けて、こう言った。


「私何の権限もない一ギルメンだけど」


 前置きして伝える。


「さびしくなったらいつでも戻ってきてくださいね」

「うん、いつでももどってきてぇ!」


 ルーミーさんが続けた。

 その後もギルメンから暖かい別れの言葉が次々と飛び交い、マンダリンさんはふりきるように、


「これ以上いると決意が揺らぎそうなので去ります。ありがとうございました!」


 と抜けて行かれた。

 私もかつてギルドを抜けたことがある。とはいえ、サブをギルドに残し、また戻ってきますと言ってこのぽこぺん組を出た。

 しかし、いくつか渡り歩いたギルドを抜ける時、ギルドマスターがあとから「抜けた理由を教えてくれないかな?」と聞いて来られたのを思い出した。

 その時のギルマスの気持ちを、私はあまり深く考えたことがなかった。

 ああ、こういう気持ちだったのかあ、とタラオはちょっと反省した。

 その後、どうしてマンダリンさんは抜けたのかなあと気になって色々手につかなかった。

 すると、久々にあゆゆちゃんからフレンドチャットがきた。


「がおー」

「にゃおーっす」

「!」

「ってギルメンの小学生男子が最近挨拶してくれるんで自分の中で流行ってる」

「えーw」


 あゆゆちゃんには不評である。


「ところで、馴染んでいた廃職人ギルメンがさっき抜けてさあ」

「ほう」

「どうして抜けたのか気になって何か手につかなくて。本人聞きたいけど聞けない」

「聞けばいいじゃない」


 あっさりとあゆゆちゃんは言う。


「タラオシャイだし!!」


 冗談飛ばしてたら、あゆゆちゃんの切り替えしは斜め上だった。


「エルフ娘がシャイとかかわいー」

「wwww」


草生えるわ。私は少し間を置くと、


「なんかさー、気の置けない仲だとマナーとか行方不明になるんだけど、そこそこの距離感で仲良くしてた人には気をつかうっていうか」

「わかる~」


 分かるのか。さすがあゆゆちゃん、対人スキルたけーのぜ。

 その後私は中学生女子のカウンセリングを受けて、思い切ってマンダリンさんにフレンドチャットで抜けた理由をずばり聞いてみた。

 あー、かつてのギルマスたちがフレ茶で理由聞いて来た時の気持ちが分かりすぎるー。

 で、聞いた結果、


「正直色んなギルドを見てみたくて」


 結局、理由はこれだった。分かるます。タラオも同じ理由であちこち放浪したし。

 廃人が少ないライトギルドで物足りないとか、タラオが喋りすぎてうぜーとかかな、と聞いてみたが、とんでもないと言われた。そりゃ本人目の前にしてもあるが、確かに廃コンテンツ誘いたまにすると来てくれてたな。


「すっきりした。時間とらせてすまんかったっす。これですっきり闘技場行けます。殺ってきます!!」

「ひぇっ」

「ヒャッハー!!」


 その後私は斬って斬られて途中中学生の別フレから闘技場誘われて連戦した。

 Qチェロである。

 彼はレベル40用の酷い装備で無耐性で突貫して、このタラオを怒らせた。

 そしてリアル隣で見ていた父に駄目だしを喰らいまくっていたらしい。

 しかしその内私が敵をまんべんなく削って黄色(HP半分に減ると名前が黄色になる)にしたところを、止めさす連携で連戦連勝。

 

「俺達最強」


 とか調子こいてきたので、「調子のるんじゃねー。せめてレベル90装備買えや!」とこの私に言わせた。


「ww」


 いつもの返し。さすがQチェロ。本当悪びれないね。

 そして隣で見ていた父がとうとう我慢できなくなったのか、


「父ちゃんが交代するって」


 と言い出したので、


「お断りします」

 

 しておいた。

 

「www」


 いつもの調子が戻ってきた。ありがとうQチェロ、タラオはいつものように自由にプレイします。

 という次第であった。





 


 

 

 




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ